010
「きゃははは。ここに居たの?わざわざ国に戻るなんて、見上げた愛国心ね。きゃははは――」
「いやー、それがさー。結界を出たのは良いけど、マリアはうっさいし、かと言ってどこか行く当てもない訳じゃない?しかも、見つかれば絶対あの子はアタシを捕まえに来るし。いやー、フィーちゃんとキミたちが突っ込んできた時は焦ったなー。フィーちゃんにバレるってことは、間違いなくあの子にバレるってことだからねぇ~。ホント、バレなくてよかったー。あっ――もちろん、アタシが居たことは勿論、この後も内緒ね?」
ニパニパと笑い、女の人は僕たちのことを気にも留めることもなく、マシンガンのごとく喋る。
その光景に、クレリアさんは、はあっと小さくため息をついた。
「まあ――どうせ、バレておるがの」
「ええー!」
「あれはああ見えて、勇者の使い魔ぞ?お主も勿論おそらくは……」
ミレアお前もだと続けるようにクレリアさんは、ミレアを見る。
「きゃははは――でしょうね。あの子ワタシにも気づいてるわよ。けど……きゃははは。相当動揺してるみたい。きゃははは」
同様?そんな感じは見えなかったのに……あれが?それよりも――、
「あの……僕はどうしたらいいですか?」
ここに居た方が良いのか?という。すごく気まずい。なんだか分からないが、数百年ぶりの同窓会みたいなこの状況。すごくいずらい。何よりも、僕に話の内容が分からないのがつらい。
「ふむ――マコトと言うたかの?お主、ミレアスフィールとはどういう関係じゃ?」
問われ、僕もすごく答えに困る。どういう関係って、どういう?僕も分からない。大体、強制的にこの世界に無理やり連れてこられて、いい事をできない制約もつけられて……。僕が困ってると気分で助けてくれて、条件ありでアンジェを助けてくれた。
「……利用し合う中?」
考え込み、出てきた答えはそれだった。
「きゃははは――」
僕の答えに楽し気に、ミレアが笑う。それから、僕の横に立っていたミレアの横、僕とは逆の方に黒い椅子が僕の方を向きで現れて、ミレアはそれに腰をかけ、足を組み肘掛けに肘を着く。
ミレアは、偉そうに僕を見下ろした。
「きゃははは――そう。利用し合い利用する中。きゃははは。少しは愚かじゃなくなったじゃない少年。きゃははは」
すごく不愉快な笑い声と表情で、楽し気に笑ってくれる。僕の気も知らないで……。僕としては理不尽すぎるこの世界に、大迷惑しているんだけども。あもー、なんだろう。それを思うとなんだか腹が立ってくる。けど、この疫病神がいるからこそ僕もアンジェも生きているのは確かだし。アンジェを助けることもできた。それは感謝している。感謝しているけども、なんだろうすごく尺に触る。
「そうとう嫌な中の様じゃな」
僕の顔を見たクレリアさんが言った。
僕はいつの間にか不機嫌な顔になっていたようだ。
「それで?それはどいう仲だ?」
「そうそう!意味わかんなーい!大体、その子この世界の子じゃないでしょ?アンタこそなんてことしてくれちゃってんのよぉ!」
「ほう。この世界の者ではないと……」
クレリアさんと無邪気な女神様がミレアへと訊いた。
というか、やっぱり女神なら僕がこの世界の人間ではないことは分かるのか……。何を基準にして判断しているのかわからないけど。ここでは、僕の秘密はまるっきり浮き彫りになっているようだ。
砦で捕まったように、話がこじれて捕まんないだろうな……?
「きゃはははは――」
僕の不安を知ってか知らずか、ミレアは僕たちをあざ笑った。
「――愚か愚か。ああ――愚かねえ。きゃははは。フィーには聞かれては困るのでしょう?手短に行こうじゃない」
きゃははは。きゃははは。と笑い。ミレアはそう提案する。
そのミレアは、最近でもっとも楽し気に見える。すごく、性格悪いよな、ホントこの女神。まあ、向こうのクレリアさん側のあっちの女神も、なんだか女神らしからぬ無邪気な性格だけども……。ミレアに言われ、「んー」と腕を組み考えこむ木の国の女神様。それに合わせて、クレリアさんもキセルを吹かし、一間を開け考える。
「――そうじゃの」
カンッ、という音共にクレリアさんが言った。
「して、何から話そうかの?」
疑問や話題は尽きない。いくらでもある。それは僕も同じだ。たくさん知らないことはある。
ここに来て、ミレアが結界なるものから抜け出したこと。フィーが勇者の使い魔だということ。魔王との勇者のこと。僕の知らない、知りたいような話がいくつも出てきた。できることなら、全て知りたい。
「きゃははは。――では。ラナ。まずは少年に自己紹介でもしてもらうかしら。知っての通り、彼はこの世界の人間ではない。だから、アナタのことは知らないわ。こう見えてワタシは、愚かで嫌いな少年、第一主義なの。それぐらい、愚かなアナタでもできるでしょう?きゃははは――」
考え込む女神様に、ミレアがまずは、っという。いわれ、それでまでずっと「んー」っと考え続けていた女神様は「あ、うん」と気づいて僕の方を見た。
「はいはーい!イエーイ!アタシは女神!この木の国を守護する、ラナ・カフェセト・ドリアードとはアタシのことよ!特別にラナって呼んでいいわよー!」
胸に方手を当て、デデーンとでも効果音がなりそうな、自己紹介をする、女神様。それはすごく自慢げなどや顔をして、僕に向ける。
「元じゃがな、守護しておったのは300年前の話じゃ。今は放浪するただのうるさい幽霊じゃよ」
ハイテンションな木の女神ラナとは裏腹に、クレリアさん淡々と補足というか、ツッコミをしたのだった。それには、ラナはえぇー!っと反論している。
「きゃははは。愚かね……。では、話を進めましょうかしら。きゃははは――」




