002
「ねえアンジェ、この道さっきもとおらなかった?」
僕は、またしても森で迷子になっていた。この世界に入って、最初に迷子になって、兵士に捕まった事を考えると、森に迷うと言うのは、もはや不吉な予兆なものを僕は感じているぐらいだった。
その予想は、数時間ほど歩いて見事に的中。僕の記憶が正しければ、木が並ぶような配置と、真っすぐなけもの道は、間違いなく一度通ったことがある道だ。
「ん~、どういうことでしょうね?」
僕に言われ、立ち止まったアンジェは、口元に右手を当て首を傾げる。
どうやら、アンジェもどうして迷ったのか分からないようだ。流石は、迷いの森と言ったところだった。
そもそも、どうして僕たちがわざわざ、迷いの森なんて言うところに入り込んでいる理由だけども――本当は、この森を最初は僕たちは避けるつもりで居たのだが……。
まず、砦で必要な物や身なり。僕はミレアに頼んで頼んでおいた学ランに、アンジェは砦でもらった紺のワンピースタイプの、ひらひらが何断層にもなってくっついているのゴスロリ服に着替え、いくらかのお金と食料を持って砦を出た。
それから――アンジェと相談し、一度、アンジェの故郷に戻ろうということになり。そのために、アンジェが砦までに来た、道を戻るつもりでいた。
けれども――戻れなかった。
いや――正確には、途中までは戻ったのだが、そこで道が通れなくなっていたというのが正しい。
アンジェは、砦近くまでに来るさいに、木の国を中心として広がる迷いの森を通らず、そこを大きく迂回する形で、森の横を通る川沿いを下って来たという。
今回、僕とアンジェはその道を通ろうとしたが、その少し大きめの川を渡る為の橋が崩れ落ちていたのだった。川に魔法で氷の橋を架けられないとも思ったが、向こう岸との距離もあり、川の流れも急だった為それもできず、断念し、仕方なく迷いの森を通り、木の国を経由して水の国を目指すことになった。
で、迂回して僕らは、迷いの森へと入り、アンジェの案内のもと木の国――カフェセトへと向かっていた訳だった。
「道は分からないのかい?」
森へ入る際、道は分かります、なんとなく。と胸を張って言っていたのだが、どうにも迷子になってしまっていた。この世界の地形を知らない僕としては、アンジェが唯一の頼みの綱なのだが……。どうやら、そのアンジェもお手上げのようだ。
そもそも、道が分かるなら最初から森を遠回りする必要もない。
なんなく、アンジェに不安を抱いてしまう。
「――お兄さん、アンジェのこと疑ってますね?」
僕に、ムスッとした顔をするアンジェ。ぷくーっと頬を膨らませる。
「仕方ないですよ、こんなに空間が曲がっていては。本当はもっと構造は簡単なはずなので通れるのですが……、何故か森の結界が強くなってるんです。だから、こちらに来るときも森を迂回した訳ですし……」
そうなのか……。なるほど、だから迂回を……。けど、どうして、森の結界が強くなっているんだろう……。そもそも、これは結界だったのか……。
この森については、特に詳しいことは訊いていない。なんとなく、訊く必要もないと思ったし。アンジェに任せれば大丈夫だと、大きく信頼していたからでもある。
ただ――こうなってくると、アンジェだけに任さず、僕も考える必要も出てくる。
「ん~、取り合えずこのままだと真っ暗になっちゃうし、どこか広い場所にでもでないと……」
ポケットのスマホを確認すると、時刻は――既に午後五時を過ぎており、日も傾き始めている。ただでさい背の高い木々が並び、薄暗いのに、日が落ちてしまえば真っ暗になってしまう。その上、いま僕たちがいる場所は、真っすぐ細く続くけものみち。到底、一時休みできる場所でもない。確実に、どこか移動しなければいけない。
頼みのミレアも、道を引き換えしてから何も返事しないし……。
とは言え、辺りを見渡しても道は無く、来た道か進む道しかないのだが……。
「あの……ずっと前から気になってましたが、それはなんですか?」
スマホを片手にキョロキョロする僕の、スマホを指を指した。
そう言えば、アンジェは僕がこの世界のことを知らないように、アンジェは僕の世界の事を知らないだった。なら、スマホを知らないのも当然。砦を出てから、チラチラ時間の確認がてら確認していたが、特に触れられもしなかったので気にしなかった。
「これは――まあ、僕の世界の便利道具かな?今の時間が分かったり、方角が分かったりする」
そう言って、さっきから画面中央で方位磁石が、くるくる回っている画面をアンジェに、僕は見せた。
「なんか、目が回ります」
方位磁石自体は、この世界でもしっかりと正常に作動している。それは、砦に滞在している時に確認済みなのだが、どうやら、この迷いの森の効力なのか、磁気の針はずっとくるくると回っているままだった。
ほんと――どこの富士山だよ、とか思う。
アンジェが磁針を見て目を回し始めたので、僕はスマホをしまう。
「でも――どうしようか?一旦、戻るかい?」
訊いた、まさにその時だった。
「――――」
なにか、ボソボソとした声が聞こえたような気がした。
いまの……。
アンジェも、首を振り辺り見渡している辺り、気のせいではないようだ。