015
その微笑みを僕は警戒しつつ、まるでじゅうたんのように無数に止まる蝶の元へとフィーへ近づこうと一歩踏み入れる。
蝶は飛び立ち、蒼色の粒子が花吹雪のように美しくチリ盛る。
「こんな夜中になんのようだい?」
「ん~」
訊いた僕に、彼女は蝶を手から飛ばし口元に指をあて唸る。
その彼女に、僕は油断を一ミリも許さないように、一歩、また一歩と蝶を止まる蝶を羽ばたかせながら彼女へと近づく。
彼女は危険なのだから……。
「もう知ってるでしょ。なんなら、その後ろに隠してる氷のナイフでフィーとやり合う?」
そう言われ、僕はピクリと止まる。
ばれていた。――そう、僕は右手を背にここに入る前に氷の魔法で片手に収まる程度のナイフ形成し隠していた。
何故なら――彼女はもう僕たちが心を許せる相手ではない……。
クレリアさんや二人の女神から訊けたこと。そのもう一つ……。
「ねえ?ミレア、覗いてないで出てきたら?じゃないと――」
右手で左腰に止めていたホルスターから、彼女は蒼銀の銃を抜き、僕へと真っすぐ向けた。
その銃口が刺す先は間違いはない、僕、いや――。彼女が狙っているのは。
その瞬間――。
「っ――!?」
銃は爆音と共に火を噴き、弾丸を撃ち放った。
音に驚いた周りの蝶が、すべて飛び立ち、薄暗い森の中へ消える。
無論、いきなりのことに驚いた僕も、反射的に目を瞑ってしまった。
撃たれた。そう思った。
けれども――弾丸は僕の体を射止めてはいなかった。
……眼を恐る恐る開ける。
「――ミレア!?」
杖を持ったミレアが僕の目の前に現れていて、そのミレアの前で、弾丸は宙に水の塊に座れるようにして漂っていた。
その弾丸入りの水の塊が瞬間的に氷になると、カランっと地面へと落ちた。
「きゃはは――。いやだわぁ、短気な子は。きゃはは――」
フィーを見るなり笑って見せた。
「殺す」
クレリアさんや二人の女神から訊けたこと。そのもう一つ……。
それはミレアを殺そうとしてる。
それだけではない――おそらく、アンジェも標的だと……。
だから、僕は警戒した、手にナイフを持ち殺そうと狙った。
アンジェの為に。彼女に危害を加えるものがいるなら、僕は――なんだってすると誓ったのだから。相手がなんであれ、僕はアンジェを守らなければならい。
それが僕の唯一の正義。
笑っていた表情が、鋭いものとなりフィーはミレアを睨む。
「相変わらず、嫌な性格だね。ああ嫌だ――いやだいやだっ!――フィーは本当ならアナタの顔なんて見たくない。声も聴きたくない。でも、会っちゃったからには仕方ないよね。何をしてるかなんてどうでもいい。アナタがここに居るのがいけない、アナタが居ることがマスターを悩ませる。だったら――フィーはマスターの為にそれを潰すだけ!」
山の中であった元気な女の子という雰囲気とは全く違う、怒りに狂うような、まるで自分に言い聞かせるように、叫んだ彼女は、銃をミレアへと向け構え直し、撃ち放つ。
三発の銃声が森にこだまする。
その瞬間、何かが茂みの中から飛び出した。
「アンジェ?」
飛び出したのはアンジェだった。
赤色の衣のようなオーラを渦を巻くように纏い、飛び出した彼女はフィーとミレアのちょうど真ん中へまるで獣ように目にもとまらぬ速さで着地すると、銃弾をルビーに輝く刃を持つナイフで、全て切り落とし弾き飛ばして見せた。




