023
ポチャン――ポチャン・・・。
――水滴が垂れ落ちる。
真っ暗な景色の中、どこから聞こえるのか分からない水滴が垂れる音が闇に溶け込み、アンジェは揺れる波紋のようにふらっと意識が戻ります。
ここは――どこでしょうか?
アンジェは確かあの牢で眠ったはずです。
いえ、眠ったのではなく死んでしまったのでしょう。
ならここは――天国?
って、こんな真っ暗な天国なんてありませんね。アンジェが思うに、天国は白くってお花がいっぱいあってすごくきれいな場所だと思うのです。
それに、アンジェが行くべき場所は天国ではなくて――地獄でしょうからね。
ここが天国な訳がありません。
では、この不思議な場所はどこでしょう?
真っ暗で何も見えない。でも、アンジェの姿が見えない訳でもない、お昼のようにアンジェの体だけはっきりと見えます。それに、アンジェの無くなったはずの手足が戻ってきています。服は着ていませんが・・・。
アンジェの手と足・・・お久しぶりです。
そんな挨拶をしている場合ではないのですが、本当に・・・帰ってきて良かった。
手足がなくなったことが一番、悔やまれる体験でもあったので、すごくすごくうれしいです。
手足の感触があるというのは、こんなにもいいことだったのですね。次からは手足は大切しないと・・・次があればの話ですけど・・・。
見たところ天国でもなければ、地獄ですかね・・・。随分地獄も殺風景なとこでですね、真っ黒でなにも何も見えません。足元も黒ければ目の前は確かに広い場所とは分かりますけど、真っ暗です。黒で塗り固められています。
・・・。
お迎えもないようですし、少し歩いて見ますか。
おとうさんに会えるかな・・・。
何時間歩いたんでしょう。時間は分かりません。
しばらく歩いて見ましたけど・・・なにもないです、ポチャンポチャンと水が水を打つ音しか聞こえないです。
これが地獄なら――確かに地獄ですね・・・。
ははっ・・・アンジェには相応しい地獄です・・・。
ここで目が覚めた時、恐怖はありませんでした。
――ですが、こんなにも何もない真っ黒が続けば心細くなります。寂しくなり、不安になって怖くなります。
おかあさんに会いたくて、女神様を探す旅をしていたアンジェにはアンジェにはこの場所は相応しいです・・・。
永遠に自分の求める人とは会えない・・・。
そんな場所――気が狂いそうになります。
いっそ・・・狂ってしまった方がいいのかもしれませんね・・・。
いっそ・・・ん?。
そんなことを考えていたら、どこからか声が聞こえました。そしたら、周りの水を打つ音が消えます。
辺りは静寂になって、いっそう真っ黒な闇が怖くなり――、
途端、アンジェの怖いという気持ちは消えてなくなりました。
女の人がアンジェの前に現れます。
どこから出てきた、というのは分かりません。ですが、アンジェの前にその人は居ました。
蒼いの長い髪に、真っ黒なドレス。綺麗で可愛い人です。その人の美しさは、この真っ黒の世界でも輝いて、アンジェの恐ろしさや不安を取っ払ってくれたのです。
アンジェはこの方を知っています。
お兄さんの前に現れ向かい会って話していた人。どうして、お兄さんがこの方と話していたのかは知りませんが、アンジェはこの方を知っている。
この方は――水の女神ウンディーネ様。
昔世界を守護していた七人の女神様の一人、水の国を守護していたその方。
水の女神ウンディーネ様です。
アンジェが探していた女神様です。
でも――なんで・・・。
女神様は、時空の勇者に特別な場所へ全員押し込められたと聞きました。だから、女神様の方からアンジェの前に出向く訳がないのです。
なのに・・・どうして・・・。
女神様がアンジェに優しく微笑みます。
そして、語り始めたのです――。




