新たな世界へ
声が、語りかけてくる。辺りを見回してみても誰も居ないし、そもそもずっと続く闇しか見えない。どうやらここは夢の世界の様だ……明晰夢という奴だろうか?にしてはこの状況を変える事が出来ない。
―――――――力が欲しいか?
そんな言葉で語りかけてくる。もう、高校生にもなるというのに…こんな夢を見てしまうくらいに、自分は夢見がちなのだろうか?…とは思いつつも、夢の中ですら大人である必要は無い!そう思い直して素直に頷いておいた。
―――――――願いは、聞き届けたぞ…
その言葉が聞こえた刹那―――――世界が真っ白に明けていった。
―――――――きら、彰!!
ん………寝てしまっていたのだろうか。寝惚けた眼を擦る俺の肩を揺すってきたのは秀斗、何だかんだで縁の長い友人だ。いつも少し逸りすぎな俺の事を諌めたりもしてくれる、落ち着きのある奴…そんな秀斗が何をそんなに慌てているのだろう。
「周りに何も無いんだ!!!」
…………は?……要領を得ない。記憶が正しければ今日は校外学習の日で、このバスは高速道路に乗っていたはずだ、少なくとも俺が起きていた間は。それにここは日本だ。例え高速道路から降りたとしても、何も無いなんて事は……………………あった。窓の外には、何処まで続いているか分からないほどの草原が広がっている。確かにこれは何も無いと言いたくなる。風に心地良さそうに揺れる無限の草原地帯が広がっているのだから。
「なんだ、これ……」
目覚めてからの第一声は、何とも情けない調子のそんな言葉。これ以外に今の状況に適当な答えなんて無い。もしかしたらここが目的地で……?なんて事も考えたけど、バスが通った轍の跡なんて物は見当たらない。こんな事は―――――
バスごとここに飛ばされて来た以外には考えられない。
…寝惚けていた頭がハッキリとし始める。目が覚めたら草原、十数人ほどしか居ない車内、引率の先生はおろかバスのガイドや運転手すら居ない!イタズラにしては手が込みすぎてるし悪質だ…!
「御機嫌よう、皆様」
――――まずは……綺麗だ、そんな印象を抱いた。大理石の彫刻や宗教画……以前の俺はそれらの芸術に内包されていた美しさという物を理解していなかったのだろう。今、目の前に現れた女性は……まさに芸術の行き着く終着点であるようにも感じられた。その女性は、儚げな顔で…それでいて凛とした声で話し始めた。
「…今から話すのは、貴殿方の命に関わる話です。狂っているとか、可笑しいと笑われたり…無責任だ、とお怒りなされるのが最もな事です。身勝手な話で、この大事で貴殿方の生きるはずだった将来への道を閉ざすことになりかねないというのは重々承知しています。どうか……どうかこの世界を、救ってはいただけないでしょうか……!?」
開いた口が塞がらない者、黙して何も言わぬ者、頭を抱えて答えを導き出そうとする者………不思議な事に、誰も喚いたり、女性を罵倒する者は居なかった。真に迫った言葉に加えて、五感全てに訴えかける、ここが夢なんかじゃないという状況。どんなに夢だ幻だと叫んでも変わらない現実が、自ずと彼らの口を閉ざしてしまった。彼女は静かに目を閉じ……深く礼をするとまた話し始めた。
「まず、貴殿方の《クラス》の選定を行います。このカードを手に取って下さいませ」
彼女が指を鳴らすと、目の前に使い古した革製品みたいな色のカードが現れる。物がゆっくりと落ちてくるなんてあり得ない現象も、今ならなんとなく受け入れられる。そんな奇天烈なカードを手に取ると……………
なんだか強そうな男の姿が描かれていた。
どう転んでも、弱いということは無さそうだ。少し安心して隣の秀斗のカードを見てみると、ただの紙切れだった。秀斗が食い入るように見つめているので、カードに描かれた物は本人にしか見ることの出来ないのだろう。そのカードが、何とも言えない感覚と共に身体に取り込まれると……
「……それでは、どうか、この世界を…よろしくお願いいたします」
そんな言葉に続くように目の前が白く、白く染まっていった……