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正しき魔王の旅記  作者: テケ
1章 偽善ジャスティス
7/175

007

「起きろ」


 んー?なんだ・・・。


 暗闇の中で僕は呼ばれた気がした。


「起きろって言ってんだろ!」


 うッ――!?


 腹部に激痛が走る。


 僕は目が覚めた。


 目が覚めると僕は、腕を上で手錠で繋がれ、ぶら下がっていた。


 どうやら、今のは腹を殴られた痛みのようだ。


 僕の目の前に三人の兵士がいる。


 全員悪党じみた顔で笑っている。


 そうか・・・僕はさっき牢屋から、この拷問部屋なのか尋問部屋なのか分からない部屋に連れ込まれたのか。


 で、まあ。察するに、今から僕を痛めつけるために起こしたのだろう。


「小僧、一応尋問だからな。聞いておく。お前は何者だ?名前は?出身は?なぜあの場所にいた?」


 そう言って、僕の顔面を殴った。


 殴って、殴って笑う。それにつられて他の二人も笑う。


 いたい・・・。


 どう見たって僕の素性なんて興味ない感じだ。


「正・・・」


 名前は義善治 正だ・・・。


 そう言いたかった。


 なのに、頭が回らない。声が出ない。


「マコトぉ?」


 兵士は険しい顔をして僕をのぞき込んで――。


「聞こえないな!」


 そう言って、僕の顔をもう殴る。


 兵士達は笑っている。


 やっぱりだ、聞く気なんかない。


 こいつらは僕を殴りたいだけ。


 そんなのに何が意味あるんだ・・・。


 もう、なんだっていい・・・。


 もう考えるのすら、やめたい。


「ああん?さっきまでのいせいはどこいった。まあいい。気乗りしない小僧に今日はいいことをしようと思ってな」


 脱力して、手錠につられるだけの僕に兵士は笑い言う。


「おい!」


 僕を殴った兵士が合図すると、後ろの兵士が何かを部屋の隅から取ってきて。


 ニタニタと笑い。


 それを――僕の腹部へと刺した。


 あっ――・・・。


 引き抜かれる。


 うあッ――。


 衝撃と共に何かが僕の体を貫き、引き抜かれた瞬間、ドクドクという心臓の音が体に響き僕の腹部から暖かい何かが流れる。


 痛みはない。ただ熱い。腹部が焼けるよに熱い。


 そして熱と共に次第に痛みが沸き、


あああああああああああああああっ――!


 痛い!


 刺された!腹を!


 剣で!


 裂けるような激痛が僕の腹部を襲う。


 痛い!


 くっ・・・。


 僕の傷は、傷口は流れた血が水のように透明になって傷口に時間を戻したかのように戻り、ドロドロと塞がっていく。


 傷口は完全に塞がる。


「はははっ――思った通りだ。こいつはいい。もっとやってやれ」


 うあっ・・・。


 後ろに下がった兵士が言い、僕を刺した兵士がまた僕を刺す。


 そして、剣を抜く。


 あああアアアアーー!!


 また、僕の腹部に激痛が走る。


 反射的に、張り裂けるように悲鳴を上げる。


 傷はそれでも治った。


 僕の意思と関係なしに。


 他の二人の兵士も、剣を片手に僕の周り集まる。


 そして、刺す。


 剣で僕を。


 刺しては抜き、傷口は治り、また刺す。


 胸、腹、脇腹、肩、腕、股、足。


 体の至る部分を刺す。


 そのたびに僕は悲痛に叫び、意識が飛びかける。


 それでもまた刺され意識は強制的に戻される。


 何回も、何回も、何回も。


 そして、いつしかそれも"刺す"だけではなく、斬るに変わる。


 剣を振り胴を斬りまた刺す。


 僕の傷が治る前にそれは何度も繰り返される。


 それでも、それでも僕は死なない。


 死なない。


 不死身の体は死なない。


 不死身かどうかは知らないけどここまでされてしなないののであれば僕は不死身なんだろう。


 痛みは、熱さは、恐怖は――消えない。


 増していくばかり。


 兵士達の剣を振るう手は止まる。


 その瞬間、僕は楽になる。


 その瞬間だけ僕は痛みから解き放たれる。


「ここまで死なないといい気晴らしになる」


 兵士は笑いながら言う。


 もうどの兵士が言ったのか分からない。


 痛みで頭は回らない。


 生き地獄っていうのはこういうのを言うのかな。


 少なくとも、いまこの現状は地獄だ。


 苦しみは止まらない、痛みは止まらない。


 もう、殺してほしい・・・。


 今度は何か僕の首にかかる。


 輪っかになったなにか・・・。


 その輪っかは縮んでいき、僕の首を絞めつけた。


 うっ・・・あ・・・。


 息ができない。


 苦しさに僕はバタバタと暴れる。


 ただ、腕をつられているため僕はフラフラと揺れるだけだ。


「あ・・・た・・・すけ・・・」


 苦しい、気持ち悪い。


 助けて。


 うあっ――。


 首を絞められ、吊られている僕に再び剣が腹部に刺さった。


 今度は抜かれない。刺さったまま。


「これは、死んじゃいますかねぇ」


 僕に刺した兵士が笑いながら言った。


 そして笑って、剣を引き抜く。


 それでも、傷口は治る。


 首が締まり、回らない酸素の分も体の中で再生し続けるのも感じる。


 苦しい。


 痛い。


 あああああああ・・・。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああ。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。




 気づいた時には僕は牢に投げ戻されていた。


 人間ってのはいいようにできているらしい。別に、意識がなくなったわけじゃない、僕はしっかりと意識はあった。


 ただ、途中から痛みは消え何も感じなくなっていた、何も考える訳でもなく何も感覚を得ず恐怖や不安もなく。


 僕はなにも感じない人形のようにただただ、拷問を受けた。


 一日中――夜になるまで、兵士は入れ替わりで僕をなぶり殺しに。


 そうして、兵士たちも飽きて僕を牢に入れた。


 そのあとそれと同時に僕の感覚は戻った。


 本当に、人間の体ってやつはよくできてると思うよ、壊れそうになるとそれを制御しよとしてすべての感覚を遮断するなんて、しかもその後こうやって楽な状況になると都合よく遮断された感覚は戻る。


 そんな自分にずるくも感じる、けれども、なんども殺されているようなもんなのだからそんなことを言ってられない。


 そもそも、普通の人間ではありえない状況なのだから。


 一度意識が遮断されて僕の不安は消えていた、というより麻痺してんだろうな、あんなに斬っては刺されを繰り返されれば大抵のことはどうでもよくなる。


 ここが薄暗いほこりっぽい牢獄だろうが、そこから出られないであろうが、首を絞められ何度も斬っては刺されを繰り返されるなどあんな苦しい思いをするよりは全然マシだ。


 僕は牢に投げられ倒れていた体を起した。


 朝の暴れた一件があったためか、腕には手錠、足には枷が付けられている。


 これじゃあ、まるで囚人だな――まあ、捕まってるという意味ではそうなんだけど。


 辺りを見る。


 朝からずっと気になっていた、少女があの後どうなったか、兵士に抱えられ連れ去られた少女が――。


 ・・・・・・。


 どうやら帰ってきていた。昨日と同じ場所に部屋の淵っこにうずくまっている。


 はぁ・・・。


 僕は安堵した。

 

 一時は助ける必要はないのでは?そんなのどうでもいいのでは?などと思った僕だけけども、やっぱり、こうして落ち着くと心配になる助けたくなる。


 都合がいい、なんて言われても仕方ないかもしれない、自分が不安になると少女のことをどうでもよいと考え、こうして落ち着くと気にするなんて、我ながら情けない。


 正しいことしかできない、助けるしかできない、それは脊髄反射、僕が生きているが故の存在価値、そんなこを謳っていたのに自分が弱れば僕の本質が浮き出てくる。


 浮き出された僕の本性はあまりにも醜かった・・・。


 結局、僕は僕のことしか考えていなかったのだろう、義善治ゆえに偽善で助けているのか、正しくあるのか・・・。


 僕は足枷を引きずりながら少女へと近寄る。


 そう考えると、あの女神は最初から僕の本質を見抜いてたのかもしてない。


 正しい故のその訳を、助けることで自分が正しいという正当化でしかないことに。


 弱い僕の僕なりの防衛。


 だから、いまこうして不安にならないように少女が無事なのかを確認しようとしている。


 ――弱い僕だ。


 けれども、僕は少女を確認したことにひどく後悔することになる。


「あれ・・・」


 少女に近寄って向かい合うように膝をついた時、違和感じた。


 少女はボロボロの布でで自分の素肌を隠すよう眠っている、そこは、それ自体は問題じゃない、いや問題じゃないというのは五平にはなるけども、昨日と同じだ。


 ただ、僕の感じた違和感ってのは、布の羽織りかただった。


 昨日は、自分の体をくるめるように丸まるように頭から羽織っていたが、今日は違う、前から自分の体を隠すようにだけしか羽織っていなかった。


 昨日、あれだけ怖がっていた少女が羽織りかたを変えるだろうか?


 もちろん、そんなことたまたま昨日がそうだった、もしくは今日がたまたまそうだっただけなのかもしれない、いやむしろそっちの方が可能性は高い、普通ならそんなことでいちいち違和感なんて感じない。


 そう――普通なら、もっと言うのであれば、少女が昨日よりも縮んだように見えなければ・・・。


 ただ、縮むと言ってむ元々小柄な少女が丸ごと退化して年齢的に小さくなったとかではない、この場合身体的に、もっと正確には部分的に、小さくなっているように、昨日見た布にうずくまる少女よりも今日の少女の方が部分的に布にうずくまる少女の方が小さく見えた。


 僕は少女の羽織る布に手をかけた。


 別に、少女の裸体が見たいとかそいうわけではない、というよりこんな状況でそんなこと言っている余裕は僕にはない。


 ただ、確認したかった――僕の感じた違和感の答えを。


 っ――!?

 

 剥がした布から少女の裸体が露なる――前身よごれ、打撲の跡、打たれ張れた跡などが見られる、見ているだけでも目を背けたくなる、ゾッとする傷だらけの体。




 けれども、そこは問題ではない。


 問題ないのは――少女の左腕が肩から下がなくなっているというのと、右足が膝からしたがないということだ――。


 シャレにならない、笑えない冗談だ。


 それらは元からなかったように傷口はきれいに塞がっている。


 昨日確かに僕は左手で伸ばそうとした手を弾かれた、拒まれた。


 それが――ない。


 もしかしたら、昨日のは僕の妄想が生んだ幻覚で、実は元からなかったなんてことも考えたが、ありえない。今朝、確かに両腕を兵士に抑えられていたのだから、僕の考えはあり得ない。


 僕は、どかした布を起きないようにそっとかけ直し、少女の隣に寄り添うようにして腰を掛けた。


「ははっ・・・」


 空っぽな、小さな笑いがこぼれる。


 なるほど、そりゃ布を自分が包まるように昨日みたいに羽織らないわけだ、片腕がなければそんな難しいことなんてできない――だから、自分の上から羽織るだけ、これが昨日とは違う違和感の正体。


 なんだこれ・・・。


 やってくる絶望と不安。


 けれども、僕にはどうすることもできない、危機的状況から勇者のように牢を破り少女を助け、少女の傷を治す、そんな異世界王道ファンタジー御用達のことなんてできない。


 僕はこの世界に飛ばされても何も変わらない特殊な力とか与えらていない普通の人間、そんな夢物語なんて起きやしないのだから。


 唯一できることと言えば・・・。


 ミレア・・・。


 僕は僕の右目に潜む女神へ呼びかける。


 ここに来て、なんどか呼びかけたが返事はなかった、けれど、もうこれしかない。


 僕たちが、少女が助かるには。


 ・・・・・・。


 やはり、だんまりを決めるつもりなのか、この期に及んでまだダメなのか?


 諦めかけたその時、


 きゃはは――。


 あの、奇妙な笑い声が耳に響く。


 ミレア――!?


「きゃはは。なぁに少年、そんなにワタシの声が聞きたかったのかしら」


 どこから聞こえる訳ではない、僕だけに聞こえる声が聞こえる。


 冗談はいい、なんで今までずっと返事をしなかったんだ、そのおかげで、こっちはこんな仕打ちを受けてるっていうのに。


 色々言ってやりたいことはあるけども、ようやく答えてくれたミレアに早く助けてほしかった。


「きゃはは。いやよ」


 嫌だと――この期に及んで。


 じゃあなんで、出てきたんだ、僕を助けるために出てきたんじゃないのか。


「そうよ――きゃはは。ワタシは少年、キミに事実を伝えにきたのよ。ああ、やさしいやさいし。きゃはは――」


 奇妙に気味悪く笑うミレア、そうまで何が楽しいって言うんだ。


 大体、伝える?なにを。


「なにって事実よ、事実――きゃはは」


 事実?


 事実ってなんの、そんなことより早く助け――。


「きゃはは。キミの隣で寝ているその子の腕と足。なぜなくなったのか。きゃはは」


 僕の助けなんて聞きやしない、それどころか腕と足がなくなった理由?


 そんなの切断されて――。


 ミレアは語りだす。


「切断?きゃはは、そうねえ、ええそうよ――切断された。そこには何の間違えもない、あっているわ少年、珍しく愚かじゃないわ。きゃはは」


 ならなんだって――。


「なんだって言うのか――きゃはは。まさかそんな当たり前な事実を言うために出てきた度でも?この女神であるワタシが、わざわざ、まっさかー――きゃはは」


 ありえない、ありえないわ。


 と、きゃはは笑うミレア、僕を遮ってまで何をそんなに楽しく。


「きゃはは。なにって、切断についてよ、ええ、切断について。でもワタシが説明するのは切断されて何故傷口がないとかそういうんじゃない、そんなつまらないことじゃない。きゃはは。もっと重要、もっと神的」


 神的?


「そう神的――きゃはは。なぜって?そうりゃあそうよ、


 その子の手足が切り取られたのは少年、キミのせいなのだから――きゃはは」


 ミレアが笑う。楽しいことでもあったように、おかしく奇怪に高らかに。


「きゃはは――キミのせい、そうキミのせい――きゃはは」


 は?僕のせい?え?


 笑い一人で楽しんでいるミレアに、僕は訳が分からなかった。


「きゃはは。キミは忘れているのかい?ワタシはキミにかけた呪いを」


 呪い――僕が、良い事をすると裏目にでるというあれのことか?


「きゃはは。覚えてるじゃない。そう、呪い。少年は正しいことをしてはならない。なのに、それをした」


 した?僕が正しいことを・・・いつ。


「いつって、今朝よ今朝、きゃはは。だからその子は手足をもがれた、少年、あの時キミがその子を助けようと立ち向かわなければこんなことにならなかった。きゃはは、今晩も五体満足でその子は過ごせた。まあここからは出られない運命はかわらないけどね。あら、分からない?愚かねえ――きゃはは。


 キミが今朝助けようとしたからその子は手足をもがれたっていってるのよ」


 きゃはは。きゃははは。


 ミレアが笑う。


 言い捨てて笑い声がだんだんと遠くなっていく。


 僕の呪いのせい――そんな・・・。


 じゃあ、僕は助けられずにその上、事態を悪化させただけっていうのか・・・。


 ミレア、おい――ミレア!


 ミレアはもう答えない。


 クッソ・・・。

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