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正しき魔王の旅記  作者: テケ
三章 ふぃーフェアリー
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020

 見耳元で、ささやかれる。

 

 アナタには無理だと。アナタではどうすることもできないのだと。

 

 事実そうだ――結局、アンジェを泣かせてしまった。悲しい思いをさせてしまった。

 だからと言って――今、ぶつかり合う二人の間に入ることなどできない。

 

 方や瞬間移動するアンジェ。

 方やそれを予測して、アンジェの動きを読み防戦するフィー。

 

 二人とも、常人の域じゃない。僕が割って入ったところで、またあのナイフで刺されるのが落ちだ。

 入ることはできない……。

 

 それに――今のアンジェは……もう、正気ではない。

 

「コロス……」


 斬り合っている中で、アンジェの表情は次第に消えて行き、無表情その物になっていた。小さく呟いたその言葉さえ、感情はもうこもっていない。ただ、目の前の邪魔するものを殺すための機械的なものになっている。

 

 こうなってしまったアンジェはもう止められない。

 僕があの時、砦でされたように、

 

 己が敵とみなした相手を殺すまでは……。

 

「あははははっ!――すごいや、アンジェちゃん!早い早い!こんなに早いのマスター以来だよ!」


 アンジェの速度もそうだが、それにつ入れ行けているフィーも異常だ。

 すべてアンジェが動く前に予測し、受けきっている。それどころか、楽しんですらおり、アンジェを手玉に取っているようにすら見える

 

 動き自体は常人のそれだが、先に動いている分、アンジェの速度に対応できてしまっていた。

 

「どうする少年?そうするの?きゃはは――」


 僕の耳元でささやくミレアは、楽しそうにそう言ってくれる。

 

 どうするって……。

 僕はアンジェを止めたい。

 

 いくらなんでもこんなのひど過ぎる。たとえフィーがアンジェの母を殺した仇であろうと、彼女は一度はアンジェの友達になりえた子だ。そんなこと戦わせるなんてあんまりだ!

 

 僕はできる事であれば、この戦いを止めたい。戦わず話せばわかり合えるだろうと。何よりも、殺したという事実だけしか僕たちは訊いていない。それ以上の情報は何もないのだ。どうしてそこまで至ったとか、なんで殺したとか、そういうモノを何一つ知らない。

 だからこそ、納得ができない、今この現状にも。

 アンジェの為に嘘をつけなかった自分にも。

 

「――っ⁉」


 ついにアンジェの動きを読み切ったフィーがアンジェを蹴り飛ばし、アンジェはその勢いで、僕たちの方へ吹っ飛ばされた。

 着地し、地面を削り、ながら下がるアンジェに、容赦なくフィーは銃弾を浴びせる。

 

 けれども、それはアンジェには当たるものの、まるで金属にでも弾かれたのようにアンジェの体は弾いた。

 

「オカアサン……オカアサン……」


 自分を愛を邪魔するものは許さない。その呪いは僕だけが対象ではなかった――。アンジェの母もまたアンジェの愛する人。その人を殺したなんて訊けば、こうなるのは必然だった。

 

「ありゃ~。なるほど、そーいう仕掛けかぁ」


 銃撃が効かないと見るや、フィーは何かに気づいたようで、マガジンを銃から落とし、後ろ腰から変えのマガジンを出しつつリロードしながら言って見せた。

 

「さあ――どうするのかしら?少年。きゃはは――」


 耳元でささやくミレラ。

 

 どうって……。

 

「すごいね、それ。自分の時間を止めて、空間に無理やり割り込んでるんだ。膨大な魔力が必要な魔法でもそのペンダントの魔晶石で補ってる。――でも、それってミレアの加護を直接受けてるってことだよね?生身の体に、いくら妖精でもそんなことすればただじゃすまない」


「オカアサンヲカエシテ……」


「ああ……それが、その代償かぁ。もう一人のアンジェちゃん?それともどっちも同じかな?まあ――大体なんとなくわかるよ、フィーも似たようなもんだから。好きな人を好きすぎて溜まらない。だから――きっとアンジェちゃんとフィーは決して分かり合えない。だって、フィーはあのバカ姉のことは嫌いだけど。アンジェちゃんは大好きだもんね。だから分かりえない」


 だから――と……。

 やはり、フィーもアンジェと戦うのは本心では望んでいない。

 けれども、立場や今までのことがそれを許さない。

 

 フィーはリロードの終えた銃口をアンジェへと向ける。

 

 アンジェも、今にもまた飛び出しそうだ。

 

 僕は……。

 

「傷は癒えたわよ……」


 その言葉を訊いた瞬間、僕は掛け出した。

 

「マコトさん?」


「オニイサン……?」


 あろうことか、二人の間に割って入り、アンジェをかばうように両腕を広げて、フィーを見つめた。

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