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正しき魔王の旅記  作者: テケ
1章 偽善ジャスティス
18/175

018

 願いは・・・叶ったのでしょうか・・・?


 翌日は誰一人牢に入ってきませんでした。


 昨日のまでの、アンジェへの行為が嘘のように静かでした。それはもう、小鳥のさえずりが聞こえるぐらいに。


 疲れ果てたアンジェの体を癒すように、聞こえました。幻聴かもしれません。真っ当な判断ができません。今日も今日とて寝不足です。寝てしまうと、兵士が来るのではないかと怖かったです。だから――寝ていません。ただ、ボーっと壁にもたれているだけでした。


 何か考える体力もないです。そうしていたら――、気づけば夜です。時が戻ったような、もしくは実は夜で止まっていたような、そんな気分です。時間が経つのがこんなにも早いなんて・・・。


 ですけれども、


 そんな、憂鬱な気分は一瞬にして吹き飛びました。


 ガチャリと部屋の扉が開き、兵士が入って生きたのです。


 もちろん、アンジェは怖がりました。扉を開ける音に敏感に反応して、体が震えはじめます。怖くて仕方ありません。静かな牢屋に響いた扉の音は、アンジェを地獄へと誘うスイッチか何かでした。


 そのスイッチが入ったみたいに、一瞬で心臓がバクバクと跳ね上がり、体が震え始めたのです。


 もう、嫌です。もう――イヤなんです・・・。


 牢の淵にうずくまり願いました。


 牢の扉が開きます。


 願いました。目を強く瞑り必死に願いました。謝りました。なにに謝ってるのかはアンジェでもわかりません。でも心の中で謝りました。


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 ――助けてください。と・・・。


 そうやって、ふさぎ込んでいると何かドサッと落ちる音がしました。


 牢を閉じる音が聞こえます。


 また、アンジェの願いは通じたのでしょうか・・・?目を開いて見ました。


 どうやら、そういう訳ではなかったようです。


 なんと、目の前にはお兄さんが居ました。


 倒れていました。


 そのお兄さんが起き上がり、周りをキョロキョロと見ています。


 なんで?昨日は死んでいたのに、お兄さんは生きて動いています。なんですかこれ、夢なんでしょうか?・・・違います、体は痛いです夢なんかじゃありません。じゃあ、お兄さんは幽霊?――だとしたら怖い。訳が分かりません。アンジェはますます震えて用の淵にうずくまります。


 お兄さんはその間に何もない牢屋を見渡し、――どうやら、アンジェは見つかったようです。


 お兄さんがアンジェを見ています。


 見て、ゆっくり近づいてきます。近づいて、アンジェの前に膝をつき、アンジェを見ています。


 アンジェの全身をなめまわすように、真っ黒な両目がアンジェを見ています。怖いです、すごくすごく怖いです。昨日、死んでいたはずのお兄さんが、アンジェを見ています。


 食べられそうな、そんな気がしまいた。


 そう思っていると、お兄さんが手を伸ばしてきました。スーッとゆっくりアンジェへと大きな手が、顔へと延びてきます。


 こわい・・・。いや・・・イヤッ――!


 弾いていました。反射的でした。近づく手に、その圧力みたいな怖さにアンジェは布がはだけることも忘れて弾いていました。


 拒んでいました。


 もう――誰にも近づいてほしくありません。


 みんな、みんな、アンジェをいじめます。


 こわいです。・・・怖いんです・・・。


 だから、はだけた布を多い更に淵っこへと縮こまります。もう壁と一体化しているみたいです。


 でも、なぜでしょう。怖いはずのお兄さんは悲しい顔をしています。悲しい顔をして、離れていきます。離れて、アンジェに届かない場所に座り目を瞑りました。


 ガタガタと体の震えは止まりませんでしたが、少し安心しました。このお兄さんはアンジェになにもしなません。それだけでも安堵しました。それどころかなんだか申し訳ないです。悲しい顔をしたお兄さんがすごくかわいそうに見えました。もしかしたら、悲しむお兄さんに、自分を見ていたのでしょうか・・・?


 気づいた時にには、お兄さんはもう寝てしまっていました。


 それがいつなのかはわかりません。お兄さんがアンジェに触れようとしてからどれぐらいたったのか、分かりません。それぐらい、アンジェは混乱していました。


 でも――その日は不思議と安心して眠れました。


 誰もいない、そんな寂しい場所ではなく、お兄さんが居るだけで、アンジェは、安心してしまいました・・・。


 不思議です、さっきはあんなにも震えていたのに。



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