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4章はちょっとだけ無双です。
闇落ちの始まりです。
初めに伝えなければいけないのは、僕は後悔をしていないということだ。
愛という前提の元、僕の正義と言うなの元に僕はアンジェを殺した。それ自体には後悔はなく、むしろ誇ってもいいことなのだろう。何故なら、僕はアンジェを好きだったし、好きだったアンジェの為に生きたいと思った。結果、僕はアンジェの為に生きた。あの子がしたいと思ったことをして、あの子が願ったことをしてあげた。
ただ、それは聞きようによっては奴隷なのかもしれない。
奴隷。
愛と言うなの奴隷だ。
あの人の為にあの人の言うことを聞く。あの人が望んでいるからしてあげないと。まるで大様に仕える騎士のように。王の命は絶対。忠実ではあっても、実際その関係には強制力と言うのが働いている。愛もそれと同じなのだ。
自分の絶対的に愛した人の為に忠義を誓いそして尽くす。王と騎士という上下関係はない。けれどもそこに愛と言う強制力が働いているのだ。愛しているから尽くす。これを逆に言ってしまえば――尽くしていないと愛ではないと言えないだろうか?
尽くしていないから愛ではない。だから尽くす。愛しているから。アナタの為にと。
無論、そこに尽くしている側に奴隷と言う意識はないのだろう。事実僕がそうだ、奴隷ではない。僕は僕の意思でしているのだから。強制されている訳ではない。これこそ『純愛』という束縛とも言えるだろうに。
ならば、その奴隷として尽くしきった僕は紛れもなく褒められるべきなのだろう。誇りよくやったと祝われるべきだ。お前は良く愛したと。その愛は最後の最後まで偽りなかったと。
やり切ったのだから今のお前は解放されて当然。自由をつかみ取ったのだ。そう言えるのではないだろうか?
だから――僕には後悔はない。
奴隷というしがらみから解き放たれた今、喜ぶべきなのだ。
喜んで、自由に生き、自分と言うものを楽しむべきなのだ。
本来なら――。
僕はまだ愛の奴隷だ。アンジェのところに行かなくてはいけない。だって愛しているのだからそばに居たい。ずっと永遠に、普通であれば自害して終わりだ。愛の為に一緒に死ねるなんてそれ以上美しい愛なんてないんだろう。永遠の愛。死してなお愛すると誓い死ぬ。けれど、僕にはそれはできない。
自害してもミレアが、世界がそれを許さない。僕を生き返らせる。アンジェのところへはいけないのだ。だから奴隷。生きている間、アンジェを愛している間は永遠に奴隷だ。であるならば、一体僕はいつ解放されるのだろうか?
愛し続ける以上は永遠に奴隷となる。
永遠にだ。愛は僕をアンジェの為にと縛り続けるだろう。
まあ――答えは考えるまでもなく簡単なことだ。
愛すのをやめてしまえばいい。やめてしまえば、その時点で奴隷ではなくなる。尽くさなくてすむのだから。そうしてしまえば僕は悪い事を自分から進んでする必要もなくなる。ミレアの力を使い、自由気ままに生きていこうと思えばできてしまうのだ。
もしかしたら、考えようによってはアンジェへの裏切りが一番の悪い事なのかもしれない。というのもある。
でも――きっとそれは僕はできない。
なぜなら――『純愛』であるから。ただ純粋に愛している。そのことに濁った言葉も心も何もない。だから変わらないのだ。動機がない。純粋であるがゆえに変わることはないのだ。
だから――永遠にこの選択肢を僕は逃れられない。
この先どんな困難があろうと、それがどんな物語であろうと僕の決意とすることは変えられない。悪を貫くだけになるだろう。
始まるんだ、善意でも偽善でもない。悪意に満ちた物語が。