006
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気づいたら寝てしまっていた。
僕も疲れていたんだろう。
もちろん肉体的にではない。精神的にだ。
こんな場所でも寝られるぐらいには疲れていた。
だから寝た。
少しでも気分を戻そうと。
「いやあああああ――!!!!」
悲鳴と共に僕は飛び起きた。
心地よい半分寝ている夢うつつの状態から。突如聞こえた針裂くような叫び声で。
反射的に声がした方を見ると、兵士が二人少女を囲んで腕を掴んでいた。
さっきの悲鳴は兵士が彼女の腕を掴み無理やり連れ去ろうとして、少女が上げた悲鳴だった。
――こいつら!?
やめろおおおお!
二人のうち一人の腕に飛び掛かりやめさせようとするが、動かない。
相手は兵士、それも筋肉質な。
ハッキリ言って運動をこれまでさほどしてこなかった僕がそんな男をどうにかできる訳もなく。
「ああん?」
――すっこんでろ!
僕は思いっきり顔面を殴られ吹っ飛んだ。
「やあああああああアアアア!」
その間にもう一人の兵士が暴れる少女の腕を抑え、
「やあああガッ――」
少女の腹に拳を叩きいれた。
少女は動かなくなる。
「まったく、手間かけさせやがって」
少女に拳を入れた兵士が少女を抱え、牢から出ようとする。
痛む顔など気にも留めず僕は立ち上がり、もう一度立ち上がり、走る。
「ああああああ―――!!!!」
拳を握りしめて、
僕を殴りつけた兵士を倒し、少女を連れ去ろうとする兵士止めようと。
僕は全力で振り上げた右腕を兵士に向かって振り放った。
しかし、
えっ!?――何が起こった?
僕の体はくの字に曲がり跳ね返る。
時間が、空間が静止したように感じる。
何十、何百秒がゆっくりと進む。
少女は牢から連れらされそのまま部屋から消える。
静止する時間の中で冷静に判断できるレベルでそれを目視することができた。
それに、今起きたのは――。
目の前の兵士が片足を振り放っている。
僕は蹴り飛ばされたのだった。
あっけなく。
簡単に。
くそう――。
静止する時間は夢だったかのように終わり、僕は地面へ背中からたたきつけられた。
「うっ・・・」
軋む背中と腹に耐えながら僕は立つ。
顔と腹の傷はすぐに癒えて痛みは消える。
「こいつ、また治ってやがる。バケモンが」
助けないと!
「あああああああああ!」
助けないと!
もう一度、僕はもう一度腕を振り上げ拳を握りしめる。
助けないと――ッ!
え・・・?
――がっ!?
僕の顔面が壁に打ち付けられた。
なにが・・・おき・・・。
あがッーー!?
もう一度打ち付けられる。
いっ・・・。
そしてもう一度。
もう一度。
何回も何回も。
鼻は潰れ痛みが感じなくなる。
歯は崩れいくつも折れ落ちる。
顔が潰れていく。
「おらっ!おらっ!おらっ!おらっ!」
僕の振り下ろした拳は避けられ、そのまま頭を掴まれた僕は牢の壁に顔面を何度も打ち付けられていたのだった。
僕の頭を握っていた手が離され、僕はその場に崩れ落ちた。
「・・・・・・」
なんだこれ・・・。
なにが起きたのか僕には分からなかった。
いたい・・ただ、痛い。
泣きだしたいぐらいだ・・・。
潰れた顔はそれでも治る。
「バケモンが・・・」
兵士は横たわる僕を蹴り飛ばした。
う・・・あっ・・・。
なんなんだこれ・・・。
思考が一瞬止まる。それと一緒にまた時間が静止したように遅く感じる。
僕は一体なにをしてるんだ・・・。
起きていきなり飛び出して、殴られて、蹴られて・・・。
少女が連れ去られて・・・。
そうだ・・・少女だ・・・。
・・・。姿がない。
でももういいじゃないか、そんなの。
名前も知らない昨日会ったばっかの少女なんか、助ける必要ないんじゃないか・・・。
こんな、痛い思いをしてまで・・・。
ここで動かずに気を失えば、楽になれる。
痛みからも、
恐怖からも、
不安からも、
そうして楽になって・・・。
楽になって・・・。
・・・僕は、その後どうするんだ?
気を失って、今を打開してどうするんだ?
ここで捕らわれてまた拷問をされて・・・変わらない。
同じじゃないか。
どんなにどんなにどんなにどんなに、逃げても変わらない。
僕の体は死ねない。
治る。
僕の意思と関係なしに。
だんまりを決めている女神のせいで。
・・・そうだ、ミレアなら。
彼女なら今この状況から僕を救ってくれるんじゃないか?
ミレア――。
心のなかで呼びかけた。
ミレア。
祈るように。助けを求めるように・・・。
・・・。
それでも、あの女神は答えることはなかった。
答えは返ってこない。
絶望――。
僕は初めてそれを感じているのかもしれない。
もう動きたくない。
何もしたくない。
痛いのはいやだ。
怖いのはいやだ。
不安なのはいやだ。
だれか、誰でもいい。助けてほしい。
・・・・・・・。
そう願えど、誰も助けてはくれない。
誰も、答えてくれない。
静止していた時間が戻る。
「ごほっごほっ・・・」
蹴られた位置がちょうどみぞおちだったのか苦しさととともにせき込む。
息苦しい。
「ああー向こうはお楽しみでこっちクソガキかよ」
兵士はぼやいて、僕の髪をを掴み立ち上がらせる。
「まあ、ストレス解消にはいいか・・・」
こいつ・・・なにいってやがる・・・。
ガッ――!?
僕の腹に衝撃が走り、僕の意識は遠のく。