003
結論から言おう。
――迷子だ。それはもう見事なほどに――いや、
当たり前なのかも知れない。
そもそも素人がこんな広く深い森から抜け出すなんてできっこないのだ。
時刻はすでに19時。
辺りは完全に真っ暗らだ。
森で真っ暗。言わないでも分かるだろう。
深い森の中では草木が邪魔をして月や星の光など殆ど入らない、真っ暗で視界は殆ど何も見えなかった。
故に、僕は木の陰に座り込み動き回るのをやめるた。
「はあ・・・」
風に草木が鳴く森の中、どこかわからない木の下でたいそう座りするように膝を抱え溜息をついた。
不思議と恐怖はないし、お腹も空いていない。まあ、お腹についてはさっき弁当を食べたからなのだけど・・・。
僕が死んでから、どれだけの時間がたったのかは知らないけども不思議と弁当は食べれる状態でだった。まるで作ったばっかりのように、朝事故に合ってそれから時間が止まったような感じだった。
うまかった・・・。
母に作ってもらった最後の弁当。
そう思うとなんだか寂しい気持ちになった。
僕は道路に飛び込み、女の子を無我夢中で自分のことなど考えず助けたけれども。
自分が死んだことについて、未練がなかった訳じゃない。
むしろ、もっと色んなことがしたかった。
色んなものを食べたかった。
友達ともっとバカみたいに遊びたかった。
もっと。
もっと。
もっと。
――もっと。
そう思えば思えるほど僕は未練は多かった。
「・・・・・・」
僕は膝を抱えたまま、上を見上げ風に揺れる木と木からチラチラ見える青く光る月を見た。
正直あれが月なのかどうかは分からないけど、ここが自分がいた世界とは違う事は分かる。
チラチラ見える青い月の横にすこし小さめの赤く紅色に光る月も見えたからだ。
自分が元いた世界では月はあんなにも青く輝いていなかったし、真横にあんなに赤い月なんてなかった。
あんな夜空の景色なんて見たことがなかった。
「本当に・・・別の世界なんだな・・・」
自分の置かれている状況に思考は段々と憂鬱になっていく。
知らないことが多すぎる。
分からないことが多すぎる。
どうしていいかのか分からない。
そう思えば思うほど気分は沈んでいった。
――だめだ。
こんなんでは。
しっかりしなくては。
ただでさえどうしようもない状況なのに、そんな気ばかり落としていたら本当にこのまま森で死にかねない。
物語は始まったばかりなのに、起承転結の起の先っちょでしまう。
短歌でもないんだ、そんなことはいけない。
こういう時はなにかよかったことを思い出そう。
――そう、そうだ。
そういえば、僕の助けた女の子は命からがら助かったらしい。
これも時空移動の途中にミレアが教えてくれたことだった。
正直、突き飛ばしてそれでもなお引かれてしまっていたらどうしようかと思ったが、そんなことはなく。擦り傷一つなくあの女の子は助かったらしい。
なら、助けたこちらも報われるものだ。
そうでなければ報われない。
死んだことに未練たらたらな僕なのだから、あの世で発狂するぐらいだろう。
あの世じゃないけどな――ここ。
よかった。
――よかった。
ああ、よかった。
・・・・・・くやしい・・・。
もっと生きたかった。
もっともっと生きたかった。
もっと。
もっと。
もっと。
もっと。
もっと。
もっと。
もっと。
――もっと。
心臓が締め付けらるように苦しくなり。
僕の喉は押しつぶされる。
その苦しさに僕は歯を食いしばる。
強く・・・。
強く。
強く!
「くそおおおおおお―――!!」
僕は咆哮した。
溜まった苦しさを吹き放つように。
静かに風が葉を鳴らす森のに僕の悲痛は響く。
なんでなんだ!
――なんなんだ!
僕はようやく僕の愚かさに気づいたのだった。
なにが――いいことだ!
なにが――正しいことだ!
なにが――人助けだ!
そんなものどうだって!
帰りたい!生き返りたい!
できることならあの通学路、あの道路に戻りたい!
飛び出しもせず、女の子を助けようともせず、傍観に浸り、学校に何事もなかったように登校して・・・。
そう思った。
そうすればこんなことにならなかった。
そう思ったけれど。
だけど・・・。
叫んだことで、すうっと気分が楽になった。
「・・・はは・・」
無理だ・・・。
目の前で引かれそうになってる女の子を見殺しにしろ?
ふざけている。
無理だ、不可能だ、ありえない。
僕はきっと、どんなにあの瞬間を繰り返しても同じ結果を選ぶ。
あの場面で、あの時点で、僕の行動は神髄まで染みついた脊髄反射。
変えるなんてできない。
変わらない。
ミレアが愚かというのが今なら分かる気がする。
愚かだ。
確かに愚かだ。
学ばない。
これだけの後悔をしているのに、これだけ生きたとい思っているのに。
それでも僕は助ける。助けてしまう。
あの時、あの瞬間、助けないことは自分に対して負けだと思ってしまう。
別に、なにに負けとかそういうんじゃない。
譲れない。
許されない。
絶対にダメなのだ。
見捨てたりしたらそこれそ、僕が僕でなくなってしまう。
義善治正が義善治正ありえなくなる。
見捨てたりするなどそんなの僕じゃない。
別の人物だ。
だけど・・・。
だけど・・・。
思考は堂々巡りだった。
なにも答えなんて出ない。
状況が変わるわけでもない。
僕は、もう一度見上げ月を見る。
愚かな僕を優しく照らしている。
血が上る僕の頭を、流れる風が草木の音とお供に流し晴れていく。
止めよう。
今は、この状況を抜けることだけ考えよう。
こんなんじゃダメだと、僕は首を振り考えを直した。
せめて、この森を生きて出ないと。
そうやって考え直した、その時だった――。
「誰かいるのか!」
考えに老けて気づかなかったが森奥から、赤い揺れる光があるのに気が付いた。
人の声だ!
人だ。