017
銃を向けている手とは別、左手で後ろ腰からフィーは何かを抜き取る。
そうして、その抜いたもの襲い掛かった僕の胸へと突き刺したのだった。
身長の位置からちょど僕の胸当たり、そこにサファイヤの刃が刺さった。
そして――それを素早き抜くと、フィは僕の胸へと蹴りを大きく入れ、僕の体は宙に舞い、ミレアの前へと仰向けに転がった。
っ―――!
刺された痛みと、蹴られた痛みで僕は顔を歪めながら、天を見る。
きゃはは――そんな笑い声と共に、あの奇妙な笑わない笑顔で僕をミレアは見下ろしていた。
くそっ……。やっぱり僕じゃなにも……。
己が無力さを呪う。
小さな女の子相手でさえ、僕は何も止めることはできない。
こんなことで、アンジェの為に生きるなんて……。
「おにいさん!――どうして!どうして?フィーちゃん!」
胸を突かれ、吹き飛んだ僕を見てアンジェはナイフを構え直してフィーへと向き直る。
真剣に、許せないという表情で。
ダメだ……。このままだとまたアンジェの呪いが……。
呪いが発動し、暴走をする。
できる事なら、アンジェが友達と思ったフィーとは戦わせたくない。殺し合いなんてしてほしくない。
必死に立ち上がろうと、傷の痛みに耐える。
傷なんてすぐに治ると……。
「――なんで……?」
立ち上がり、見下ろした胸は傷は治っていなかった。
赤く染まるワイシャツ。そこから血はにじみ出ている。
痛みも引かない。
僕の体は、自動的に傷が癒えるのよになっている。それはミレアの加護であり呪い。だからこうして刺されたりしても大丈夫な羽津だが。それなのに、治らない。治っていない。
っと――よろりとふらつき、後ろにいたミレアに持たれかかり抑えられる。
「きゃはは――ああ。ダメよあのナイフは」
ナイフ?
言いながら、僕の傷口を凍らして塞ぐミレアの言葉にフィーの左てに持つナイフを見た。
サファイヤの宝石でできたかの刃。金色の柄。そこには見えないが、何か文様が刻まれている。そんなフィーの小さな手には余る大きさのナイフ。
まるで――
「アンジェのナイフと同じ……」
僕が答えを出す前に、アンジェが告げた。
そう、それはまさしくアンジェのナイフと同じだ。形大きさ。刃の色はアンジェはルビー。フィーはサファイヤとことなるが、その二つは全く同じものと言っていい。
なによりも、その効果さえも同じ。
アンジェが砦で、暴走し僕を殺そうとしたその時、僕はアンジェのナイフに刺された。その時も今みたいに傷がすぐには癒えず、ミレアの直接の処置によって回復した。
僕だけの回復力では回復でできなかった。
それが、今こうして同じように起きている。
だからこそ分かる。フィーのナイフとアンジェのナイフは同じものだと……。
「なんで!どうして?――アンジェと似てて!アンジェと同じナイフ持ってて!フィーちゃんなんなの!?」
僕がやられたことによって、動揺も最大へと達し、錯乱をすら始めたアンジェは叫ぶ。
当たり前だ。自分と瓜二つな上に同じナイフを持っている。そんなものが目の前に居るのだから。まともでは居られるわけがない
他に共通点を上げるなら妖精や妖精と話せるのも同じだ。
まるでドッペルゲンガー。
だからこそ、困惑している。アンジェ――にはなにが何なのか分からないから。
「なんでって――そっか、知らないんだ。このナイフのこともフィーのことも。薔薇のことも。妖精のことも。お母さんのことも」
「えっ……?」
お母さん。その言葉を訊いた瞬間。アンジェから闘志や錯乱のようなモノは消え、静止したように感じる。
ダメだ――アンジェ……。
このことをキミは訊くべきではない。
訊いてしまったら、きっとキミは……。
「やめろおおおおおおおお!」
痛みに耐えながら、ミレアに抑えられながら叫ぶ。
いけないと!
アンジェが悲しむ様子何て見たくない。
何故なら――
フィーが笑みを浮かべ、
何故なら――。
「フィーの名前はフィーナ・フェアリーライフ。最愛なるマスターの赤薔薇の守護者。最初の契約者にして妖精の王。――それと、魔王に付いたバカ姉、ローゼリア・フェアリーライフを殺したのはフィーだよ」