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夏休みの冒険譚  作者: ぬんくー
そして僕は初めて認識する。
4/4

夏休みの始まり③

体が全く動かない。五感も機能していない。足元の地面が消えて無限に落ちていくような感覚がする。

何か、何かやらなきゃいけないことがあった気がする。

どうしても助けなきゃいけない相手が……何かが__!

目が開いた。


なんだか酷い夢を見ていたような気がしないでもない。

あれ、今僕は何をしてたんだっけ?


「ってだから近いって……」


目の前には顔がくっつきそうなくらい近い距離にいる友達の顔だった。


「よかった………」


何が?

とりあえずまずはそこをどいてくれ。


手を持ち上げて理久の肩をつかんで後ろにやる。


「ぐえ」


その勢いで僕は起き上がった。


「あれ……?理久?なんで僕の部屋に……?」


じゃない、そうじゃなかった。理久を理科室から外に運んで……それから……?


「僕を廊下に出した後、倒れこんで気絶してたんだから。起きた時下に月夜見が押しつぶされててすっごいびっくりしたんだから」


なるほど、そこで力尽きたのか、僕は。


「心配、したんだからね」


………。


「……わかってるよ。ごめんな」


「……保健の先生がもうすぐ来るから手当てしてもらって。私は今からお母さんの所に行かないといけないから」


「わかった。ありがとう」


理久はようやく立ち上がり、僕の事を見下ろす。


「その……助けてくれて…ありがと」


それだけを言い残して走り去っていった。


「いっつもお礼を言うときだけは…素直に言えないんだよな」


僕だけが残る。

その時、僕は何かを思い出したような気がしたけど、多分気のせいだ。



その後、再び何かが降ってきたりするようなことはなかった。どうやら理久は目覚めた後に、僕を一階のロビーまで運んでくれていたみたいだ。そのロビーにあるソファーに寝かされていたらしい。ぼーっとしてるとすぐに保険の先生が来て、手当てしてもらった。全治一週間。目立った傷はそこら中にあったけどどれも軽傷で収まる範囲らしい。僕は頭とか手を包帯でぐるぐる巻きにされた。保護者を呼んで一緒に帰るようにと言われたが、生憎僕の両親は出張中により不在だったので、一人で帰ると言った。平たく言えば嘘をついてその場から逃げるようにして帰った。

理久はこの学校の理事長であるところの母親に説明をしに行くのだろう。あの人厳しいけどなんだかんだ娘を溺愛しているからな……僕みたいな怪我でもしたらその瞬間僕は退学するどころか首が飛びかねない。額の傷もそれを言ってしまえば大けがみたいなものだけど多分治るだろう。多分。


別棟から本校舎に向かうルートはいくつかあるんだけど、地下一階は立ち入り禁止。一階は保険の先生がまだいる可能性があったので二階から行くルートを使おう。

階段を上り、二階に着く。


後は廊下を通って別棟から出ればいいだけなのだが、そこには人影が見えた。

あれ?僕以外にも人がいたの?てっきり別棟には誰もいないと思ったのに。


背の高さは俺と同じくらいの女子で茶色の髪の毛をしている。いったいこんなところで何をやってるのか知らないけど、ただただ廊下に立っているだけのように見える。


「ん?いや、あれクラスメートか?」


思わず口に出てしまったけど、多分そうだ。同じクラスの子だ。

基本的に人の名前と顔が一致しない僕だけど、4月の自己紹介で話していたのが記憶に残っている。そんなド底辺の記憶能力のせいで友達ができないんだよ僕は。人の名前くらいきちんと記憶しておけよ。


自分に悪態をつきながらその道を通るかどうか一瞬考える。

まあ普通に考えれば素通りできそうなものだけど見た感じ何やら困ってるみたいだ。助けてあげるのもやぶさかじゃあないんだけど理久とのごたごたもあったので、さっさと家に帰って休憩したい。だけど無視したらなけなしの僕の良心が痛む気もするようなしないような……。


「すみません」


とかなんとか考えてたら向こうに発見された。

そっちから話しかけてくるの?そのパターンは完全に予想外なんだけど。

声までかけられてるし。


「えっと、僕のことかな?」


まあ僕のことなんだろうけどとりあえずとぼけたふりをしておく。ふむ。向こうは僕のことを知らない様子だ。クラスメートとしては割とショックだけど彼女を責めてはいけない。まだ同じクラスになって三か月なのだ。いるでしょ?クラスに一人くらい影の薄い異性の同級生が。それが僕だったというわけさ。


「なんか言ってて空しくなってきたな……」


「なんですか?」


「ああ、いや、こっちの話」


「……?そうですか。あの、何かここでトラブルがあったりしませんでしたか?」


結構慎重に、彼女は言葉を選んでるらしかった。

僕を不安そうな目で見てくる……ああ包帯(これ)のせいか。


「ああ、いや別に。これはそこらへんで転んだ怪我だから気にしなくて大丈夫。僕が知ってる限りここでは何もなかったよ」


我ながら下手すぎる嘘だった。頭に包帯ぐるぐる巻きでそこらへんで転んだ怪我ってなんだよ。ガラスの上でも歩いてたんか僕は。実際には下ではなく上からのダメージだけど。


見た目のせいで重傷っぽく見えるけどしばらくたってもめちゃくちゃ痛いというわけじゃないから多分大丈夫だろう。


「そうですか……あの、何か電気関係で問題とかありませんでしたか?例えば……教室の電気が一斉に落ちたとか、いきなり電子機器が使えなくなったとか」


「いや…別に……」


ないようであるような心当たりだった。

それ絶対あの雷のせいじゃん。

避雷針もどきで抑えられてたんじゃないのか理久よ。


「……心当たりがあるんですか?」


やべ、表情で気づかれたっぽい。


心配するような表情から一変、訝しむような眼で見てくる。

ヤメロ、そんな目で僕を見るんじゃない。


「……何か隠してませんか……?」


「え?い、いや何も…?隠してる?何をですか?」


駄目だ、理久以外の人とまともに話したのが久しぶり過ぎて想定外の事態にコミュニケーションがうまくいかない。キョドリすぎだろ僕。


「あなた、確か下の階から来ましたよね…?下の階って確か理科室が…」


良い読みしてるじゃないか小娘。


「……ああ、僕だよ。多分その原因。ちょっと事故っちゃって」


このままどこまで推理できるのか見たい気もしたけど、流石にここら辺が限界だろう。



理久の実験は他人に知られてはならない。

これは僕とおばさん…もとい理事長と交わした約束である。



「そうなんだ…やっぱりあなたが…」


薄々感づかれてもいたみたいだし、これはしょうがないだろう。


「こっちに来なさい」


あれ、口調が変わった。

いきなり命令形ですか?


心なしか目の前の同級生は怒っているように見えた。


「…いや、確かに僕が何か悪いことを君に対してしちゃったかもしれないから謝るけど僕も今急いでいて早く家に帰らないと


「はぁ?」


「ごめんなさい」



案内された場所は理科室のちょうど二つ真上の教室だった。

彼女の言われるがままに部屋に入る。


「うわっ」


そこでようやく怒っているような雰囲気だった理由がわかった。


その教室は視聴覚室のようで、部屋一面にぎっしりとパソコンが並んであった。授業で何回もここにきたことがあるが、今見ている景色はそれとはまったく違った光景だった。

どのパソコンからも黒い煙が出ている。中にはバチバチと火花が飛んでいるものあって(どんな状況だ)とてもここで何かできる状態ではないように見えた。


ガチャリ


後ろで鍵を閉められたような気がしたけど気のせいだろう。多分ね。


「さて、この光景を見て思うところはある?」


すっかりため口になっていた。まあ同学年だし当たり前だけど。


思うところしかない。


そして僕のせいじゃない。


「私、PCG部に所属してるんだけど


「ちょっと待って何そのPCGって」


「Personal Computer Game部。昔この部を作った部長のネーミングセンスが代々引き継がれてるらしいわ」


うん、なんというか。そうだね。いいネーミングセンスだなー。


「酷いネーミングセンスね」


直球過ぎる感想だった。


「私は一応そこの部員なわけだけども、活動実績がないと部を存続できないわけ。だからここで作業をしてたんだけど…見ての通り全部お釈迦になったわ。どうしてくれるのかしら」


「どうしてくれるのかしらって……」


まあ完全なるこっちの非であることは間違いない。ごめんなさいでは済まない範囲の。


「ごめんなさい」


「謝罪はいらないわ。データが戻ってくるわけじゃないし」


ですよねー。


「…ちなみに提出期限とかあるの?」


「あと一週間」


「完成予想は?」


「一か月」


ごふっ。


「……そ、そうだ!バックアップ!バックアップがあるはずだよね?」


「それはあるわよ。ただそこまでこまめに取っているわけじゃない。一か月に一回まとめてデータを保存するだけで、あとはここにあるパソコンに直接データを送ってるし」


「……自分のパソコンにコピーしたりは?」


「自分のなんて持ってない。そしたらわざわざ学校来てやってるわけないじゃない。家でやるわよ」


「他に部員はいないの?」


「今は私と先輩だけ。ただ先輩方と私とじゃやることが違うわ。ただでさえ何度も手伝ってもらっているのにこれ以上迷惑かけたくないから相談もできない」


詰んだな。


「これって、あなたのせいよね」


「……………」


「そ、じゃあ職員室に行くわ」


「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!」


理久のことを知っているのは理事長とごくわずかな教師だけなのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

覚えとけよ理久。この恨みは必ず返してやる。


「正座」


ぐっ!


だが逆らうわけにはいかない。

その場に座り込んで正座をする。


「土下座」


え?


「土下座」


「わ、わざとじゃないんだ!許してくれ!」


「黙れ」


「…………………………。」


首を垂れた。


………屈辱………!!!


「ハァ。あなたの土下座に何の価値があるんだか」


ひでぇ。


自分で命令しといてその感想はないぜ。


「……あなたのパソコンを貸しなさい」


「なんですと?」


「あなたのパソコンを代わりに使うから貸しなさいって言ってるのよ」


「いy……なんでもないです。………いや僕が持ってるとは限らないじゃん!」


「語るに落ちてるじゃない」


……………。


「む、無理だ!僕一応持ってるけど親と共同で使ってるんだ!そもそもノーパソとかじゃないし貸し借りなんてできない!」


これに関しては事実だ。まあその頼みの綱の両親は不在なわけだけども。


「……じゃああなたの家で作業するわ」


「………は?」


今なんて言った?


「だからあなたの家でやるって言ってるのよ。パソコンを貰えないなら自分が行くわ」


貰えないのって……。それはともかくいきなり人の家だって?段階というものを知らないのかこいつは。会ってまだ一時間も経ってないのに。


「と、友達に頼ればいいだろ」


「……あの子に頼むことだけは絶対に無理」


……今日一真剣な表情だった。

何かその友達とパソコンに関する因縁があるのだろうか。究極の機械音痴とか?

それに友達で出てくるのが一人って……僕とおんなじ程度のコミュ力なのかこいつも。


「……はぁ………いいよ。来ればいいさ」


「はぁ?何その言い方」


「来てくださいお願いします」


ナンダコレ。


「じゃあ決定ね。明日にでも取りに行くわ。あなた、家の住所は?」


「……連絡先を教えるからそこにメールするよ」


「私、携帯持ってないわ」


まじか。

パソコンがないのはまあ普通にわかるけどこのご時世に高校生が携帯を所持してないとは……激レア高校生だ。

両親がそういうのにうるさいのかもしれない。それにしても携帯くらいは安全面を考慮しても持たせてあげればいいのに。


「そこのホワイトボードに書いて。それを覚えるから」


「……わかった」


……不安が残るが致し方ない。

高校生にもなって流石に自分の住所くらいは記憶しているので、ホワイトボードに自分の住所を記入する。


「書き終えたらそこどいて」


「はいはい」


僕が書き終わってその場から離れる。


彼女はホワイトボードに近づいて___


()()()()


「持ってんじゃねーか!!!」


「高校生にもなって持ってない人なんてほぼいないでしょう」


「なんで嘘ついたんだよ!」


「連絡先を交換なんて虫唾が走るわ」


……コイツに友達ができない理由がよくわかった。


「これで話すことは終わりね。じゃ、さよなら」


「え、ちょっと


部屋を出ていった。


「………マジかあいつ」


まだ名前も知らない同級生の頼みをあっさり引き受けるなんていつから僕はそんなに親切人間になったのだろう。


「……ま、誰にも頼れない気持ちを知る者としての同情ってことにしておくか……」


頭をかきながら誰に言うでもない言い訳を呟いた。


「……僕も帰ろ」


と、思ったのだけど目の前に広がる光景を見る。


「………………なるほどちくしょう。すぐに帰ったのはそういうことか」


もう二度と手助けなぞするものか。


携帯を取り出し、とある番号にかける。

少し待つと反応があったので、耳に当てる。

どうやらお取込み中だったらしい。


「あの………すいません。視聴覚室のパソコン全台壊れました」


『………………。』


「あの………?」


『………後日。ゆっくり話を聞かせてもらう』


ブツッ


駄目だ。もう今日は厄日だ。さっさと帰って寝よう。

もう今すぐ家に帰るしかない。

八つ当たり気味に扉を乱暴に開け、外に出る。


そのまま家に帰ってふて寝した。

ちなみに視聴覚室を出る直前に、


「あ、そうじゃん。理事長に言えばパソコンの一つや二つくらい貸してもらえるじゃん」


と、我ながら遅すぎる解決法に気が付いた。

そうなったら今すぐにでも彼女に


「……連絡先知らないんだった」


……神よ。僕が一体何をしたというのだ。

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