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「いやいや、アナタ様のそれは誤解だ。アタシは世界へ自分の願いを広げる力なんか持っちゃいない。それができるのはおそらく女神と、その女神との契約者。キミ見たいなね。もしくは我らが敵の勇者御一行様ってところだろう。アタシはただアナタ様の力に耐性がある体ってだけだよ」
「なんなんだアンタ。なんでミレアの存在が僕についているのも知っている?なんでそんな耐性なんてある?」
「なんで?そうだね――そんなの簡単だよ。まず前者の質問だが、言った通りその力は女神かその契約者しか持っていない。後者については……アタシが大昔居た水の国の王の子孫とでも言えば分かるかな?元々アタシの一族は、水の女神ミレアウンディーネ様と契約していたのさ。だからこれはその時の名残。血筋に基づくもの。アナタ様がおそらく勇者の使い魔の見様見真似で使っているその力は、水の女神、ミレアスフィール・アルクトゥルス・ウンディーネ様の力を基としたものなのだから。当然そんな見様見真似じゃアタシには通じない」
確かに僕の力はミレアの力を元にした力だ。だから――元々の使っていた血筋のモノには効かない。ありきたりだけれども、ありえない話ではない。いや、何よりも。そんなことよりも。僕のこの気持ちが弱いという訳ではないのか……。それは分かった。分かったけれども、
「僕のこれはフィーのマネじゃない」
そうさ、確かに見様見真似だ。けれども、それはフィーのマネではない。僕はフィーが同じような力を使っているのを見ていないし、何よりも、アンジェが僕をこの力で思ってくれたから、僕はこの力を扱える。あの砦で、あの時――僕に伝えてくれた思い。僕はそれに答えているだけ。ただ、マネしている訳じゃない。アンジェがずっと思っていたいという気持ちを持ち続けたいと願うなら、僕も永遠にと願う。アンジェの願いはアンジェの願いであり僕の願いでもある。
愛している。そう言い続ける。
「そうなのか。カフェセトで行動を共にしていたと訊いたからてっきり、その時にでも見たのかと思ったけれども、なら直接ミレア様にお教えいただいたということか」
生憎そんな訳はない。あのミレアが、懇切丁寧に僕に協力してくれない。
そんなこと――言う意味もないだろうけど……。
結局、殺すのだから。
この人を殺して、他の5人を殺せばいい。それだけだ。
なによりも、ミレアと円と所縁があるのだからなおさら悪い事となる。
「残念な事に、僕もミレアもお互が嫌いだ!」
僕は、右手に取ったナイフを女の胸へと真っすぐ突き入れた。
「焦るんじゃないよ」
「!?――」
瞬間、僕の体はふわりと浮く。
真っすぐ突き入れた右腕は、体を僕の右側に逸らし避けられ、そのまま捕まれるとぐりんと流れるように下に引かれ、同時に僕の体も勢いよく引かれた腕を起点に宙を回転した。
いわゆる背負い投げだ。
僕のナイフを避けたこの女性は、階段という小さな足場でほんの小さな動きだけで簡単に僕を投げ飛ばしたのだった。
「っ~~~」
投げとばされた僕は階段を転げ、すぐ下の踊り場まで落ちた。
「ミレア様の力がないアナタ様はただの子供だと思いだした方がいいぞ?カフェセトからこの国までの数日間、その力でしのいで来たようだけれども、元々アナタ様なんの力も持たないのだろう?」
言って女の人は肩をすくめてみせる。
「うるさい……」
階段で膝や肘など打撲して痛い。大したケガではないが、こういうのが地味に痛い。
ああ嫌だ……早くアンジェのところに行きたいのに……。
手放し僕と共に転がったナイフを手に取り、うつ伏せに倒れる僕は起き上がる。




