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具のないみそしる  作者: ひお
現世
18/18

エピローグ 具のないみそしる

∞エピローグ∞

 




 写真を届け終わったならすぐに黄泉の国へ帰ってしまうのだろう、そんな事が頭をよぎって切なくなった、そのとき。ヤスナ君は愉快そうに口の端をあげた。


「すぐに帰るんだろうと、思ったな」


 まさに図星を突かれてしまったら、途端に顔が熱くなる。羞恥ゆえに否定したい気持ちが湧きあがってくるけれど、それをぐっと押し込んだ。だって、つかの間の逢瀬だもの、ここで気持ちを隠したらもったいない。


「ぅん……思った」


 素直に言えたのに、恥ずかし過ぎて顔を見ていられなくなってしまう。

 俯き気味に答えたのだけど、数秒経っても返事がなかった。


「えっと……?」


 恐る恐る顔をあげれば、頬を染めて瞳を逸らし、ほんのり口を尖らせるヤスナ君がいた。


「恥ずかしがって素直な事言うの、反則だろ」


 もごもごと文句を言い、その文句が可愛らしすぎて心が温かくなる。

 かわいぃ……小動物みたい

 あんなに凛々しく威厳のあったヤスナ君は何処へ行ったのか。

 あまりにもじっと見ていたからか、斜めから睨むように彼は言った。


「ぬ、温い目でニヤニヤ見るな」

「ごめん……可愛くてつい」


 耳まで赤くしたヤスナ君は「あーもぅ」と机に突っ伏して、沈黙した。


 一分、二分、と時が過ぎ。

 いささか心配になって声を掛けた。


「ごめん、気分悪くさせちゃったなら謝るから。本当にごめんね」


 すると、突っ伏したままヤスナ君はもそもそ言った。


「言ったろ、あおいの魂は俺のものだと」

「ぅん……聞いた」

「だから有給とった」

「有給とって来てくれたの? れしぃ……ありがとう。あ、じゃあ授業抜けちゃおうか。どこか遊びにいこうよ」


 授業を受けるなんてもったいない。思う存分今日を楽しまなくちゃ。するとヤスナ君は突っ伏した姿勢で、片目だけこちらへ向けた。


「駄目だ、授業は受けろ。学生の仕事は勉強だ」

「でも……せっかく来てくれたのに。明日には帰っちゃうんでしょう?」

「明日は帰らない」

「そっか、じゃあ明後日?」

「明後日でもない」

「んじゃあ、週末?」

「百年」

「え? 耳おかしくなったかな……単位がおかしい気が」


 と、閻魔様は起き上がって背もたれに寄りかかった。


「あおいの耳は正常」

「百年……?」

「そう、百年。百年分有給とった」

「そんなに溜め込んでたの?」


 黄泉の国の労働基準を改革したほうがいいのではないかと、素直に思う。


「勝手に貯まっただけだ。上司が有給とらないと部下も休みにくいしな。いい機会だと思ったんだが……嫌か」


 それって、ヤスナ君が百年こっちにいるってことだ。


「ううん。むしろファビュラス。踊り出したい。でも業務が滞ったりしないの?」

「優秀な部下が揃っているから大丈夫。週に一度様子を見に戻ればそれでいい」

「……なるほど」

「だからあおいはしっかり勉強して、夢を叶えろ」

「がってん承知っ」

「精一杯生きたら、一緒に帰ろうな」

「一緒に……うん。一緒に帰ろう。これからよろしくね。うれしいな、味噌汁に具が入った」

「味噌汁に具が? どういう意味だ」

「ふふ、こっちのこと」


 具沢山の予感に、胸が躍った。







 おしまい


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