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正しき魔王の旅記  作者: テケ
2章 あんじぇピュアラブ
31/175

001

 地獄の拷問から逃れ、案内された部屋のベットで安心して寝た僕たちが起きたのは朝をとうに通り越して昼過ぎだった。流石に、その時間まで寝ていたらメイドさんが再度部屋を訪ねて来て(再度と言うのは僕が朝起きて一度くていることを見ているからである)ずっと起きない僕たちを起こしたのだった。


 そこから起こされた僕たちは眠そうな顔をしたまま初めて会話を交わし、お互いに自己紹介をした。少女の名前はアンジェ・フェアリーライフといい、一応年も聞いてみたら11歳らしい。人見知りしないタイプなのか、牢の中で会話は全くしなかったにも関わらず意外と普通に会話することができたので、僕も名前と年を伝えた。名前については変な名前とまで言われたが、お互いに簡単な自己紹介をスムーズにすることができ、その後メイドさんが持ってきた服に着替えた。


 僕が渡された服は白色のTシャツに紺の長ズボン。どうやら兵士の軽装の様らしい皮のブーツも渡された。ああ――ちなみに、メイドさんの計らいで僕はさっさと着替えたのち部屋を追い出され、部屋の前で待たされた。まあ――流石にアンジェの着替えをまじまじと見ながら待つわけにもいかないのも確かである。


 それから数分後、紺のワンピースタイプのひらひらが何断層にもなってくっついているのゴスロリ服に、長くぼさぼさだった金髪をきれいにとかし、大きな三つ編みのおさげを左右に二つ前に垂らしたアンジェが部屋から出てきた。正直、可愛いと思った。牢の中での彼女とは見違えるほどに変わっていたのだから。


 後から出てきたメイドさんに言われて僕たちは場所を移動する。


 部屋から少し歩き建物を移動する間、何回か兵士とすれ違ったがそのたびにアンジェは僕の服を掴み後ろにくっついて隠れていた。やはり、それなりにトラウマになっているのだろうか、すれ違うたびに怯えている様子ではあったので僕はそれをフォローしながら歩き、目的に場所に着く。食堂だった。どうやら僕たちはへ食事を出してくれるらしく。待つことなく出てきた食事は暖かくおいしいものだった。実に何日ぶりだろうか・・・記憶が飛んでいるので分からないが、久しぶりの食事に僕とアンジェは、出されたスープやパン、肉に泣きながらがっついた。生きている幸せというか、食べる幸せをかみしめて、そのありがたさを僕はその時初めて知った。


 僕は食べなくても死なない体ではあるが、それはあくまでも死なないだけであって食べなくてもいい訳ではない。死なないというだけで普通の人間と同じなのだから、餓死してそれが単に治るだけである。


 食事後――僕たちは泣き止んだのち、部屋をまたも部屋を移動。


 ――そして、今に至る。




「こちらです。どうぞお入りください」


 移動した先は他の部屋よりも大きな扉の部屋でメイドさんが扉を開け、僕と僕にしがみつくアンジェは部屋へと入る。


 部屋は書斎の様で、本棚に囲まれた広い場所に大きな木の机が一つだけあった。その机に肘を着き本を眺める大男が部屋へ入った僕たちを見た。黒髪のダンディズムを感じる大男。昨日僕たちの脱出激を止めたおっさんだ。昨日の重装な鎧姿と違い、僕と同じ服装をしている。


 昨日の・・・。


 昨日のこと事を僕は反射的に思いだす。オレのゲストとして来ないか?そう言われ、僕たちは半ば強制的にその話に乗り、今に至る訳だけど・・・どうして・・・。どうしてそんな事をいったのだろうか。


 「遅かったな。昨日は眠れたか?」


 不意に、おっさんが問う。


「あ・・・、はい・・・」


 一体なんなんだろう。


「フッ・・・。オレはここを統率するブレン・ネリウスルスだ。なに、そう警戒しなくてもいい。ゲストとしてここに来ている以上、お前たちに身の安全は保障する。だが、その前に――」


 ブレンと名乗ったおっさんは机から大きな袋を机の上に出し、尋問だと切り出す。


「お前たち、名は?」


「・・・義善治正です・・・こっちは・・・アンジェ・フェアリーライフです」


 僕にしがみつき、警戒して隠れるアンジェに変わり僕が答える。大丈夫かな・・・。随分警戒しているようだけど・・・。


「・・・」


 そんな僕のアンジェへの心配をよそに、おっさんが僕を睨む。


 ・・・?なんで僕は睨まれているのだろうか。分からないがすごく僕への圧を感じる。なによりもその視線は怖く、僕を縛り付けるような感じ、なにか疑われる。もちろん、僕に思い当たる節はない。なによりもまだ名前を名乗っただけだ、それだけでなぜこんなにも僕を睨むのか。分からない――分からないが、その鋭い視線になんだか悪いことをしている気になる。僕はそこまで意思の強い人間ではないのでこういったことですぐに不安になる。でもなぜ僕を睨む?


 考え付くに・・・。


 まさか――名前が外国だと名前が前に来て苗字が後ろに来るのに、僕の名前がその逆だったから?いや、どうだろう――まずおっさんは僕の苗字が義善治だとは知らない。だから、名前をギゼンジと思うはずなのだ。そこで疑問には思わない。それに、僕の名乗りは、この世界の人にはこの世界の名乗り方に変換されている。アンジェと自己紹介したとき、アンジェは僕の名前をマコトと言った。マコトなんて変な名前と。つまり――この場合、僕の言い方がどうあれ、ミレアの力で正確に伝わっている。それに――何よりも拷問されている時もそうだった。拷問されている時に答えた名前に、僕を殴る兵士はマコトと繰り返した。だからこのことで何か疑われ睨まれている訳ではない。じゃあなぜ僕を睨んでいる?


「お兄さん・・・」


 アンジェが心配して僕の服を引く。


「あの・・・なんですか?」


 結局分からず、視線の重圧に耐え切れず僕は僕を睨んだままのブレンに聞く。


「いや・・・。少し考えてただけだ。年は?」


 考えてたって、絶対なにか疑ってるでしょいまの・・・。


 尋問は続く。


「僕が17でアンジェが11です」


「出身は?」


 えっとこれは・・・。


「えっと・・・」


 まずい。言えるはずがない。僕はこの世界の人間ではなくミレアのせいで別の世界から来た人間なのだから、出身と聞かれても答えれるはずがない。答えたところで、僕の出身である日本の真ん中辺の県の名前などこの世界に存在する訳ないのだから怪しまれるだけだ。


 なら、いっそう女神にこの世界に飛ばされたことを言えばいいのか・・・。いや――やめた方がいいだろう。本気でそんなこと信じてもらえるわけないと思う。なによりも、この状況でそれを言い出すのはなんだか怖い、重大な秘密を言ってしまうような気がして・・・。


 だとしても、やばい・・・。


 僕は口ごもるしかなくなってしまう。


「・・・」


「なんだ、言えないのか?」


 開いた間に、ブレンが眉を潜めた。怪しまれている。


 と、その時――、


「アルクトゥルスから来ました――アンジェとお兄さんは」


 アンジェが答えた。


 アンジェ・・・?


「アルクトゥルス――水の国か」


 ブレンの問いにアンジェが頷く。


「お前たち、どういう関係だ?見たところ兄弟には見えないが?」


 僕の間があったため疑っている。けれど――どうするんだ、アンジェ。


「お兄さんはアンジェの旅の付き添いをしてただけです」


「付き添い?ならその小僧も教団の人間か?」


 少し間が開く。


「はい・・・」


 間は空いたが小さくアンジェは同意した。


「ならばお前たちなぜあの場に居た?話では迷いの森付近に居たと聞くが、目的は?」


 僕の出身地についての問題はパスできたが、それでもブレンの尋問は続く。


「アンジェとお兄さんは教団に手紙であの場所に来るように言われただけです。それだけです」


「手紙――これのことか?」


 そういいながら、机の上に出した袋から一通の紙切れを出した。


 あの袋の中身は僕たちから取っていった私物が入っているのか・・・?分からないが、今は尋問が続く。


「はい、そうです」


 アンジェが答える。


「なるほど・・・」


 そこでようやく尋問んは一時的に止まった。


 どうやら、アンジェのファインプレーのおかげで僕の出身についての問題はスルー出来たようだ。けれど、一つ気になる、教団とは一体なんなんだろうか・・・。ただまあ、兎にも角にもこのまま尋問は終わればいいのだが・・・。たぶんそうい訳にはいかないだろう。思うに、あの袋の中に私物が入っているということなら・・・言うまでもない。僕の私物だ。あれは隠しようがない。僕がこの世界の人間でない証拠だ。学校の教科書類にスマホなど、聞かれた場合ごまかしようがない。今さっきうまく構ってくれたアンジェでもこればっかりは無理だ。


 聞かれた最後・・・つまりのつまりドンずまりだ。


 僕は手紙を閉じ、袋に手を伸ばすブレンを見ながら息をのんだ。

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