伊邪那美《イザナミ》
「それじゃあ私達に子供殺しの手伝いをしろと」
「そうです」
「いや!無理です。絶対。そんなの…無理無理無理無理無理。絶対にできない」
秀子は首を振り続けていた。
「いいえやるのです。これは神の命令です」
「何故俺達は子供を殺さなければいけないのですか」
「そうしないとこの世界が崩壊してしまうからです。彼らはこの世の理を破壊する者達なのです」
俺達は普段一般人が入られない本殿の中で、秦からここ数日俺に起こった現象についての大まかな説明を受けていた。
それによると、理由は不明だが俺はあの世で、一人の神を殺めた大罪人である事。その為冥界に落とされたが、冥界を統べる黄泉津大神である伊邪那美命と司法取引のような契約をしてこの世へ流刑されて来たらしい。
その契約とは、俺の刑期は1万年で、芽を一つ摘む毎に50年減刑される。と言うもの。秦は子供達の事を芽と呼んでいた。
それと、俺と秀子の出会いは偶然に思えたが、実はそうでは無いという。
秀子は冥界で看守の仕事をしていた。そして伊邪那美の命を受け、俺の監察官としてこの世に派遣されて来たとの事だった。
「さあもうすぐ正午です。結界が開きますよ」
秦はそう言って舞台造りとなっている祭壇を見る様に促した。
正午になると同時に、祭壇に配置している剣、鏡、勾玉の三種の神器が"ヴゥー"とまるでバイブ機能でも備えているかのように一斉に音を立てて震えだした。
神器は互いに共鳴し合い、やがてその音はその場全体的を震わす程の重低音となった。その時。"ピカッ"目も開けられぬ光が全員を襲った。空間に一つの影も許さぬ光だった。
全員瞬時に目を瞑り、更に手で目を覆ったが光はそれでも防ぎきれない。光から身を守る様にして全員その場にうずくまってしまった。
暫くすると、徐々に光は弱まり、一点に集約されて行くのが、うずくまった状態からでも分かった。やがて…
「苦しゅうない。皆面を上げい。…なんちって」
恐る恐る全員身体を起こし、目を開けてみた。が、直ぐには視力は戻らない。ぼんやりとそして段々と、焦点が合って来た。
完全に視力を取り戻した時、祭壇舞台の上に某電話会社のCMキャラクター織姫が居た。
織姫の有村架純だ。有村架純!!!
「久しぶりだな司。」有村架純は言った。
「久しぶりと言うのはこの世界の時間という概念に従うと、という事だがな。どうだ驚いたか」有村架純はケラケラと笑った。
「私らには形が無いからな、人間が私を見ても先程の様なただの光にしか見えん。だから人間がそれぞれ頭の中で想像しやすい好みの女の姿をして視せておる。言語もお前の頭の中にあるボキャブラリーで話しておるのだ」
「黄泉津大神様」秀子が平伏した。
「おお秀子達者にしておったか」
「はい。黄泉様もおかわりなく」
「うむ」
何だ?秀子の態度がさっきまでと全然違う。
「秀子?」
「司、私思い出したのよ。あの世の事を」
「じゃあ何で俺は思い出さないんだ」
「それは」有村架純は言った。
「それは、こっちに生まれてくる時、自動的に記憶を無くすシステムが発動するのだがな。勿論私らの力で解除も出来る。お前は単に私が解除してないだけさ」
「記憶は解除してやらぬが…」そう言うと有村架純は、スルスルっと舞台から降り俺に近づいた。
「能力は全部解除してやるぞ」
有村架純がぴょこんと踵立ちして俺と唇を重ねた。
このまま死んでも悔いはない…