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正しき魔王の旅記  作者: テケ
三章 ふぃーフェアリー
69/175

009

 そう思ったその時だ。


 きゃははは。

 

 あの不愉快な笑い声が、僕の頭に響く。

 

 ミレア?

 

 きゃは。

 きゃはははは。

 

 そうして、僕の右眼からどろりと水が固まり噴き出ると、ソレは人の形をかたどっていく。それは透明な自ら色を帯び、白い肌、蒼くい髪。漆黒のドレス。それぞれが生み出されるかのように変わり、彼女は現れトンっと地面に降り立った。

 

「きゃははは。久しいじゃないの。クレリア」


 不気味で奇妙な笑い顔。笑っているけど目は全く笑っていない恐怖さえ覚える、独特な笑いを上げ、ミレアはクレリアさんを見下ろし言った。

 さっきまでだんまりを決めていたミレアが、突然現れたのだ。

 

「久しいのぉ。最後に会ったのは300年程前じゃったかの?相変わらず、性悪な性格じゃの」


「きゃはは。それはアナタの本質がそうなんでしょう?ワタシはアナタの本質を映す鏡。きゃはは――くだらない。実にくだらないことよ。きゃはは」


「そうじゃの。じゃが、のぞき見とはどうかの?」


 どこか奇妙な笑みを浮かべ、懐かしむように言うクレリア。その答えに、ミレアが、きゃはははっと笑っている。

 なんなんだ、このやり取り……。

 

 ん?いや待て。待てよ。

 

「ちょっと、待ってください」


 僕は異様な雰囲気をヒートアップさせた二人を止める。

 引っかかったのだ。一つ。一つクレリアさんが言った。一言に。

 

 僕の止めに、クレリアさんはなんじゃ?と問う。

 

「300年前って、あの?え?」


 自分で言って混乱する。300年前ぶりに会った?まって、まってって。意味が分からない。300年。いやでも、僕の前に居るのは綺麗なお姉さんぐらいの人で、それも年を取っていない。いやそもそも300年生きてるって?

 混乱する僕を見て、ミレアがきゃはははと、奇妙な笑い声を上げる。


「きゃはは――エルフは長寿よ。600年は生きる。そして、年をある一定の時期を過ぎるととらなくなる。きゃはは――人間にとってはうらやましいかしらね。きゃはは」


 ミレアが説明してくれる。な、なるほど。じゃあこの人今いくつなんだ?すごい若く見えるんだけど……。少なくとも300年は生きてるってことだから……。

 

 混乱するに僕を見て、はっはっはと、クレリアさんも笑う。

 

「――そうか、エルフが珍しいか。はっ、ワシは400数歳じゃよ。なにせ、魔王が居た時代からこの国を治めておるのじゃからの」


「400?」


 400。途方もなさ過ぎて。もはや想像をはるかに超えている。というより、もうどういうことやら……。

 混乱する僕をよそに、クレリアさんは続ける。

 

「ああそうじゃ。そして勇者とも旅をしておったのじゃからの」


 はっはっはと笑いながら言うクレリアさん。僕の反応が相当面白いらしい。

 なんか、頭痛くいたくなってきたかもしれない。

 

「きゃははは。それより――そんなつまらない事を言うために、このワタシ呼んだ訳ではないでしょう?きゃははっ」


 僕を見捨て、ミレアはクレリアへと向き直って訊いた。

 

 そうだ、わざわざなんでミレアを。しかも、なんであえて僕と二人にして。

 どう考えたって、わざとだ。フィーとアンジェを風呂に行かせ。僕と二人になるようにした。まるで、内緒話があるように。知らない僕と二人っきりにあえて……。

 

 にこやかに笑っていた、クレリアさんの表情が鋭くなる。

 それに、僕は何か重苦しい雰囲気を感じる。

 

「ミレアスフィール。お主――なぜここにおる?お主ら女神は勇者に封じられたのではないのか?」


 封じられた?


 きゃはは。

 きゃははは。

 きゃはははは。

 

 まるで壊れた目覚まし時計のように、ミレアの奇妙な笑い声が響く。

 

「――して?」


 眉を吊り上げ、ミレアを睨め着けクレリアさんが言うと、ミレアはぱたりと止まる。

 

 とまり、

 

「――そんなもの、アナタのとこに居る女神に訊けばいいじゃない。きゃははは」


 そう言ったのだった。

 ミレア?

 

「気づいておったか。まあ、それもそうじゃな……」


 僕に分からない話が飛び交う中、カンッっとキセルを叩き、灰を落す。そして次の瞬間。座に座るクラリアさんの後ろに緑色の粒子がどこからか集まる。

 

 粒子は集まり、小さく風を立て、僕たちの髪を揺らす。そうして、光は人の形を取れるぐらいにあつまると、その光は解き放たれ、彼女は姿を現した。

 

 金髪の長い髪。傷一つ移さないすらっとした美しい肌。大きく翡翠の瞳。まるでモデルみたいな、スタイルもよく真っすぐな彼女は美人で、胸元からへそまで真っすぐ縦に露出する、民族衣装のようなドレスを着る女性。僕が連想する弓が似合うエルフそのもだった。

 

「チャオ―!元気してたー!」


 女性はにこやかに笑うと、不意にも親し気に手を振りミレアに言っのだった。

 

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