014
日にちは経ち、僕たちがのんびりとした生活ができるようになって五日ほど経った。僕らは毎日のように砦の外に出かけては、捕まっていた日々を塗りつぶすように二人の時間を築いていた。湖、森、平原、日ごとに場所を変えてはのんびりと英気を養って、それと同時にアンジェは前よりも明るくなり、二人の絆が強くなっていくのを僕は感じる。
けれど――砦の外で見せるアンジェの笑顔は砦の中ではなかなか見せず、やはり兵士が近付くと僕の後ろに隠れ震えてしまうのは変わらなかった。
確かに、前よりはましになったのかもしれない。兵士を前にして、悲鳴を上げないし、隠れてだが歩くようにもなった。それでもやはりアンジェにとっては兵士は恐怖の対象なのだろう。
僕はもっと時間をかける必要があると思いつつも、同時にブレンからアンジェに教団の居場所を聞くことをせかされ、迷っていた。
このままでは僕らはまた牢行きになっていまうことと共に、アンジェを不安にさせたくないという気持ちが葛藤して、話を切り出せないでいた。
それでも、無理やりにでも切り出さなくれはならない。
何故なら――期限は今日まで。
昨日呼び出された僕は、期限を強制的に今日と決められ、今日聞き出さなければ二人とも牢行きと言われ、情報はについてはアンジェから魔法でも薬でも使い手段を選ばず聞き出すと・・・。
言ってしまえば脅しだ。それも質の悪い。けれども、彼は本気なのだろう。だから、どうしても今日聞く必要がある。できるだけアンジェを不安にさせず、自然に聞き出さなければいけない。
涼し気な草木がざわめく森の中。僕はそうやってグルグルと考えタイミングをうかがいつつ、浅い森をルンルンと先導して歩くアンジェの後ろに続いていた。
「お兄さん?」
ゆっくりとついてくる僕にアンジェは足止めた。
「今日はなんか変ですよ?」
どうやら考え事をしている間に、俯き難しい顔でもしていたようだ。平然を装っていたつもりだが、隠せていなかったらしい。
僕は、うんん、大丈夫だよと言い返す。
「そうですか?疲れたなら休みますか?」
僕の顔を心配そうに覗いていうが、それにどうしても僕は申し訳なくなる。
どこかで切り出さない・・・と。
「そうだね、じゃあ少し休もうか」
「はい」
実際には疲れていない。けれど、これ以上このまま歩いてもなんだかアンジェを不安にさせると思ったから。
僕たちは木の木陰で少し休むことにして、近くの木の根元に腰を下ろした。
「お兄さん、どこか具合でも悪いんですか?」
隣に座ってどこか不安そうに僕を除き言うアンジェ。
そう言うことじゃないんだ。そうじゃ・・・。
でも――聞くならもう今しかない。話を切り出すなら。
「アンジェ・・・」
声をかける僕に、はいなんですか?とアンジェは問う。
「実は・・・」
実は・・・どう聞くのか?僕はそこで口どもる。
切り出し方なんて分からない。教団のアジトはどこだ?なんて突然切り出せるわけもない。
困った僕にアンジェは何かをさっしてなのか、僕に持たれかかって。
「大丈夫ですお兄さん。アンジェはお兄さんがいればそれだけでいいんです。それに、お兄さんがあの兵士の人に呼び出されてるのも知っています。きっと何か言われたんですよね?アンジェのことで・・・。だから、何でも言ってください、アンジェはお兄さんの為ならなんでもしますから・・・」
アンジェ・・・。
僕へすがるように言うアンジェを、僕は抱きしめて聞き出す。この子のためにと――。
「ベルクホルンという街にある教団のアジトはどこにあるんだい」
「ハクライアという人の館に地下通路があるそうです。細かい場所まではアンジェも知らないそうです」
僕は僕の後ろに隠れるアンジェを気遣いならブレンへと告げた。
「そうか――まさか貴族の一部が噛んでいるとは・・・いや、必然と言えばそうだが・・・」
何かに納得したようにうなずくブレン。
よくわ分からないが、これで僕らは解放されるのだろうか・・・。
「いいだろ。明日、至急に国へ戻り調査をする。小僧お前もこい」
えっ!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
僕たちはこれで解放してくれるんじゃないのか?話が違う。情報を出せば僕たちの安全を保障すると言ったはずなのに、何故、僕がついて行かなければいけない。それに、僕が行ったらアンジェは・・・。
「お前たちをオレのゲストとすると言ったが、解放するとは言っていない。そもそも、どのみちお前たちの身の安全を保障するにもいったん国に戻る必要がある。これはそのために一度王に取り合うことも含めている。心配するなお前に武器を取って戦えなど言う訳ではない」
「でも、アンジェは!?」
行くのは置いてくのか?こんな場所に?周りは兵士だらけで、一度は牢に入れられたこの場所で、一人にするって?冗談じゃない。信じられない、アンジェの安全を。
それに、僕にしがみつき、顔半分んだけのぞかせてブレンを見るて震えているアンジェを置いて行くなんてできない。
「その小娘はここに残ってもらう。どのみちその様子じゃ無理だろう?」
視線を向けられたアンジェが僕の後ろへと完全に隠れる。
確かに、この様子のアンジェを兵士と一緒に移動なんてさえられない。それに、街はまだどんなところか分からない。人が多ければそれだけアンジェの負担も多くなる。
けれど・・・。
「考えろ小僧。心配するな、ここにはオレの信用できるものしかいない。それに、専属もメイドもいるだろう。どのみちここにお前たちをずっと置くわけにもいかない。そうだろ?」
ブレンの言うことは確かだ。
こんな物騒な砦なんかにずっといる訳にはいかない。もっと安心できる場所があるはずだ。
それに、ずっと今まで一緒にいてくれたメイドさんだっている。アンジェの安全を確信するには確かに十分な要素はそろっている。
けれど・・・。
後ろで震えるアンジェを見る。
アンジェの為に、僕が今しないといけないこと・・・。
アンジェのためにと。
「分かりました。ただ、できるだけ早く戻れるようにししてください。一人にさせたくないから・・・」
「いいだろう」
僕の提案にブレンが了承をする。
これで、いいのだろうか・・・。そんな疑問が残るが・・・。
しゃがんで、
「アンジェ、少しの間離れるけど大丈夫だよね?」
震えるアンジェをなだめるように言う。
「お兄さん・・・」
僕へとアンジェが抱きついて――、
「分かりました」
僕は、アンジェの了承も得た。
これで、本当に良かったのだろうかと思いつつも・・・。