022
「オニイサン――!!」
後ろで撃たれた僕を見たであろうアンジェが、驚き、フィーを僕ごして見ら見つけているのが分かる。
「大丈夫!!――だからアンジェ、お願いだ……正気に戻ってくれ……いつものキミに……」
決して、アンジェを心配させてはいけない。だからこそ、
後ろは見ず、フィーを睨みながら治った腕を再び広げながら僕は言った。
「ねえ――どうして君はアンジェのお母さんを殺したの?君だって本当はアンジェと戦いたくないんだろ!?」
分からない。分からないこそ、訊く。
こんな、明るい子が、どうして自分の姉を殺したのか分からない。
それに、信じられない……。
「どうって?それを知ってどうするの?フィーがどんな理由であいつを殺していようが変わらない。フィーはアンジェちゃんを殺さなきゃいけないし、そこのミレアも捕まえてなきゃいけない。マコトさんには要はないの……だからどいて欲しいなぁ。今度は加減しないよ?」
そう言うフィーの持つ銃は僕の頭へ的確に向けられている。
確かに、結果は変わらないかもしれない。事実はそうなんだろう。フィーがアンジェの母を殺したのは間違いない。
だとしても、そうだとしても、させれてない、許さない。
アンジェは殺させないし、アンジェには戦わせない。
ミレアも、不本意ではあるが渡せない。
これだけは譲れない。全てはアンジェの為。何もできなくても、僕はここを譲れない。
だから、僕はここに来てフィーを殺そうとした。
アンジェを悲しませるなら、いっそ森の中で行方不明になればいい。
いつの間にかいなくなり、そして気づいた時には忘れている。そうして欲しかった……。
そうすれば、アンジェがこんなにも悲しむことなんてなかったのだから……。
僕はひどい奴だ……。
ああそうか……そうだよね……。
支離滅裂な今の自分の行動に、僕は自らの行動原理を思う。
結局、僕はフィーやアンジェの母のことなどどうでも良いんだ。ただアンジェが笑ってくれれば。アンジェが笑ってくれれば。そんなものどうだって良い。
ただアンジェの為に――。
なのに……なんだこれ……。
酷いったらありゃしない。
アンジェの為を思ってこんながむしゃらに、無茶苦茶に。
いいや――それしか僕には出来なかった。この世界での僕はあまりにも無力なのだから。
あの砦での数日間でそれを思い知ったのにも関わらず、こうして悪あがきをする。
成せる力がないのに、悪あがきするからこんなにも頓挫する。
だからと言ってそれはやめられないし、止まらない。僕はあの牢獄で誓ったのだから……。
アンジェの為に、アンジェの為に生きると。
どんなに悪いことだってしてやる。この子の為ならばと……。
だから、僕はここは意地でも退かない。
何発でも撃ってこい。痛みなら耐え慣れてる。絶対にアンジェは傷つけさせないぞ。
そう誓って、僕は二人の間を分かちフィーを睨み続ける。
「……そう言うの、フィー嫌い」
そうやって睨み続ける僕との間に生まれる緊張を、不意にフィーはそんな言葉で潮流を変化させる。
すごく投げやりな、そんな言い方だ。
フィーもフィーでこんな状況に嫌気がさしているのだろうか。
分からない――分からないが、そんなこと気にする余裕がないほどのに、次の瞬間自体は一変する。
それは突如となく起きたのだった。
『――!?』
大きな大砲を撃ちだしたような爆発音が森へ響き渡り、木々を揺らして地をグラグラと揺らした。
震度5強はあるだろうその大きな揺れと衝撃は、ここにいる全員が自体を忘れ去る程の異変だった。
その揺れは立っていられず、僕はその場に屈み静止する。
勿論、僕だけもなく二人も屈み静止ししていた。
そして揺れはしばらくすると収まり、森には元の静けさが戻ると僕たちは立ち上がり、辺りを見渡した。
「いまのは……」
思わず、呟いてしまう。
地震は大きかったが、幸い木が倒れるなどそう言った二次災害は起きる様子はないようだ。
とは言え、何故急にこんな大きな地震が?
「さあ?」
銃を向けたまま答えるフィー。
その瞬間、フィーの背後森の奥から大量の蒼い蝶が飛び出して僕たちを襲った。
「っ―――!?」
眩い蒼い粒子を漂わせ砂嵐のごとく僕たちを通り過ぎる無数の蝶に、僕はフィーの攻撃か?そう思ったがそうではないようだった。
(キケン――)
(あぶない)
(にげて)
(キョウダン)
(キョウダン)
(キョウダン)
(燃える)
(あぶない)
(あぶない)
(キケン!!)
(キケン!!)
(キケン!!)
恐らくは蝶から聞こえるのだろう、小さな女の子のような声。そのすべてが、僕たちの間を過ぎ去りながら悲鳴を上げるかのように警告をする。
危ない、キケン、ここに居てはいけない。逃げろと。
逃げ惑う野生生物のごとく僕たちを飛びぬけていく。




