#5 年上といい感じの先輩は
ワラムクルゥ 02
スグロ先輩最後の依頼主は、一年一組の男の子だった。
問題はその相手だ。彼女はうちの学校の生徒じゃなかった。スグロ先輩は、私とリンコちゃんを連れて、まずその相手を見に行くことにした。うちの生徒じゃないけど、実は私たちは彼女に会ったことがある。たぶん、うちの学校の生徒の多くは彼女に会っているはずだ。
放課後、私たちはバスに乗って駅に向かった。
「先輩は、相手の人と話したことはあるんですか」
私は隣でつり革につかまっているスグロ先輩に尋ねた。先輩は背中を丸めて、ぼーっと窓の外を眺めている。その姿はなんだかすごくおっさんくさかった。
「うん。以前、少しだけね。たぶん向こうは憶えてないだろうな」
「このこと、イサミちゃんには?」
今日、イサミちゃんはやっぱり風邪でお休みだ。
「昨日電話で話した。あっさり断られたよ」
先輩とイサミちゃんはちょくちょく電話で話しているらしい。あのイサミちゃんが電話でスグロ先輩とどんな話をしているんだろう。もしかしたら、ふたりの仲はけっこう進んでいたりして。
いや、それはないか。そんなことを考えていると、あっという間に目的地に到着した。
駅前の雑居ビルの二階にあるその店の名前は『クロスロード』。カラタチ町唯一のレンタルレコード店だ。
「うーん」
店に入ると、スグロ先輩は入り口で立ち止まって、感慨深げに店内を見渡している。
「どうしたんですか」
先輩は深呼吸している。
「レコードの匂いだ」
「そりゃあ、レンタルレコード店ですから」
リンコちゃんがあきれている。
たまに先輩は不思議なことをいい出すのだ。
「先輩、来たことあるんですよね」
「あるよ」
先輩はポケットから会員カードを取り出して私に見せた。
「でも、久しぶりなんだ。すごく」
うちの学校の生徒はよくこの店を使っている。私とリンコちゃんもよくこの店に来る。でも、先輩を見かけたことはこれまで一度もなかった。リンコちゃんはさっさと自分が借りたいレコードを物色している。客は私たちだけだ。
私はカウンターに立ってレコードにスプレーをかけている女の人をこっそりと観察した。彼女が依頼主が付き合いたいと思っている人だ。大学生で、週に何日かここでアルバイトをしているらしい。
いつの間にか、スグロ先輩は何枚かレコードを持ってカウンターに向かって歩いている。どうするつもりなんだろう。先輩は、レコードをカウンターに置いた。アルバイトの女性は、カウンターに置かれたレコードを見て、それから顔を上げて先輩を見た。
「あら。君、確か……」
「お久しぶりです」
「ずっと見かけなかったけど」
「ちょっと旅に出てました」
「何よ、それ」
彼女は笑いながら、先輩が選んだレコードを手に取った。
「ふうん、なかなか渋いじゃない。趣味、変わった?」
「おかげさまで」
「そっか。おススメ、憶えててくれたんだ」
「ひと通り聴きました。最近のお気に入りはチャーリー・パットンとブラインド・レモン・ジェファーソン」
「うわぁ、戦前までいっちゃったか。私も好きよ。かっこいいよね」
「はい」
「あ。カードの有効期限が切れてる。新しいの作るからちょっと待ってて」
私がこっそりと柱の影からふたりのやりとりを見ていると、耳の横で「ねえねえ」という声がして、私は飛び上がった。
リンコちゃんだった。
「びっくりさせないでよ」
「なーんか、いい感じなんですけど、あのふたり」
「うん」
確かに。なんだか先輩と彼女がこのまま付き合いそうな雰囲気だ。先輩はもちろんそんなそぶりは見せず、新しいカードとレコードを受け取って、私たちは店を出た。




