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正しき魔王の旅記  作者: テケ
三章 ふぃーフェアリー
73/175

013


 なにする気なんでしょうか?

 

「ドーン!」


「ひゃ!?」


 突然お湯を溜めた桶を振るい、フィーちゃんはぶっかけ来ました。

 

「何するんですか!」


 お湯を頭から受け、くせ毛だったフワッとした髪はがしなッとして、全身びっしょりに湿ったアンジェは叫びます。


「アハハ――ッ」


 このっ!なんだかムカつきました。

 アンジェもお湯を溜め、ブンと桶を振りフィーちゃんはへとぶっかけてります。

 

 バシャりと笑うフィーちゃんの顔面に、お湯が降りかかり、笑っていたフィーちゃんも、ひゃっと声出し身をかがめました。そして、楽しそうに笑うのです。

 

「楽しいね!」


 笑いながら、本当に楽しそうに言うフィーちゃん。

 なんだか、こうまで素直に楽しんでいるフィーちゃんになんだかムカつきます。

 

「むう――アンジェは楽しくないです!」


「まあまあ」


「もう――」


 膨れるアンジェに、フィーちゃんが抱き着きます。アハハと楽しそうに、なんだか、それに怒っているこっちですら楽しくなるみたいに。

 そうして、ふと目の前の鏡を見るのです。映るのはアンジェとフィーちゃん。まるで瓜二つの顔がそこにはありました。最初に会った時に思っていましたが、似ています。髪と服装が違ったのでそう見えるだけかと思ってもいましたが、こうして、結った髪を解き、お互いにお湯を被って濡れると、よく分かります。同じなのです。雰囲気はもちろん違います。ですが――あの、殺人衝動みたいな、アンジェの中のもう一人の自分が、今ここにいるような感じです。それが、なんだか怖くも感じました。

 

「どったの?」


 鏡をじっと見つめていたアンジェに、抱き着いたままのフィーちゃんが言いました。

 言って。似てるねっと笑いかけています。

 

 不安も吹きとばすぐらいの笑顔。なんだか、こんなに似てるなんて、

 

「フィーちゃんがお姉さんみたいです」


 そんな感じがしました。

 

「ん~。フィーはお姉さんより、妹が良いなぁ」


 なんだか複雑そうな顔をして、アンジェから離れます。

 

「なんでですか?」


 なんか、気に障るような事を言ったのでしょうか?なんだか嫌がってる感じはないようでしたが、ちょっとフィーちゃんのテンションが下がった気がします。

 離れ、隣に座りお湯を出し、石鹸を取り始めたフィーちゃんにアンジェが訊きます。 


「ん~。お姉さんってなんか、こう――あまりいい思い出ないんだよね」



 いい思い出がない?アンジェにはいないのでよく分からないのですが。ふむ……。

  

「はあ。お姉さんがいるんですか?」

 

 石鹸を取って体を洗い出すフィーちゃん。訊き、アンジェも同じように洗い始めます。


「――居るっていうか。居たかな?」


「居た?」


「喧嘩別れしちゃって――それっきり。ん~、だから――」


 突然フィーちゃんが体をあわあわにした状態で、

 

「とうっ――」


「ひゃっ」


 飛びついてきました。お互いにあわあわだったので、あわが飛び散り、突然だったのでアンジェの体は、そのままフィーちゃんの勢いに耐え切れず押し倒されました。

 いだっ――。勢いよく倒れたので、その衝撃が背中に響きます。

 

「もーなんなんですか急に」


 仰向けにフィーちゃんがアンジェを押し倒す状態になったまま、アンジェが訊きます。訊くと、アンジェにのっかったフィーちゃんがにししと笑って、

 

「おねえちゃーん!」


「へえ!?」


 抱き着いてきました。


「フィーは妹がいいから。アンジェちゃんがお姉ちゃん!お姉ちゃ~ん」


 抱き着いてきて、くねくねとアンジェの体にすり合わせきます。

 

 ちょ――もう、なんなんですか、この人は!

 

「あっ……ひゃっ」


 くねくねと、石鹸のぬるぬると柔らかなフィーの体が、擦り合わさりって、すごくこしょぐったくて。んもー。

 

「胸もまないで!」


 すりすりと手を動かして、アンジェの胸に手を乗せ、ソレをすりすりします。

 暴れますが、フィーちゃんの力は強くほどけません。その間にもほどけないアンジェの体をあちらこちらスリスリ、スリスリと。

 やっ――あっ――。


「や、やめてく、くださーい!」

「アハハ――!」


 その後、楽しそうに笑って、アンジェの体は隅々まで洗いまわされました。

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