002
「ちょいいっ――」
光から僕は投げ出され、上空から木の上へ真っ逆さまに僕は落ちた。
「――あだっ」
バラバラと木の枝を折り、葉を散りばめ僕は地面へと転がる。
幸い、高さそこまで高くなく3階ぐらいの高さだったのと木がクッショントなり落ちたの衝撃は和らぎ、着ていた服が冬服の学ランだった為、分厚い生地の長そで長ズボンでケガをすることはなかった。何よりも地面が草むらだったのが幸いした。
――とはいえ、痛いものは痛い。
僕は被った葉っぱを体から払い、自分が落ちた周りを見渡し場所を確認する。
ここは――森か・・・。
辺りは深いとは言えないが、少し日が入りにくい草木が生えた森。地面が坂でないことから、山ではないようだ。
これはまた・・・。
随分と適当なとこに飛ばされたもんだ。
とりあえず、僕は今どこにいて、どういう状況にあるかについては整理しなければいけなかった。
と――言うのも、この森に飛ばされる前、つまりはあの訳の分からない真っ暗な場所で、黒いモヤモヤに包まれ。
かつ、謎の時空移動とやらををしてここに落ちた訳なのだが。
その、時空移動中に僕をここに飛ばした張本人。
蒼髪蒼眼の女の子。
女神、ミレアスフィール・アルクトゥルス・ウンディーネが不気味で奇妙に、きゃははと笑いながら説明していたのだった。
僕は木の根元もたれに座り、話を思い出す。
説明の内容はこうだ。
その一。この世界の名前は、七つの薔薇庭園 (セブンローズガーデン)。
元の名を、属種の聖なる大地 (エレメンタリーガイア)と言うらしい。
その名前が変わった理由についてはどうでもいいでしょ、と説明はしてくれなかったが、
まあ事実、今の僕にはどうでもいいことなのだか・・・。
――で、この世界はいわゆる僕の世界から言う、異世界らしい。
正直、唐突に異世界と言われ何言ってんだこいつとか思ったりしたが。あの真っ暗な場所や、自分が死んだという事実からもはやなんでもありなのはなんとなく理解できた。
――いや、理解できたというより思考の放棄に近い。
何故なら、不思議体験には考えても僕の思考や常識では追いつかない。そう思った僕は考えるのを止めたからだ。
なにせ、よくわからない横文字が飛び交う上に空間転移という無重力の宇宙空間のように体がフワフワ浮き流れるというよくわからない状態だったわけだし。
唐突に色々起きすぎて頭が処理しきれなかったのが事実だった。
そんなわけで、他にもこの世界については詳しく説明をしていたとは思うが殆ど覚えていない。
ただ、魔法。やら、魔物。やら、について話していたのは覚えている。
なんでも、魔法はともかくとして、魔物についてはいわゆる動物と同じようなものらしい。
野生で山や森、洞窟に住んでるモノもいれば、街中で人と暮らしているモノもいる。
ようするに、僕の世界でいう犬や猫、大型のモノで像やらクマみたいなものだそうだ。
そう考えれば、あながち危険なものでもないのかもしれない。
これについては、話の内容を思い出し中の、僕の勝手な感想と想像。
実際に見てみないとこれ以上のことは分からない。
――で。
問題なのが、魔法なのだが。
女神曰く。
ああ、女神は自分のことをミレアと呼びさないとか言っていたな。
それはさておき、ミレア曰く魔法とは。
聞いた感じアニメやら漫画で見る、不思議な力のイメージらしい。
とは言え、残念ながらその魔法の使い方については「きゃはは。キミには無理だよ少年」とバカにして、教えてくれなかった。
ファンタジー溢れる世界に来ているのにそれに関しては残念で仕方ない。
でまあ、これがその一。
世界について。らしいが、
「ほとんど覚えてないな」
自分の思考力の無さと記憶力のなさに残念に思うが、そんなこと思っている暇でもない。
ミレアの説明を僕は続けて思い出す。
その二。
言語やら、文字などの文明について。
これについては、女神様のありがたいありがたい力により問題がないということらしい。
言葉は僕には日本語に聞こえ、会話相手のこちらの現地人にはこちらの言葉で聞こえる。
挙句の果てに、人の言葉だけではなく、魔物や精霊といった別の意思を持った者とは会話をできるようにしてくれた。
というより、いちいち通じる通じないを設定するのが面倒だったので、全部分かるようにしたということだが。
随分適当な女神だな。
ちなみに、言語も同じように全て分かるらしい。
――魔法は教えてくれないのに、そこだけなんでも分かるって・・・。
レベルバランス間違えてるな絶対。
我ながらゲーム脳だが、これに関しては便利なので気味の悪いミレアに感謝だ。
ただでさえ路頭に迷ってるような現状で、コミュニケーションをとれないなんて本気でどうしようもなくなるだろうから。
って言っても、そもそも人と会えればの話だが・・・。
これがその二。
そして、その三。
その三については――。
僕の頭の上にあるアレだ。
見事に木に引っかかっている。
「流石に届かないな」
僕は頭の上、つまりは自分が腰を掛ける木の枝にひっかる学生鞄を見て僕はぼやく。
その三。
持ち込みについて。
いわゆるこの世界に持っていける自分の所有物。
これについては、原則、僕が死ぬ前に持っていた物になるらしい。
つまり、自分が着ていた制服はもちろん。
今まさに僕の頭の上で木に引っかかっている、学生鞄。
この二つということになる。
流石はショルダーバック。木に引っかかりやすい。
僕の高校は特に学生鞄に指定がなかったため、個人で持っていたショルダーバックを僕は使っていた。
持ち運びやすく使い勝手がよかったのだけど、肩掛けの紐が長い分、引っかかりやすいんだよな。
ちなみに入っているのは、
高校二年生の教科書ノート数冊。
筆箱。
折りたたみ傘。
雑貨屋で買ったナイフやら栓抜きやらピンセットのついて折り畳みツールセット。
財布。
水筒。
弁当。
ソーラー式スマホ充電器。
フリスク。
――だったかな。
ちなみにズボンのポケットにはスマホが入っている。
充電は確認してみると、充電は半くらい。
時間は17時16分。
「これ、時間あってんのか?」
スマホのディスプレイに映る時間が、あってるかどうかは分からないがもうすぐ日暮れだ。
暗くなる前に学生鞄を回収しないと。
僕は立ち上がって木を見上げる。
立って、腕を伸ばしたがやはり届かない。
その四の使いどころだ。
「ミレア。あの枝を折ってくれないか」
僕は、僕の右目に潜む女神に向かって言う。
「きゃはは。いいわ、今回は特別よ」
ミレアが陽気に答えた。
その瞬間、学生鞄の引っかかる木の枝は、どこからか現れた水の刃によって根元から斬られ落ちてきた。
バサバサバサ――。
「ちょ!?――あぶなっ」
真下にいた僕は降ってきた、結構な太さをした木の枝をとっさに避ける。
「あぶな、あと少しで脳天直撃してたぞ」
「きゃはは――」
文句を言う僕に、僕の右目に潜む女神。ミレアは楽しそうに笑い、その声は遠ざかるように消えていく。
別に、どこからか聞こえてる訳じゃない。
耳から聞こえているようでそうでない。僕だけに聞こえる声だ。
これがその四。
女神。ミレアスフィール・アルクトゥルス・ウンディーネは僕の右目に潜み僕の眼から僕を監視する。
その上で、僕は女神の力。
いわゆる加護を得て、不死になるらしい。
なんでも傷が物凄く早く治るのだとか。
良くは分からないが、そうらしい。
多分、僕は空から降ってきてケガをしなかったのは多分それのおかげだと思う。ケガをしなかったのではなく、すぐに治って分から気づかなかっただけなんだろう。
で、今木を斬れたのは、僕が困ったときにある程度手助けをしてくれるとのことらしい。
これについては、ミレア本人のご機嫌がいい時のみだが、今のようにミレアに声を掛ければ彼女は答えてくるとのこと。
ただし、僕はその分代償をを払わなければない。
僕は落ちた学生鞄を拾い上げた。
その五。
「――きゃはは。さあ、ワタシはキミ助けた。少年、愚かに生きてワタシを楽しませてちょうだい」
陽気で奇妙な笑い声と共にミレアの声が聞こえる。
「キミが正し事をしようとすればそれは正しくならないし、キミが、誰かを助けようとするとその誰かは傷づつく。これは正しく生きすぎた少年、キミへの罰。キミは決して正しくこの世界でありえない。きゃはは――」
「・・・・・・」
ミレアの笑い声が消える。
これが代償。
この世界で僕が生きていく中でできないこと。
ミレアは時空移動中に僕の右目に入り僕に加護をもたらしたが、同時に呪いももたらした。
さっきミレアが言った通り、僕は正しいことを、つまりは人助けなどをしようとするとそれは必ず裏目に出る。
詳しくは実際に起きてみないと分からないが、僕にとってはこれはかなりつらい条件になる。
なにせ、人助けをして道路に飛び出して死ぬぐらいなんだから。
分かっていてもきっと僕は正しく生きてしまう。
そうやって今まで生きてきたのだから。
人間そう簡単に生き方なんで変えれない。
女神は、僕に呪いをかけてまで悪いことをさせたいのか・・・。
ていうか、人を祝福して幸福にする女神が、のろいってどうなんだろうな。
最初から疑っているが、ミレアが女神なのかは本当に疑わしい。
言動や僕に与える呪い。しかも人間が嫌いときた。
どれをとっても、女神とは思えずらい。
案外、女神じゃなくて、悪魔なのかもしてない。
僕は森を抜けようとミレアを不審に思いながらも歩き出した。
日が暮れ始めている。