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夏休みの冒険譚  作者: ぬんくー
そして僕は初めて認識する。
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夏休みの始まり①

天気は雲一つない快晴である。


ついに、ついにこの日がやってきた。

高校に進学して早四か月。数々の苦行を乗り越えて、ついに僕はこの日にたどり着いたのだ。この一か月は絶対に有意義に使って見せる。


夏休みの始まりだ!


「アイム、フリーダァーム!アーハハハハハハ!!」


補修とか、補修とか、補修とか、とにかく夏休みが始まったっていうのに僕に訪れた最初の一週間は平日と同じように学校に通い、普段と変わらないように授業を受けることだった。唯一の違いとしては周りに誰一人としてクラスメートがいないことだけど、そんなものは別にいてもいなくても同じことだ。

本日八月一日の午前いっぱいをもって僕の補習授業は終了である。テストの点数は大幅に合格ラインを上回り、余裕で突破した。この一週間の先生方による厳しい視線のおかげだ。こんな落ちこぼれをも救ってくれるこの学校のシステムに感謝しよう。そして二度と補修は受けん。


新学期からはどう処理してやろうというような眼をしていた。完全に。


さて現在僕がどこにいるのかというと補修が終わったのにもかかわらずいまだに学校内にいる。それは僕を助けてくださった愛すべき教師共に挨拶しに行くわけではもちろんなく、目指すは別棟にある第二理科室である。目指すはというか、実際にはもう別棟にはついているので、あとは理科室に行くだけ。それでも僕の教室(補修のまとめテストをやった教室はたまたま僕が普段勉学を習う教室だった)からは多少移動に時間がかかる。中学とか高校の校舎はなんでこう複雑な構造になっているんだ。慣れれば何ともないけど最初のうちは移動教室があるだけでも一苦労である。


別棟には人はほぼいない。理科室や美術室など特別授業に使われる教室が多いのと、夏休みなのもあって、人の気配はなかった。廊下で大声で叫ぶことが出来るのは良い気分である。ちょっと躊躇いはしたけどね。


廊下を歩き、階段を降りて、目的地に到着する。腕時計はつけていないのでわからないけど、軽く五分か十分は経過しただろう。


「おい理久―?」


理科室の中にいるであろう僕の唯一の友人に声をかけながら、扉を開ける。


「……………。」


音楽室だった。


おかしい、確かにここには理科室があったはずだ。


誰に見られているわけでもないのにゆっくりと扉を開けたあと、何故か僕はその教室の中に入ってしまった。


何やってるんだ僕は。


音楽室にあるグランドピアノにもたれかかる。


大体この特別教室は見分けが付きにくいんだよなー。扉の形も大きさも一緒。しかも扉にガラスが張られていないので中の様子が見えないのだ。周りにその教室に関連するポスターとか器具とかが飾ってあればいいのだがそれもない。別棟は僕たちの普段いる校舎よりも少し、いやだいぶ造りが古いのだ。教室の中に入らないと、特に僕のような率先して移動教室の時に動かない生徒からしてみれば、迷子になるのも当然なのだ。これは僕が悪いんじゃない。教室とこの学校が悪いんだ。


「……出るか」


くだらない言い訳を終えて音楽室から出た。

凄い時間を無駄にした気がした。


えっと確か地下一階なのは間違いないと思うんだけど。

こっちの部屋か?


一度音楽室よりも奥にある部屋に向かう。廊下の突き当りにあるその教室の前に立つ。

ごくり、と生唾を飲んだ。

なんで教室に入るだけでこんなに緊張しなきゃいけないんだよ……。


呼吸を整えて。


「よし、行くか」


扉を開く。


「……!!!!!」


その瞬間僕の視界は真っ白に埋め尽くされた。



何が起きたのはわからないけど、とりあえず尻もちをついておいた。あえてね。

目は依然真っ白に光ったままで、チカチカする。

目の前に光ったのは、いや落ちたのは、まるで雷みたいだ。


なんだ?僕としたことが教室に入るどころか外に出たのか?うっかりにも程がある…と思ったけれど、今日の天気は快晴だ。山に建てられているわけでもないこの進学校校舎にはそのような急な天気の変化とは無縁だろう。


となると。


と、なると、だ。


脳裏に一人の友達の顔が浮かぶ。


視界はゆっくりと元の色を取り戻す。


「…………!よお、理久」


いつの間にか僕の目と鼻の先まで顔を近づけていた友達がそこにはいた。

椅子にうつ伏せに寝そべっているせいで僕との目線が同じ位置になったその少女は僕を見つめて笑った。


「月夜見!久しぶり!」


「………ああ、久しぶり」


日垣理久。


小中高と同じ学校である僕たちはしかし関係性はつい最近まで皆無だった。僕に至っては理久と同じ学校であるということすら高校生の時に初めて知ったくらいだ。家も真向いなのによく今まで気づかなかったものだ。僕が鈍感だという意見は受け付けないよ?同じクラスだったことは今まで一回もないからという言い訳で通させてもらう。

身長は150越えくらいで顔が童顔のためか、高校生に見えない。初めて話した時は中学生かと思った。髪型はかなりの頻度で変えているけど、髪は腰まではいかないけどかなり長めだ。ちなみに今はポニーテール。うちの学校は進学校の割には服装が緩く、私服でも制服でもいいという他の学校ではまず見ないであろう謎のルールが採用されている。最も私服を着てくる人なんて基本的にはいない。この目の前の少女以外は。まあそうでなくともコイツは色々と特殊なんだ。あまり気にするようなことことじゃないだろう。以上、説明終わり。


「……?どったの?腰抜けた?」


よくそんなセリフを堂々と言えるものだ。にやにやと笑うその表情はどう見ても僕をバカにしに来たとしか思えないけど。


「……いや、なんでもない」


ゆっくりと立ち上がる。


「で、今度は何やったんだ?」


僕の目線が一気に高くなり、子供を叱る親みたいな図になった。


「人聞きが悪いよ月夜見!私は悪いことは何もしてないよー!」


「悪いことって自分で言ってんじゃねえか……」


速い話問題児なのである。

僕の聞いた話だと、理久は成績優秀、品行方正、運動神経も抜群で友達もたくさん。先生からの評判も文句なしと体型以外は(口が裂けても言えないけど)文句なしの優等生だ。

……僕の見た話だと、問題解決に対して頭を使わないゴリ押し戦法を好み、年がら年中椅子の上に寝転がりながら移動するという品も運動要素もかけらも見当たらない少女だと言える。世の中の理久に対する見方がおかしいのか、僕がおかしいのか。いやどう考えても前者の方がおかしいと思うんだけど…。百聞は一見に如かずということわざをその身に宿す高校一年生である。彼女で優等生なら僕はどうなるんだと言いたかったけど僕はただのポンコツ野郎でしたね。ごめんなさい。


自分の自虐は今は置いといて。


「おい、今度は何をしたんだ」


「雷を出してみたよ」


「は?」


「光と音を出してみたよ?」


「いや雷の意味がわからないわけじゃなくて」


しかも僕が聞いているのはそういう意味じゃなくて。


「そんなに怒らないでよ。ほらスマイルスマイル」


「目の前で雷が落ちてニコニコ笑うやつがどこにいるんだよ。サイコパスか」


「笑顔を請求するのに対価はいらないんだよ?月夜見。いつでも私が笑えと言ったら君は笑うしか選択肢はない」


「スマイル0円をそんな歪んだ捉え方すんな!」


と、まあこんな感じで。


2週間一度も会わなかったけど、いつも通りの会話だった。

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