005
「なにをそんなにも焦っている?」
焦る?そんなことはない、ただ――僕はアンジェのあの笑顔をまた見たいだけ……。
眉を潜め、訊いた女の人に僕は思った。
そうだ――その為に、だ。
「その為にも、悪い事を積み重ねなきゃいけない……」
そう呟いて階段を駆け上がろうとした時だった。
「――なんだ!?」
体が動かない……!?
階段に掛けた足が突如として動かなくなったのだ。
無論。足だけではない。体前進も……次第に動かなくなる。
「………」
なんでなんだ、なんで急に!?
「はぁっ……。言わんこっちゃない。見るにソレはアナタ様の渇望ではないようだ。それを自分用に無理やり作り変えているからそうなる」
ため息をした女の人は固まった僕に向かって階段を下り始める。
「ソレ、元々は自分の時間を凍結させるものだろう?周りに流出させるものじゃない――どうやら今まではなにも起きなかったが、暴発したようだ」
僕の前へと降りてきた彼女は、固まる僕の頬へと手を振れ、自らの顔をくっつきそうなほど僕へと近づけた。
「愛おしい瞳……。見ているのでしょう――ミレア様。直しておやり」
くっつきそうなまでに近づいたまま、僕のミレアの宿る右眼を見て彼女は言う。
くそっ……。
動かない、振り払って離れたいが、体が動かない。
きゃはは――。
途端、ミレアの笑い声が聞こえた。
「!?――っ、はっ……」
体が突然動くようになり、息をずっと止めていたかのような息苦しさから解き放たれたような感覚に陥り僕はその場に膝を着いた。
それと共に、祈りが……。
世界へ流れ出たアンジェの祈りは僕へと吸い込まれるように収束する。
「はあはあ……っ。ミレア?」
僕の前に立つ女の人を見上げる。
満足そうに、腕を組み僕を見下ろしている。
ミレアが直したのか……?
きゃはは――。
困惑していると、あの奇怪な笑い声と共に僕の右眼から水滴が流れるように放たれ流れ、ミレアは僕の背後へと姿を現す。金の三又の杖を持ち、フリルとレースで飾られた黒のドレスを着たミレアがふわりと降り立った。