016
「どうしてですか、フィちゃん!どうしてこんなこと!」
アンジェの慌てている様子から、アンジェも僕と同じようにフィーがこんなことをするなんて思いもよらなかったのだろう。
おそらく、居なくなった僕を追いかけて高速で魔法を使いここへ来ただろうアンジェは大きく動揺していた。
それほどに、信じられない。
僕もアンジェも、森で出くわした明るい女の子というイメージからは思えない程の、殺気がフィーから出ている。
色が異なるが、あの時と、あの砦の時と同じように、想いのオーラを纏い宝石が紅くオーラと共に光る首飾りをしたアンジェが、フィーへと問いかる。
同様するアンジェに、フィーは眼を下へと背けた。
何か、悲しむように、何かを残念そうに、もしくは何かにガッカリしている。
「アンジェたち……友達じゃなかったんですか?どうしてこんなこと!」
その問いかけに、フィーは小さくため息をついた。
何かに呆れているという様子で。
瞳を上げると、憐れみの瞳でアンジェを見て――
「言ったじゃん……フィーたちは良いお友達に”なれたかもしれない”って……」
なれたかもしれないって……。
アンジェとフィーが二人でどういったやり取りをしたのかは知らないが、二人きりの時にフィーはフィーでアンジェの情報をなにか仕入れていたのだろう。
だからこそ、なれたかもしれない。そう言った。
一緒に居た時の笑顔やアンジェと楽し気に喋っているのは嘘ではなかったのだろう。純粋に、森の中ではアンジェと居ることを楽しんでいただから、彼女もまた、ガッカリしているのだろう。
なれたかもしれない……。そうなれたかもしれない。
なによりも、僕にとっても、フィーはアンジェの友達になれたかもしれない。そう思うとかなりショックなものだった。
ああ――ショックだった。
だって、フィーはアンジェとは決して友達にはなれやしない。
「どうして?」
何も知らないアンジェがフィーへ疑問を飛ばす。
アンジェも納得がいかないんだろう……せっかくできた友達なのにと……。
だからって、それを説明するのか?アンジェにこんな神様の嫌がらせのような事を教えるのか……。僕には出来ないできなかった。
フィーはミレアやアンジェを狙っている。そう――だから僕はフィーを狙った。
けれど、それとは別にもう一つ、大きく別の理由があったからだ。
僕は、女神や勇者の件とは別に一つ話をしていた。
それは、アンジェの母について、少しでもアンジェの力になろうとそう思って。そうしてそれはクレリアさんから訊けた……。
訊いてしまった。
けれども、だからこそ、僕はアンジェを決して傷つけたくない。
それは嘘をついてでも、アンジェが悲しむ顔なんて見たくない。
もう見たくないだから――。
「どうしてって……。じゃあ改めて自己紹介しよっか。森の中じゃ、慌てててその辺かるくーくすっとばしちったし。ねえ――アンジェちゃんのフルネームは?まだ訊いてなかったよね?言いたくなかったのかたまたまなのかは知らないけど。なに?」
無垢に純粋に、彼女は聞く。そこには悪意などない。ただ、知っている事を伝えるがために。
「アンジェ・フェアリーライフです……」
ナイフを構える彼女は、恐る恐る答える。
それを訊いて、うん……やっぱりと、何かに頷くフィー。
そうして、やっぱり?と訊くアンジェにフィは答えようとする
「フィーは――」
けれど――僕はそれは、それをさせたくない。
「フィー!」
一目散に目の前のミレアを追い越し、フィーに向かって駆けだした。
右手に収まるナイフを突き刺し、彼女を止めると。
こんなことでアンジェを悲しませるなんて事でできない。僕は恨まれたっていい!だけどアンジェだけは絶対に傷つけさせない。
「うおおおおおおおっ」
アンジェの横を通り過ぎ、驚くアンジェを背に、僕は銃口を向けるフィーへと必死に食らいつこうとした。
普通なら、この時点で銃を向けているのだから撃てばいいだけのことだ、だが――フィーはそれをしなかった。
否、しなかったのではない。
する必要がなかったのだ。




