009
おい・・・何やってんだよ・・・。そんなことをしたらその子がケガをするじゃないか・・・。
目の前で起きたことに僕は訳が分からない、なぜ、投げたどうしてそんな粗末に扱う。
「おい!」
僕は牢の檻に飛びついた。
なにする気だ、なんでそんなこと、
「フハハハ――なにって、こうするんだよ」
投げ捨てられ、体を起こそうとする少女の体を覆う布を奪い、腕を抑え、股を広げ――
「いやあああああああああ」
少女の悲鳴が響く。
なんだ、よ・・・これ。
僕は兵士三人が少女にし始めたことに僕は信じられなかった。
「いやああああ――やああああああああああああああ!」
響く、響く、響く、コンクリートの冷たい牢に、鉄の檻に、すべてを震わせるように、悲痛の叫びが、僕の頭を、思考を混乱させる。そんなことお構いなしに、兵士は、この男は少女を犯し始めた、叫びも抵抗も気にしない、ただただ愉快に遊ぶように、悲鳴すらも楽しむ、兵士は。
やめろ――そんなことするな、助けるんだろ?話が違うじゃないか・・・。
やめろおおおおおっ!
檻を手錠で叩き、ガンガンとしたり、檻にタックルまでする。暴れる、止めるために。
けれども、それもお構いなしに兵士3人は犯す、順番に、交互に、更には部屋に新しい兵士が入ってきては出ていきが繰り返された、それは何時間も何時間も続いた。
――気づいたころには、僕も暴れるのを止めその場で膝をとしていた、それに、少女の悲鳴も消えていた。けれども、兵士たちの交代は続いていた、なんど変わったのか知らない、途中から目を背けた僕には分からない。
牢の扉が開き、少女が投げ入れられ、最後に布が放り投げられて牢の戸が閉まる。
いつの間にか終わっていた、日すらも傾いている、何時間続いたのか分からない、長時間だ、朝から夕まで、そんな時間が立っていた。
「よう、体は治るが精神はどうだ?気が滅入って壊れないか?それとも、興奮しちまったか?だったらどうだ?まあ、俺らのおさがりだがな。フハハハ」
僕に兵士が言う。
何言ってるんだ・・・ふざけるなよ。
ガンッ――!
僕は兵士と間にある檻に飛びつき、そして睨む。
ふざけるな、馬鹿げている、約束が違う。
そんな、言ってやりたいことはいくつもある、けれど物凄い怒りが沸いて言葉は出ない、言葉にならない、凄い凄い憎しみだけが沸きあがる。
なぜこんなこと・・・こいつ、ぶっころしてやりたい、ぶん殴って、ぶっ飛ばしてやりたい。
思えば思えば思うほど、檻を掴む手と、睨む顔に力が入る、獰猛な獣のように。
「おお――怖い怖い。まあ、毎日その小娘だけで飽きてきたからな、そろそろ新しいのでも用意してやる、そのん時はお前もそっちで発散でもするんだな」
言い残して、兵士は部屋を出ていく。
待てよ、ふざけるな、クソがッ、
――っ。
檻を思いっきり殴った。
牢の檻を滑るように僕は崩れ落ちる。
何やってるんだ僕は・・・愚かにも少女を助けると意気込んで、かっこつけて、その挙句の果てがこれ、バカだあほだ。
怒りの矛先は消えてしまい、後悔と悲しみに苛まれる
結局、何もできなかった今回も。見てすらいれられなかった、耳をふさぎ、終わるのをただ待つしかできなかった。もう嫌だ――こんなこと・・・。
それでも――僕は動く。
牢に落ちている布を拾い上げ、投げ捨てられ、横たわる少女を仰向けにしてやり、布をかけてあげる。
せめてものことをしてあげる。
少女の横に僕は腰を落とした。
僕は一体何をしているんだろう・・・、この行為すら慰めなのかな・・・。
夕日が沈み牢の中が暗くなる。
僕は・・・、僕は・・・。
「あ・・・っ――」
喉が苦しくなり、涙が流れる。
なんで、僕がこんな目に合わなくちゃいけなんだ・・・、なんで僕が・・・。
「う・・・ひくっ・・・」
もう、何もかもが嫌だ、嫌だ――。
嫌だ――。
「え?」
何かが僕の顔に触れた。
・・・。
少女の手だ、
少女が、僕の顔に手を伸ばしていた。
半目も開かない眼で僕を見て、残っている方の右手を、俯く僕の頬へと伸ばして撫でる。
「ああ・・・」
その手を掴む、もう力の入らないその手を。
少女はもう、いつ死んでもおかしくない。もともとボロボロだった少女に、一日あれだけのことをしていた、途中殴ったりとの暴力も振るっていた。普通なら、死んでいてもおかしくない。
虫の息というのはこういうことを言うんだろう、きっともう彼女はまともに体を動かせない。半目も開かない瞼から金眼が僕を見ているだけ、それでも、少女は僕の頬に手を当てた。
慰めでもしてくれているんだろうか・・・、でも、でも僕は、
「ごめん・・・ごめん・・・」
少女に謝るしかできない、なにもできない僕は、何もできなかった僕は、謝ることしかできない。
僕は、無知だから。
僕は、無力だから。
僕は、愚かだから。
何もできない。
なにも・・・。
――ごめん。
きゃはは――。
聞こえる――笑い声が、あの女神はいまのこの状況を楽しんでいる、愉快で愉快で仕方ないんだろう。少女の手を握り泣く、僕の気持などお構いなしにミレアは現れる。声だけじゃなく、僕の涙を伝い、水の球が人の形をして、少女を挟むように僕と対峙して姿を現す、長く腰下まで伸びる髪を手でなびかせて地面へと降りる。
「きゃはは」
僕たちを見下ろして、笑う、奇妙な笑い声を上げる、奇妙で恐ろしい目の笑わない笑顔で、口を大きく広げて笑う。
なにしに出てきた、わざわざ姿を現してまで、僕の眼を介してじゃなく直接この悲劇的な場面を見に来たのか?だとしたら相当いい趣味をしている、そこまで僕を苦しめたいのか、この女神は。
「きゃはは。いいわ――すごくいいわ。少年、キミのその絶望した顔、凄くいいわ」
笑って、見上げた僕に女神が言った。
やっぱり、直接見に来たのか――だったら、もう帰ってくれ、もういいだろ!こんなの、こんな状況をみて何が楽しいっていうだ!
「きゃはは。そうね、そうよね。悲劇的ね、――傷ましい、痛ましい、むごい、無残、無惨。キミのソレは惨劇とも言ってもいい。でも・・・、だから?」
きゃはは。きゃはは。
笑う、お腹を抱え笑わない笑顔で笑う。矛盾した動作に恐怖すら感じるミレアの笑い。
「その子はキミにとってのなに?なんで泣く?きゃはは。ああ――自分がおかしたミスに泣いているのね?気づいているのならキミは愚かではないってことよ。きゃはは。よかったじゃない――きゃはは」
お腹を抱えねじれ笑うミレアは体を元に戻す。
「きゃはは。その調子だと気づいてないようね、残念それならキミは愚かね、愚か。きゃはは――」
きゃはは――きゃははは。
さっきからなんだ、なんなんだ、きゃはは、きゃははって笑って、勝手に自問自答で僕のことを決めて。僕は、何をしたっていう、僕は何も悪いことなんてしていないだろう、なのになんで、こんな目に合わなくちゃいけない、こんなの理不尽だ。
「ええ、理不尽よ。きゃはは。それと、悪いことをしないからそんな目にあうのよ」
え――?
「今回だってそう、キミは黙って僕を助けてくれって言えばそのまま外に出れた、ゴミのように捨てられても、こんな牢獄ともおさらばできた。きゃはは、愚かね、それなのに少年。キミがあろうことかその子をかばってその子を助けるように言った。きゃはは。だからそうなった、まあ元々されていたようだし、今更なのかもね。きゃはは――。
なに?分からないの?きゃはは――、彼らにとってキミは本来じゃまなのよ、もともと女の捕虜にしか用がないのに、キミみたないな殺せない男の捕虜なんて邪魔になるじゃない。きゃはは、なぜって、それはもちろん報告しなければならないからよ。自分たちが楽しんでいたこの場所に外部の人間を呼ばなければいけない。きゃはは――そんなことをしたら自分たちの悪事がばれてしまう。だからじゃまだった。捨てる気だった、けれどただ捨てるだけじゃつまらない。だからちょっとしたお遊びをした、きゃはは。彼らの行為はただのソレ。
ああ――少年にはここがどこだか分からなかったのよね、きゃはは――飛んでる記憶もページも。きゃはは。まあそんなことはどうでもいいわ、そう毎回のことのようにどうでもいい。
大切なことその子がその状態にあるのはキミが間違えたからってことよ。キミのせい。きゃはは――、
ワタシは忠告したのに、せっかく、せっかく心優しい女神様が忠告をしてあげたのに、それでも――きゃはは、愚かにも助けようと考えるなんてね。きゃはは」
きゃははは――。
笑う、笑う、牢にミレアの笑いがこだまする。
ミレアはそんなことを言いに来たのか、わざわざ、いまこのタイミングで、僕に死体うちをするかのように追い詰めるために、
きゃはは――愚かね、愚か。
きゃはは、きゃははは。
もういい・・・。
「――もういい!」
もういい、そんな、そんなことどうだっていい、そんなことを言いに来たんなら消えろ!
「助ける気もないのなら消えろ!」
僕は怒鳴った、笑うミレアに、それを止めたくて、怒鳴っても解決しないそんなことわかってる、けれど不愉快だった、怒鳴らなければどうにかなりそうだった。だから怒鳴った。
「・・・きゃはは、そう自暴自棄にならなくてもいいのよ」
うるさい、うるさいよ・・・。
「きゃはは。少しからかっただけよ?きゃはは」
さて――とミレアは一回転する。
それは、なんか切り替えの儀式かくせなのか?あのよくわからない空間でも回っていた気がする。それを見て、不思議と僕も冷静さが戻ってくる。
「さて――ワタシが少年を笑うだけの為に空気を読まずに出てきた訳とでも?そう思うなら、そうで結構。きゃはは。でもねそろそろ停滞も飽きてきたのよ、物語的にもワタシの仕事的にも。時間の無駄と判断したから出てきた。きゃはは、ワタシって仕事熱心よね
さあ―もっともっと楽しい物語にしてちょうだい。きゃはは、
だから――その子を助けましょう」
不気味な笑みを見せ、ミレアは――予想外にもそんなことを言って見せた。
「もちろん――少年、キミの手でね。きゃはは――」