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嘘つきの・私の・先輩が・いうことには  作者: Han Lu
オガワスズコ(高1・秋) ~ Girls Just Want To Have Fun ~
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#2 世界で一番キレイなものは

ワラムクルゥ 02

 初めてスグロ先輩と会った日――『マスター』からの指示をもらってイサミたちと初めてSF研究部の部室を訪れたあの日――図書室で私は久しぶりにレイコ先輩に会った。

 私とレイコ先輩は知り合いじゃない。言葉を交わしたこともない。ただ一度だけ視線を交わしたことがあるだけ。それも三年前のことだ。たぶんレイコ先輩はそのことを憶えてない。だから、正確にいうとこうなる。私は久しぶりに彼女を見かけた。ううん、違うな。ホントはこうだ。私はようやく見つけることができた。私の女神を。

 あれは、私が中学一年のときのこと。

 その日は、前日の夜から降り始めた雪が積もって、町中が真っ白になった日だった。カラタチ町に雪が降ることはめったになくて、積もることなんて数年に一度あるかないかだ。だから、その日のことは今でも鮮明に憶えてる。

 いつも遅刻寸前で学校に駆け込む私にしては珍しく、普段よりも早く家を出た。真っ白な地面を見ながら、一歩一歩を踏みしめるようにして学校までの道を歩いた。雪はまだ降り続いていた。いつの間にか、私の行く先にひとり分の足あとが残されていることに気が付いた。私よりも少し広い歩幅のその足あとの上を、私はゆっくりとたどっていった。

 通りには私のほかに人影はなくて、じっとしていると、雪の積もる音が聞こえてきそうなくらい静かだった。歩くたびに、私の足元で雪がきしきしと鳴った。

 急な坂道の手前で私は立ち止まった。ふと前を見ると、足あとの向こうに女の人が立っている。私と同じ中学校のコートを着ていた。その人は、ちょうど坂道を昇りきったところにいた。私の場所からは、その人と灰色の空しか見えない。

 その人は両手を広げて、空を見上げて立っていた。

 私は思わず見とれてしまった。

 すごくキレイだと思った。すごくキレイだと思ったことに驚いた。だって、これまで目の前の光景をキレイだと思ったことなんてなかったから。人はよく夕焼けがキレイだとか、朝日がキレイだとかいうけれど、私はそういうものを目にしても、キレイだと思ったことはない。有名な絵を見て、キレイな絵だなぁと思うことはあるけど、自分の目の前にある現実の世界をキレイだと思ったことはなかった。

 たぶん、これまで私がキレイだと思っていたものは、ほかの誰かのキレイだったんだ。誰かがキレイだと思ったもの、そういうものがキレイなものだと思ってた。

 その日、私は自分だけのキレイを見つけたんだ。

 どれくらい見てたんだろう。数十秒? 一分? 突然その人はこちらを振り返った。そして、坂の下にいる私に気が付いた。

 目が合った。

 ふわり、とその人は微笑んだ。

 そのとき、私の中で何かが溶けた。とろり、と体の奥のほうで音がしたみたいに。

 こちらを振り返ったのはほんの一瞬だった。その人はふたたび私に背を向けると、坂の向こうに消えてしまった。

 あとには、私と降りしきる雪が残された。


 それから私は学校の中で、あの人の姿を探しまわった。あの日、あの人がこちらを振り返ったのは、私たちが視線を交わしたのは、ほんの一瞬だった。でも私には自信があった。もう一度あの人に会ったら絶対に見間違うことはない。

 私が再びあの人を見かけたのは、雪の日から一ヶ月ほど経った頃だった。

 体育館へと続く一階の渡り廊下で、あの人は男の先生と立ち話をしていた。その光景は私をとても悲しい気持ちにさせた。たぶん私はその先生に嫉妬していたんだろう。

 やがて、あの人の名前とクラスが分かった。彼女の名前は神原麗子。三年生だった。

 学校で私はいつもきょろきょろと周りを見まわしていた。いつもレイコ先輩の姿を探していた。

 でも、レイコ先輩が中学を卒業するまでの数ヶ月間、私は先輩に声をかけることができなかった。私、声をかけたかったのかな。よくわからない。だいたい、なんて声をかけたらいいのか、それすら私にはわからなかった。友達になってください? 私は先輩と友達になりたいの?

 たぶん、違う。

 高校に入って、図書館で久しぶりにレイコ先輩を見た瞬間、私は固まってしまった。それはまったくの不意打ちだった。何かがびりびりと私の体の中を駆け巡った。

 確信した。

 やっぱり私、この人のことが好きなんだ。

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