026
土煙と共に墜落し着地したフィーは己を撃ち落とした者を見据える。
「ミツケタ」
そうだ――みつけた。見つけた。
もう逃がさない。
木の枝に立ちアンジェは己が撃ち落とした獲物を見下ろす。
「ドコヘイクノ?」
何処へ行く。ニガサナイ、ニガシテなるモノか。
おかあさんを殺したアナタは絶対に許さない。
「この――」
自分を見下ろすアンジェをフィーが睨みつける。
それとほぼ同時に辺りを炎が包む。
先ほど見えていた光の正体だ。
赤い炎。熱い熱気が二人の周りを包んだ。
森が炎を帯、灼熱の地獄と化す。
「ねえ――いつまでそんな壊れたふりしてるの?」
壊れた?違う。そんな――。
「それとも、マコトさんに嫌われるのが嫌なのかな?」
「ッ――」
笑みを浮かべ挑発ぎみ言うフィーにアンジェは、瞬間的に姿を消しナイフを斬りこむ。
「コノ――」
「だからさあ――そういう場合じゃないんだよね」
「コノ――コノコノ」
光速を超えて空間に割り込む斬りこみ。それをフィー羽は全て受け止め弾き返す。無論、フィーは動いていない。立ち止まり、ひとりでに動く剣の中心んで呆れ顔で言う。
お互いに祈りを唱えそれを形にしそれを纏っている。けど――それでも同じ土俵であるはずなのに、アンジェのナイフは届かない。
「いつまで壊れたフリを装ってるの!」
ガキンッ――っと二本の蝶の羽を模した剣が舞ってナイフでそれを受け止めるアンジェを吹き飛ばす。
炎上する草木に中に落ちるが、時間が止まっている自分には何も感じなければダメージはない。
けれど――。
重く胸に何かささった感覚がする。
重苦しい。フィーちゃんの言葉が自分に刺さるような。
重い……。苦しい……。
決して煙を吸って、苦しいという訳ではない。ただ重い。理由は分からない、けれどとまってなんていられない。
炎を帯びる草木から起き上がり、フィーちゃんと対峙する。
「ねえ――アンジェちゃんと遊んでいる暇じゃないんだよ。教団が攻めてきてるんだよ。このままだと木の国の人がいっぱい死んじゃうかもしれないんだよ?」
だから――だからって――。
そんなのは関係ない。
「大体――ああもういいやめんどくさい」
二丁の銃を抜きアンジェの方へ向けてくる。
きっとフィーちゃんはアンジェのことやおかあさんのことなんてどうでもいいんでしょう。
ただ面倒なこと――そうとしか思っていない。
アンジェは自分の命を懸けてでも見つけたかったおかあさん。
アンジェにとっては生きている理由でもありました。
起きたら誰もいない。そんな世界で唯一生きる希望や目的でもあった。そうして、これからお兄さんと一緒に楽しい旅ができると思った。
なのに――それがすべて、なくなった。
それを、めんどくさいなんて一言で済まされるなんて……。
憎くて憎くて仕方ない。
「ユルサナイ」
「アルター、ティ、ビー」
アンジェの憎しみなんて眼中にない。フィーが単語を唱えると、アンジェに向ける双方の銃に刻まれた語順のような文字の一部が輝きだす。
それとほぼ同時に銃は火を放ち、双方から一発づつアンジェへと撃ち放たれた。
けれど――それをアンジェは避けはしない。
自身の時間は止まっている。それは鉄よりも固く絶対的な防御となっている。魔力を帯びた銃弾程度で貫かれるはずがないからだ。 フィーが持つ自身と同じナイフであれば話が別であるが、それ以外はなんの問題もないはず。
自分の祈りとウンディーネ様には絶対的な自信と信頼を持っている。故に――避けない。
ただ、睨む。
けれども……。
えっ……。
二発の弾丸は。アンジェの体を貫いた。
本来絶対にありはしない。停止した時間を貫通して双方の銃弾はアンジェの体を通過した。
衝撃と驚きと共に、アンジェは崩れその場に仰向けに倒れ、同時に紅く纏う思いも消えて四散する。
「自分が特別だと思った?だからマコトさんにそんな自分を見せたくなかった?知らないけど――うぬぼれないでよ。たかが女神如きの加護も受け止めれないのに、フィーの邪魔なんてしないで」
そう言うとフィーは拳銃を収めると、再び燃え盛る森の奥へと飛んでいったしまう。
「どうして……」
分からない。どうして――自分の思いは絶対なのに……自分がお兄さんを思う気持ちは本物なのに……。
自分の力が貫かれたことは自分の想いが貫かれた破られたことと、同じことだとそう感じる。でも――自分は間違いなくお兄さんが好きだ。それなのに、いとも簡単に撃ちぬかれてしまった……。
訳が分からない……。
ただ――それよりも、なによりも……。
悔しかった……。
痛みは感じない、ただ熱気を放つ森の中で重く動かなくなって体は動かない。それでも――首だけをフィーちゃんが飛んで行った方向を睨みつける。
遠い。何処までも遠い。
燃える森の先は真っ暗で、フィーちゃんの姿はもうありません。それが”遠い”と感じるのです。
追いつける気がしない。
憎くて仕方ないはずなのに……それが届く気がしない。
まるで、自分の思いがフィーちゃんの思いに負けたそんな感じがして……。