王国
「ぼ、僕は……勇敢なる王国騎士、シュツィンだぞっ!!」
駆けつけた先には、二人の柄の悪い男に相対し、木の枝と捨てられていたのだろう…少し朽ちた木の蓋を持ち(盾代わりであろうか?)、怯えながらも逃げずにいる小さな男の子がいた。
「あァ!!?オメーがシュツィンだと!?どこをどう見ても騎士ってタマには見えねぇな!」
「うるさいっ…!僕は王国最強の騎士になるんだ!お前らみたいな悪者になんか負けられないんだ!!」
「ほぉ、言うじゃねェかこのクソガキ!ちょっと痛い目見なきゃ分かんねぇみてぇだな!」
……まずい!男が剣を振り下ろそうとしている。あんな木の蓋じゃまともに防ぐことすら出来ないだろう。だから…
「瞬身ッ!!」
影を倒した時のあの技だ。少女が言うには、それがどんなに普遍的な魔法や技であっても各々が名前を付けるべきなのだという。イメージを大事にする物にとってそのイメージを纏った名前、というのは非常に強い意味を持つのだろう。
何はともあれ、瞬く間に俺は男と少年の前に躍り出た。間髪入れずに脚から腕へと魔力を押し流す。
「剛力!!」
腕に確かな力を感じながらそう叫び、全力で落ちてくる刃を切り上げる。鉄と鉄がぶつかり合い……
「ぐわぁあァっ!!!」
まだ加減が曖昧なようだ。接触した衝撃で男は大きく吹っ飛んでしまった。残った方はそれを見て戦意を失ったようで、のびた男を抱えてスタコラと逃げてしまった。
「……さて、大丈夫だったかい?」
サッと振り返ると、少年は目に涙を浮かべていた。それも無理はないだろう。剣を持った、それも大人にあんな啖呵を切れただけでも上等というものだ。ポケットの中からハンカチを探り出し涙を拭いてやろうとすると……少年はバシ、と手を弾いた。
「な、泣いて、ない!あんなヤツら…僕だけでもやっつけられたんだからな!!」
そう言うとそそくさとどこかへと走っていった。
「なんか訳あり臭いな……」
「追いかけよう。彼が家に帰るつもりならこの森を抜けられるし…それに一回助けたから次はなし、じゃ酷すぎるからな」
その考えにコクリと頷くと、俺達は少年の後を追って駆け出した。
鬱蒼とした視界が開くのにそれほど時間はかからなかった。草原の中に一本、石で舗装された道が通っていた。それを目で追うと……開かれた城門と城壁が見えた。もちろん、城はその向こうにある。
「どうやら着いたみたいだな…」
「だな。どうすればいいのか分からないし、とりあえずはここで色々と聞き回った方がいいだろう」
城壁の中は、当然というか、活気があった。秀斗曰く、「交通が整備されて、訪れる容易さがあるからだろう。色んな地から情報が集まっているだろうから期待して損はない」ということらしい。
とは言え、目的がふわふわとしている上に世界は広すぎる。何か変わったことがないか、と聞いてみても中々めぼしい情報は出てこない。一時間ほど聞き回って手に入れた情報は、最近冒険者を束ねるギルドが出来たことと…以前より暴行や盗難の被害が増えているということだった。後者は実地で経験もしているし、もしかしたら何か関係あるかもしれない……そう考えながら歩いていた。
「危ないッ!!」
は?…そう言おうとした瞬間、強烈な衝撃が俺を襲った。