027
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そのまま真っすぐ――。
森の中を駆け抜ける僕にそう指示される先は赤く燃え盛っている。
森が燃えている。
僕はそんな事をに気にも留めず、真っすぐ炎の中へと入り進む。
熱い。燃えている森の熱が焼けるように熱い。――いや、実際焼け焦げているけども。それでも――そんなことにいちいち気にしてなんていられない。
フィーを追って行ったアンジェを探さなければいけないのだから。
「っ――」
ジリジリと焼け焦げる皮膚と煙を吸うことによる息苦しさ、そんな拷問にも似た痛みに耐えながら僕は駆け抜ける。
本当に、こんなところにアンジェが居るのか?
不安と心配。ミレアへの不信感はあれど、今はそれに頼るしかない。それに――。
「きゃはは。信じなさいな」
この一点張りである。
今は信じて炎の中を突き進むしかない。
「嘘だったらただじゃ済まさないぞ!」
「きゃはは――」
僕の脅迫を笑い飛ばしてくれ。
「もうすぐよ」
ミレアの言葉に僕は反射的に走る速度を上げた。
「――アンジェ!どこだっ!」
どこだ。どこにいるんだ?こんな火の中で――一体どこに。
気持ちが焦る。
熱気からの汗なのか、冷や汗なのか分からない気持ち悪い汗が沸き上がって、足の速さを体が加速させる。
焼ける木々を熱さも痛さも気にも留めず振り払い突き進む。
そして――
森を進む先、ようやく僕はアンジェを見つけた。
「アンジェ!」
燃え盛る森の中で、小さな彼女はうつ伏せで倒れていた。
慌てて駆け寄り地べたに滑り寄り、無我夢中でアンジェを抱え。
「アンジェ!」
強く抱きしめるその小さな体は動かない。意識を失っている。それと、抱きしめて滑った感触で気づく。
何かがついた自分の手を見ると。赤い何かがついており。――それは直ぐに理解できた。
「……血?」
血だった。
それも半端な量ではない。フリル可愛らしい服は真っ赤に染まって、まるであの砦の時のことを思い出させる。けれど――これはあの時とは違う。あの時は全て返り血だった。兵士とメイドの返り血。でもこれは――。
アンジェの血だ。
服には胸当たりに二か所弾丸が通った穴があり、そこからほぼ全身真紅に濡れている。
どうして……どうしてこんな……。
「アンジェ!ねえ――アンジェ!」
どうして――!
喉を押し殺すような重みを、壊れんばかりの叫びで吐き出す。
それでも、どの重みは取れず。次第に無意識に歯が潰れそうになるぐらい噛み締め。目元も重くなっていく。
「アンジェ!――っ」
起きてくれ。
頼むから、起きてくれよ……。
そう声に出すことができず、心の中で叫ぶも目を瞑ったままアンジェは起きてくれない。
「アン……ジェ…ッ……」
動かないアンジェを強く抱きしめる。力をこめて強く。強すぎて小さなアンジェを押し曲げてしまいそうな。
何も考えられないその僕にミレアはきゃははと笑った。
そうしてこう声をかけてくる。
「きゃはは――心配ないまだ生きている。傷口も塞がっているわ」
けれども、ソレは僕に届いていない。
気づかず、僕はアンジェをただ抱きしめる。
「少年?」
どうして……どうしてなんだ……。
別にアンジェは何も悪いことはしないだろ?なのになんで……。
悲観する。ただただ悲観する。
燃える炎の熱も痛みも何も感じない。押しつぶされそうな重みだけが喉と胸をただ締め上げられる。
牢に居た時の悲しみとは違う。
あの痛さや死にたさとは違う。
ただただ締め上げられる。
重くのしかかる。
それだけで、それだけなのに――なにも考えられなくなる。
アンジェ――。
自分は何をしていたのか?なんでここに居るのか。それすら分からなくなる。いっそここで眠ってしまいたいとすら感じる。
アンジェ……。
「………」
ふと、アンジェを抱きしめ俯いていた僕は顔を上げる。
赤く、赤く森は燃えている。木々は焼け落ち倒れるものまである。けれど、そんな燃える音も熱も感じないし聞こえない。ただ――ゆっくりと時間が流れていくかのように世界は流れていくのだけを、僕はまるで傍観するかのように見えた。
虚無感がひしひしと広がって。それでも変わらない現実が目の前にある。
何もできない自分。
傷つくアンジェ。
いっそ死ねればいいのにとどこかで思う。
けれども――世界はそれを許さず、ただ時が流れ続ける。
すべてが焼け落ちていく。
「………」




