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先っちょよ永遠に

まだ死にませんでした(草

「さて、モンスターを退治しようと思うのだが、道案内がいてくれると助かる」

翌朝のこと、勇者様は村の中央に村人を集めて吐き捨てるように言った。

おやおや勇者様のご機嫌がお悪いようで。

なぜでしょうね。

昨日の晩は宴会が始まると村娘たちは勇者様ご一行の周りに座りました。

”はにーとらっぷ”ではないですよ、婚活です。

お決まりの接待で、女性が男性にお酌も致しました。

何がご不満なのでしょうね。


 = = = = =


戦士様と魔法使いさんはなかなかいい雰囲気です。

お酌といえば、差し向えで飲んでいて、ふたりきりの世界だね、爆発しちゃえよ。

でもまあ、微笑ましいですね。

少し積極的な女性と照れながらその気持ちが判ってるようなそぶりの不器用さん。

・・・・!

ありゃりゃ、別嬪さんが俺を隣に呼んでますね。


断れる訳もなく{俺、別嬪さん、村娘たち、勇者様、村娘たち、戦士、魔法使い}と席が決まる。


何なの?この構図、なんかヤバくね?

村娘全員、勇者様にお持ち帰りされてしまいますよ、いやほんと。


俺はというと勇者様に背を向けた別嬪さんから逆に接待されてます。

なぜだろうね?

別嬪さん何を思ったか、さっきから生い立ちやら食べ物の好き嫌いやら自分のことばかり話してくる。

頷きながら聞いていると杯の空だと酒を注いで来るし、肴を食べろと差し出してくる。

俺、初対面だし、村人(その1)なんだけど。

この娘、人生病んでるの?俺、人生相談でもされてるの?


『ソク、だよね?』

小声だったが、初対面の俺の名前を当てやがった、

この別嬪さんは人の心が読めるのか?


「おう、確かに俺はソクだけど。生まれてこのかた村を出たことないから、初めて会ったはずですが?」

「そうね。でも、会えてよかった」

別嬪さんは安堵の混じった溜め息を吐くと座りなおして俺に身体を預けてきた。


なんなのこの女?

この後、俺勇者様に成敗されるの?


 = = = = =


何もなかった。

あの場で成敗されずに済んだ。

もちろん俺からも何もしていない。

いくら別嬪さんでも、初対面の勇者様御一行のひとりじゃ怖すぎて何もできんわ。

宴の余興に八つ裂きの贄とか言われたら逃げられないもんな。


でも勇者様は俺のほうから別嬪さんに粉をかけてると思い込んでる。


 = = = = =


夜が明ける前、村の柵を見回った帰りに勇者様が別嬪さん詰め寄っていたのを見かけた。

<あの男が何かする前に君に近寄らないように忠告しておくよ。心配しなくていい、僕が君を護る>

<大丈夫よぉ、彼はそんな人じゃないから>

<君は気づいていないだけだ!>


おいおい、勝手に犯罪者扱いしないでくれよ。

俺は村でも割と信頼されているほうなんだから。

まあ、今まで経験した数々の記憶を役立てただけなんだけど。

・・・・今度こそは結婚したいな。


 = = = = =


「道案内なら、ソクがいっとうええんだ」

「んな。ソクなんら、モンスタァが居っても知恵で逃げ切れんもんなぁ」

おいおい、逃げ切れないって聞こえるぞ。


こういう時に日頃の信頼が裏目に出てしまう。


勇者様の顔が悪い。

「ソクさんは誰かな?」

見回すわけじゃなく、俺を探してるぞ、絶対。


まずいなぁ、絶対逃げ切れないな。

「あのぅ、たぶん俺です」

聞き間違いの可能性を含みつつも諦めが先に立つ。

おずおずと手を挙げると勇者様がめっちゃうれしそうな顔をした。


「じゃあ、む「ソク、道案内お願いしますねっ!」・・・・頼む」

勇者様の言葉を遮り、別嬪さんが嬉しそうにお願いしてきた。

ちょ、勇者様の顔、魔人みたいだぞ。


 = = = = =


逃げられるわけがなく、納得できないままモンスター討伐に駆り出された。


別嬪さんが俺に絡むから、かなりヤバい。

勇者様の不機嫌が頂点に達しそうだ。


道案内こと俺が先頭を歩く。

モンスターが現れるとおのずと俺がモンスターの正面に立つという立ち位置。

不意打ちだとたまに死ぬ。

別嬪さんが蘇生魔法を使えたので、その場で生き返る。

素早い処置なので転生する間がない。

致命傷って認識できたりすると壮絶な激痛だったりがあるから、もう楽にして欲しいんだけど。


別嬪さんが焦り方が半端じゃない。

「ソク、絶対死なせないからね」

「いやいや、蘇生してもらってるけど何回か死んでるから」

「ぶーーーーー」

別嬪さんが口で言ってるよ、仕草があざとい、騙されてもいいかなって思ってしまう。

悲しい童貞(今回も)の(さが)だな。

なんとか結婚したいな、お嫁さん落ちていないかな。


別嬪さんもいよいよ辛そうだ。

そりゃ、何回も途方もない魔力が必要な蘇生魔法を発動させるとそうなるわな。


仕方ない、手順を変えましょうか。

今までの手順は以下の通り。

①勇者様に花を持たせるために俺が囮になる(これ重要、勇者様の機嫌が悪くならない)

 ↓

②無理してモンスターをおびき出すが、俺だけが運悪く死んだりする。

 ↓

③勇者様御一行がモンスターを狩る。

 ↓

④別嬪さんが俺を蘇生する(これ面倒。勇者様の機嫌が悪くなる)


手順変更後は②でモンスターを仕留める。

勇者様御一行にはしばらく散歩をしてもらいましょう。


むむっ、モンスターの気配、なんちゃって。

潜んでいそうな場所に火の魔法を撃ち込む。

MPの消費量は変わらないままで、炎を針のように細くする。

熱量を凝縮して連射すると岩さえ穿つ。

「ヒィィィィィィーーーーーーーー」

転生を繰り返し、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとこればっかりだったので呪文の詠唱ももう適当でよくなっていた。

魔法の先っちょの火炎さんがモンスターに届くと後発の火炎さん達がそれを押し込むように続く。

数発じゃ生木さえ燃やせないが、実は一気に数千発を撃ち込んでいたりする。


やがて神経を焼かれたモンスターが半身不随で姿を現す。

後は、止めを刺すか、手をかける必要もなく勝手に片付いてくれる。

勇者様御一行の内、魔法使いさんにはわかっているだろうが、詳しくはわからないだろうね。

使った魔法から今の結果に結びつかないだろう。

意外なのは別嬪さんの反応だった。

眼をキラキラさせてこっち見てる。


今度は氷の魔法に切り替えてみる。

「ヒョォォォォォーーーーーーーー」

範囲を狭めて空気に温度層を作りつつ冷気が伸びていく。

こっちの詠唱も適当。

火炎と違って夏でも涼しげに氷霧(こおりぎり)が見られるので涼みたいときに使っている。

脱線を元に戻すと、こっちは狙いどころが重要となっている。

眼でもいいし頭の付け根でも充分で、とにかく脳に近い部分を凍らせる。

震えながらよろよろするが目を閉じるとそのまま動かなくなる。

隠れていた場合、動かないまま絶命するほうが多いかもしれない。


ちなみにどちらの魔法の先っちょも気持ちで向きを変えられるので死角はない。

ただ向きを気にせず放つと障害物を避けながら進むのを見た。

俺から見えないところでも先っちょは方向を選びながら進むみたいだった。

誰かに確かめてもらえばいいかもしれないな。

半年ほど前、雨降りで畑仕事ができなかったとき、一度だけ暇つぶしに国境(くにざかい)の山を一周させてみた。

半日かかってどうにか戻ってきたときは、先っちょを褒めてやりました、いやほんと。

次回予告

次で死にます?

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