016
とっさに右手に抜いたそれは、女神のミレアの剣。
何度か抜き出しはしてきたので、そのコツはもう掴み切っている。
その抜いたミレアの剣とサクラの宝剣がぶつかり、キィーンという金属同士がぶつかる音を上げて、お互いの剣を弾き合った。
なんの策略もないただの力任せの振りだったが、それが幸いしたのかサクラの強い力にも対応できて、お互いに大きくのけぞった。
(きゃはは、少年……ここで斬られてはダメよ。傷がつかなくても少年の精神へ不可が生じる。それはキミの呪いでは再生できない)
頭にそんなミレアの警告が響き、オレの周りに雨粒のような水滴が浮かび上がって、それがサクラへ注いだ。
石の地面を削る程のその射撃。だが、のけぞった体制にも関わらず、サクラは大きく跳躍し宙返りして、優雅に可憐に。着地音もしない美しい着地をしてサクラは再び剣を構えた。
それとほぼ同時に、オレものけぞった体を戻しミレアの剣を構える。
「どうしてっ!こんなことするんだッ!」
「言ったじゃん。私はあの人の恋人。キミがあの人の邪魔をすると言うならキミは私の敵」
「だったら、なんでさっきはあんなに親し気に……」
あんなに親し気に、オレに話した。
エリザベートのことも自身のことも。まるで心を許しているような……。
「まあ……そうすればキミは同情して戦うのをやめてくれると思ったから――かな?でも、キミはそんなことなんて関係なさそうみたいだったし、だからもういっかなぁって。それに、邪魔者をそのままにしておくわけないじゃない?」
その向けられる瞳は冷たい。
この眼、前にフィーに向けられたものと似ている。
勇者への絶対な愛。それ故に狂い、邪魔者を排除する目。
本気だ。
手段は択ばない。自身たちの暗い過去だろうがすべて利用する。
その在り方は、確かに守護者としてのモノだ。
「だから――」
サクラが左手を天へと真っすぐ掲げる。
「本気で潰しにいかないと」
そう言いうと、天から一枚の羽根がヒラヒラと舞い落ちる。
それは天使のような。純白の美しい羽だったのかもしれない。
キラキラと光の粒子を散らしながら落ちてくるのが濃い霧の中でも分かる。
そうして、それをサクラが突き上げた左手で握り潰すと。
いくつもの羽が握った拳から噴き出、その羽が剣の形を模った。
あれは……。
天使の翼。そうそう表現するのが似つかわしい。二枚の天使の羽のような羽が向き合いお互いに交差するように重なって、真っすぐ剣の刃を模っている。
鍔は大きく広がり、柄を囲むように蒼色の金属が羽を模りながら先端まで伸びて、その柄の先端には丸い白輪模った鎖がついており、その先にキーホルダーのように羽の装飾が着いていた。
間違いないあれは……。