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正しき魔王の旅記  作者: テケ
2章 あんじぇピュアラブ
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 アンジェにとって僕の背中がでかいのなら、僕にとってアンジェの背中はすごくすごく小さい。


 渡されたタオルで流すその背中は、牢で見たボロボロの姿ではなく、透き通るぐらい白く力をいれこすると潰れてしまいそうに思うほど柔らかい。こんなきれいなか弱い背中を僕なんかが触れてもいいのだろうかとすら思うぐらいだった。


「痛くないかい?」


 僕はアンジェの背中を流しながら聞く。


「いえ、すごく気持ちいです。フフフ・・・」


 答えるアンジェが小さく笑っている。


 すこしこしょぐったかったのかな?


「ホントに大丈夫?」


 気遣う僕に、アンジェは、いえと答え、嬉しかったのでという。


 何がそんなに嬉しいのか分からないが、アンジェが幸せそうなので特に気にしない。だからなにも言わず僕は静かにゆっくりとアンジェの背中を流す。


 そんな僕に、アンジェはなにか喋ってくださいよと言う。


 流石に嬉しいけれども黙ってされるのは恥ずかしいらしい。とはいえ、何かを喋れと言われても特に話題もないのだが・・・。そう思っているとアンジェが喋りだす。


「こうやって背中を流してもらうのはおかあさんと二人目です」


 何かを懐かしむようにそう一言。


 おかあさんか・・・僕にとってはアンジェは妹みたな感じなんだけどね。けど、そういう親しさ持ってくれているのはすごく嬉しいと思う。僕は一人っ子だったから妹が居るとはこんな感じなのかな、と――。


「お兄さん」


「ん?」


「こんなことばっかりで・・・おかあさんはみつかるでしょうか?」


 それは・・・。


 不意に、問いかけられた質問に僕は回答に困った。


 僕はアンジェのこともまだあまり知らなければ、彼女の母がどうしていなくなったのかも知らない。だから。どう返していいのか分からない。けれど、アンジェは不安に思っているのだろう。こんなことと言うのは多分今の自分の状況ことだと思う――この先どうなっていくのか分からない状態に。きっと先の未来を考えると不安っているのだろう。僕もそうだから・・・。この先どうなるか、それを考えると不安で仕方ない。仕方ないが・・・・。


「きっと見つかるよ」


信じるしかない。


 僕たちはあの牢から脱出できたんだ、無理な事なんてないと。


 僕はアンジェの背中にお湯をかけ泡を流す。


 それから、僕たちは喋ることなく体を洗い、髪を洗い、ゆっくりと湯船へと入る。




 湯船の温度は熱すぎることもなくぬる過ぎることもなく、少し適温から少しあったかいぐらいだった。


 そこに僕は入り壁にもたれアンジェは、その僕の隣に寄り添って座った。


 アンジェが僕に持たれかかり、重みも感じられない柔らかい肌が僕の肩へと触れる。


 そのアンジェに小さいながらも色気を感じられずにいられなかった。


 さっきは特に興味がないみたいなこと掲げていた僕だが、そもそも――アンジェ自体はどこか異国の裕福な家の娘と思えるほど、人形のように整っていて美しくかわいく見えた。元がそうなのだから、濡れた髪に湯の熱に赤らめた頬はすごく色っぽくなおさらそう見せる。


 ただ、そのアンジェを見た僕にやましい気持ちはない。


 待たれかかるアンジェに、僕は人懐こい小動物のようなものを感じていた。


「おにいさん・・・」


 アンジェが頭も肩にもたれさせ、どこかうつろな瞳をしてつぶやいた。


 僕はアンジェのなに?っと返す。


「好きです」


 そう一言。


 そのいきなりの言葉に、僕は少し驚いたけれども、僕も返す――僕も好きだよ、と。


 言葉の意味をしっかりと理解していない僕はそう、彼女の言葉に無責任にも重みも感じることなく返す。"好き"という言葉の意味も理解もせずに、彼女の気持ちも理解できず、残酷なほどな無責任な言葉を。ただ、アンジェのためというだけのために。


 それから、また僕たちは喋ることなくゆっくりと入浴をした。

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