015
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アンジェは本当はお兄さんと離れたくありませんでした。
アンジェはお兄さんが居ればそれでいい、それがどんな場所でも、どんな時だって。だから、安全な場所なんてどうでもいいんです。アンジェにとっての安全の場所はお兄さんのそばなのですから・・・。
けれど、そんなアンジェの自分勝手でお兄さんを心配させてはダメ、そう思ったのです。
思ったから、兵士が言った話とお兄さんの頼みにアンジェは答えました。
本当は離れたくない、一人になりたくない。そうやって、部屋に戻る途中、お兄さんにしがみつきながら思うのです。
お兄さん、お兄さん、お兄さんと・・・そのお兄さんの後ろに隠れながら顔を見上げ、思います。離れたくない、大好きなお兄さん、ここでもいずっと一緒に居たい。
なのに、どうして、あの兵士はアンジェとお兄さんを引き離そうと・・・。
――違うのです、違います、あの人はきっと悪い人じゃないのでしょう。そうでしょう。
けれど。
けれど。
けれど。
――アンジェにはもうそうは見えません。いえ、元からいてないないのです。
ここにいる人たちがどんなにいい人でも、"兵士"という位置づけはアンジェにとっては全て悪なのです。居てはいけないモノなのです。
視界に入れてしまえば、アンジェは震え、足がすくみます。声を聴けば、頭痛と吐き気がします。近づかれてしまえばたちまちその場にうずくまってしまいます。泣いてしまします。
悪ではないのでしょう。きっといけないのはアンジェ。アンジェがいけない。
そうなのです・・・アンジェがきっといけないのです。アンジェが悪い子だから。そうやってみんなみんな悪者に見えてしまいまうのです。
けれど、お兄さんは違います。
ずっとずっとずっと違いました。最初に会った時から、お兄さんは優しく見えたのです。優しです。居るだけで安心します。
じゃあもし、お兄さんがアンジェの前からいなくなってしまったら?アンジェを置いてどこかへ行ってしまったら?
「アンジェ?」
いつの間にか足を止めていたアンジェにお兄さんが声をかけました。
あ・・・お兄さん・・・。
アンジェを心配してくれたお兄さんがもしいなくなったら・・・。
いなくなったら。
いなくなたら。
いなく。
いなく。
なくク。
なくなくな。
いなくなたら。
イナクナタタ。
イナクナッタラ?
「お兄さん・・・」
「アンジェ!?」
視界がぐらつきます。フラッと体は浮いたように舞い、そしてアンジェは足をその場に崩しました。
いえ、倒れてはいません。フラッっとしただけです。倒れる前にしがみついているお兄さんにもたれかかりました。
けど、お兄さんにそれで心配をかけてしまいました。
今のはなんなのでしょう。
一瞬、いえ、きっと気のせいです。
お兄さんに大丈夫ですと言い、起き上がります。
そんな不安な顔をしないでください。アンジェは大丈夫ですから。
お兄さんが居なくなったら・・・。そんな考えがいけなかったのか分かりません。
けど、なんでそんなことを考えたのでしょう?
お兄さんが居なくなる訳がないのに・・・。
再び歩き出します。
そうして、アンジェはお兄さんの後ろに隠れたまま部屋に戻ると、お兄さんはアンジェにお話しをしてくれました。
僕がしばらくいなくなってしまうけど大丈夫?困ったことがあればメイドさんを呼ぶこと。
それはまるでお母さんがアンジェにお留守番をさせる時に言いつけるようなそんな話です。
でも、不思議です。
お兄さんは居なくならないはずなのに。なぜ、そんなことを言うのでしょう。
分からなかったのですけど、アンジェはお兄さんに迷惑を賭けまいと返事をします。生返事ですけれどもお兄さんは笑顔をアンジェに返してくれました。
でも、どうしてお兄さんはそんなことを言うのでしょう?
それから――アンジェとお兄さんはお風呂に入って寝床に入りました。
アンジェは思うのです。明日もまた、楽しい遠足をお兄さんとできればいいのに――と。




