時間旅行と電波塔
一体私は今、何をやっているのだろうか。夏休みが終わる一日前に、何故か私は友達でもなんでもない男の家に上がり込んで、リビングのソファに座っている。テレビの前にある、テレビを囲むような形をしたソファの左隅に私が、真ん中には、知り合いの少女が新作のゲームをテレビに映して寝転がりながら遊んでいる。何やら苦戦しているらしく、目元には若干しわが寄っているように見える。
「悪いな、急に集まってもらって」
と後ろから声をかけられる。
悪態をつきながら応答すると、苦笑いしながらテーブルに自分が飲んでいた炭酸飲料を置き、ソファの右側に着席する。心なしか顔色が悪いように見える。私がこの男の心配をする理由なんて皆無だが、初めて会った時からこの男は何か焦っているように見えた。気のせいだと思うけど。
こうして部屋に一同が集まっているわけだが、そもそも事の発端はこの男が切羽詰まったように私たちを無理やりこの部屋に呼び寄せたからである。はっきりとこの口で断ったはずだが、何度も何度もしつこく電話してくるため、やむなくこの部屋に集合したというわけだが…私だけではなく日垣さんも呼ばれていたようである。まあ基本的に私だけが呼ばれるなんてシチュエーションは皆無だ。無いに等しい。あったら今この部屋に私はいない。
10時までこの部屋にいて欲しいというそいつの要望に従って、私たちは特に何をするでもなく、このソファに座っている。
時刻はまもなく9時を回る、ちょうどその時だった。
ガゴン
何か落ちるような音がして、一斉に部屋のありとあらゆる照明が落ちた。
いきなりのゲームの強制終了に少女は「ぎゃー!!」と声を張り上げソファからずり落ちていた。…私は思わずそばにあったクッションを抱きしめていた。
同じようにわめくと思っていた男は、案外取り乱さずに、冷静にスマホの明かりを照らす。
「二人とも無事だな……。ちょっとブレーカー確認しに行ってくる」
と言い残し、あっという間に部屋を出た。
沈黙。
「ねーねー。美雨ちゃん」
と思ったらゲームを置いた日垣さんが私に話しかけてきた。
「何?」
「この1か月、楽しかった?」
楽しかったか、と言われると素直にそう言いづらい。
「まぁ……そこそこ面白いと言えなくもなかった……かな…」
こういう時の天邪鬼な私はこの先きっと友人という存在に出会う事はないんだろう。
「そっかー。それはよかったねー」
にこにこと笑って返事をするこの少女とも夏休みが明けたら話す機会はなくなるのだろう。
こうして私の夏休みは終わるのだ。
それに対して後悔は特にない。
これが、私。私という人間なのだと。
その時、突然視界の一部が眩しく輝いた。
初めは下の階にいるあいつが直したのだと思ったけれど、そうではない。
なぜだかわからないが、テレビだけが、眩しく光っている。
「なん
そこから先の言葉は上手く口にできたかわからない。
私の体は糸が切れたようにその場に倒れこむ。机に頭がぶつかった気がしたが、痛みも何も感じない。体が動かせない。
同じようなことが日垣さんの身にも起きたことを直感した。
何が……なにが、おきているの?
思考もおぼろげになり、はじめる。ねむたい。ねむりたい。
体はすっかりしかんしきり、くらげにでもなった気分だ。
まぶたも重い。
__!!!!………お__!!
だれかの声がきこえる。
___!!……ろ!!目を……!!!___!!
うるさいな。さいごのさいごまでうるさいやつだ。
もう、なんだかつかれた。
ぐい、とからだをひきおこされたようなかんかく
みみもとでおおごえで
ねむい。
なにもみえない。
きこえない。
わたしは
私は。
「……どうなってんだよ!!ちくしょーー!!!」
バタン!!!
何か大きなものが倒れる音がして。
そんな声を最後に私は意識を失った。