003
二人でなんだろう?と顔を見合わせた、その時だった――、
――!?
森の茂みの奥がガサガサと揺れ、僕たちはとっさにそちらへ向き変えり、身構えた。
魔物か?アンジェの話では、この森には結構、危険な魔物がいるという話だ。出てきてもアンジェの魔法でどうになる、らしいのだが、いざ実際にこの深い森で遭遇すると、緊張が走った。
アンジェが腰のナイフへと手をかけ、僕も――魔法を撃とうと、右手を前に揺れる茂みへと突き出す。
くるか……。
ガサガサと揺れる茂みが一時的に止まる。
「………」
緊張と共に、飛び出してきた時に対応できるように、構え続ける。
再び、茂みは動き出し――、
「はわっ――!?」
えっ――!?
茂みから飛び出してきたのは、女の子だった。
飛び出した女の子は、僕たちの通った獣道に突っ伏す形で茂みから飛び出て、倒れた。
女の子……?
僕は自分の目を疑いながらも、その子を確認する。間違いなく、女の子だ。
アンジェと変わらない身長の、長い金髪の少女だ。
その女の子を追うように、飛び出してきた茂みの方から、蒼く光る平サイズの蝶がヒラヒラと現れ、女の子の周りをくるくると回る。
(だいじょうぶ?)
え?
確かに聞こえた。優しい女の人の声が。耳に聞こえるのではなく、頭に直接語りかけるような感じで。まるで――女の子の周りを飛ぶ蝶が、そう――声をかけたように。そんな気がした。
蝶が顔面から突っ伏した、女の頭にヒラヒラと止まる。
大丈夫かな?この子……。すごい勢いで飛び出してきて、顔面から思いっきりいったけど……。
アンジェと僕は顔を見合わせた。
「ねえ、大丈夫?」
恐る恐る――僕は声をかける。
「だいじょうぶなわけないじゃん……。あだだ……」
女の子は突っ伏したまま答え、体を起こし立ち、服に着いたホコリを払った。
蝶は、女の子が立ち上がると同時に飛び立ち、女の子の周りをヒラヒラと飛ぶ。
「酷くない?ちゃんと道教えてって言ったじゃん!」
(ちゃんとみち)
「どこが!?どうみても草、木、崖だったじゃん!」
(とおらないとカフェセトにつかない)
よくは分からないが、女の子は、ヒラヒラと舞う蝶と痴話げんかなるものを始める。
やっぱり……、さっきの声はあの蝶の声だったのか……。
それより、止めないと。
この子が何なのか分からないのもそうだが――何よりも、もう日没だ。うだうだしていると、日は暮れて本気で周りは何も見えなくなる。
「ね、ねえ……」
喧嘩をし続ける女の子と蝶へと、僕は声をかけた。
「――ん?……だれ?」
声をかけると、女の子は僕たちに気づき、蝶との喧嘩を止めこちらを見た。
見られると、アンジェが僕の後ろへとスッと小さな動物のように隠れる。そこから、少しだけ、顔をのぞかせる。
やっぱり、人見知りなのか……。それとも、正体不明な女の子を警戒しているのか。やはり、アンジェは僕以外の人にはなつかない。同年代ぐらいの女の子でもダメなのか……。
目の前の女の子は普通の女の子。危険そうに見えないけど……。
改めて、僕は突然茂みから現れた女の子を見た。
いや、前言撤回……普通ではないな。
女の子は金髪の少女だった。容姿はまるでアンジェの姉妹なのだろうかと疑うぐらい似てる。腰下まである長い髪を、アンジェは三つ編みのおさげ二つでまとめているが、この女の子は、髪を止めず真っすぐストレートに降ろしたまま。頭には赤い薔薇の髪飾りをしている。
服装は僕の世界の現代風。白のキャミソールに紫のダボっとしたパーカー。黒のミニスカート。皮のブーツ。ただ、不自然なのが、腰に止めているベルト。二つの大きな革製のベルトをクロスさせ止めて、謎の液体の入った試験官や謎の容器がささっている。挙句の果てに、ベルトの左右には、蒼銀の彼女の手には少し大きいだろう思える拳銃が、一丁ずつホルスターに収められている。明らかに不自然だ。
僕の知る、この世界感。服装。装備、全部時代感が、あべこべな恰好だった。
おとぼけた顔で、蒼の瞳で女の子が僕を見ている。
(しんぱいしてくれてた)
「ふーん」
蝶がヒラヒラと女の子の前を飛び、答えた。いったん蝶の方を見た女の子は、それに興味なさげに僕の方を見直す。
えっと……。
すごく唐突すぎて、どう切り出していいのだろうか……。
「こんな時に、こんなところで人なんて珍しいね。フィーはフィーって言うの。あなたたちは」
僕が迷っていると、女の子から切り出し。自己紹介をしてくれる。
「ああ――僕はマコト。――こっちはアンジェ」
アンジェは自己紹介できなさそうだったので、後ろで警戒するアンジェを、見てアンジェも軽く紹介する。