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2.君の事情

 約束の夜。


 と言えば大げさに聞こえるかもしれないが、要は今日の夜。


 俺は、彼女の願いに対する答えも出ないままに、公園へと足を向けた。


 昨日と同じ、金色の月が世界を照らしている。


「あ、あの・・・。こんばんは。えっと・・・」


 昨日と同じ服装の女の子が、昨日とは違って少し恥ずかしそうにそこに存在していた。


「あ、ああ。えっと、こんばんは」


「昨日は名乗りもせず、失礼いたしました。山内雪那と申します」


 彼女は深々と頭を下げる。


 言葉遣いといい、態度といい、育ちの良さが垣間見える。ますます、夜の公園とのミスマッチが意識された。


「遠藤孝秋」


「孝秋くん。よろしくね」


 俺のぶっきらぼうの返答のみで笑顔になる彼女は、何をもって空を飛びたいなんて思ったのだろう。


「あの・・・。それで昨日言ったことなのだけど・・・」


 昨日の遠慮なしな態度はどこへ行ったのか。もしかしたら、願いを受けてもないのにここに来た俺の曖昧さが原因なのかもしれない。


「空を飛びたい」


「え?」


「俺も思ったことがある。空を飛びたいって。だから、同じことを言う君に惹かれた。君の理由を知りたいって、思った。だから俺は、今日ここに来たんだ」


 漠然と、毎日が不安だった。ふとした瞬間に、空を飛びたいと願った。


 でも、周りに同じことを言うやつはいなかった。中村や幸助のように、真っ直ぐに前を向いて頑張る度胸は俺には持ち合わせていない。


 俺はずっと、仲間が欲しかったのかもしれない。


「私、心臓の病気なの。あと1年生きられるかも分からない」


 彼女から告げられた現実は、俺の想像の範疇を超えていた。


「ずっと、死と隣り合わせに生きてきた。毎晩病院を抜け出して街の光を見ては、いつか無くなる私の存在を悲しんだ。病院にしか居場所がない私自身を、恨んだ」


「でも君は、生きてる」


 こんな慰め、無意味だ。


「君はまだ生きてる。俺の目の前に、俺の心の中に、確かに存在している」


 それは、明確な死の理由を持つ彼女が羨ましかったからなのかもしれない。空を飛びたいと思うことに、罪悪感を感じていたからなのかもしれない。


 口を突いて出た言葉に、彼女は深く微笑んだ。その反応は、俺にとって予想外のものだった。


「そうよ。私は生きてる。生きて、ここに存在している。それを証明するために、空を飛びたいの。不可能を可能にしたいの」


 彼女が空を飛びたい理由は、死ぬためでも、逃げるためでもなかった。心から、同意することは出来なかった。


 ただ、彼女の言葉には惹かれたままだった。だからかもしれない。


「分かった」


「なら・・・!」


「ああ。君の願いを叶えるよ。俺が、空を飛ばしてやる」


 こうして、彼女との契約は交わされた。


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