015
「なんだ……黙って見ててくれるかと思ったのに……」
剣を構え直し、ミレアと対自するサクラ。双方の瞳がゆらりと煌めいてミレアを睨んだ。
「きゃはは。まさか、ワタシの少年に手を出しておいて黙っていると?」
「ふうん……ホント、どうしちゃったのかなー。あなたがそんなに人間に親身なるなんて」
「別に?きゃはは――少年が特別なだけよ」
親し気に交わされる会話。
けれども、会話をする当の二人からは明らかに相手に対して敵意を放っている。
なんなんだ一体……。
オレは立ち上がり、ミレア越しにサクラを確認する。
間違いない。
さっきまでの陽気で親しげさなんてどこにもない。剣を構えるサクラから先ほどとは別人のような重圧を感じる。
でもどうして。
「なんでこんなことするんだ」
さっきまでまるで敵意なんてなかったのに、ティアラから青の薔薇をもらって和解していると思ったのに……。
違うのか?
「なんで?まあ……そうだよね。理由は簡単だよ。私はあの人と敵対する気なんてない。ティアラは王としての自分を取ったみたいだけど。やっぱり私はそうはできない。
確かに、私の願いは王として輝きたい。そう言う夢と渇望が私。でも――私は既に死んでいてその役目は終わってる。だから、私はあの人の女としての私を取る。それがどういう意味か、分かるよね?」
それはつまり、オレ達とは敵対するということ。
オレは思い間違いをしていた。
サクラとティアラの意思は同じものだと思っていたけれど、そうではない。
サクラはサクラティアラはティアラなのだ。
ティアラは、王としての自分を取って、王としてこの世界を救おうとしている。
サクラは、勇者の恋人としての自分を取って、恋人として勇者を救おうとしている。
結果的にどちらも、最終的に行きつく先は世界を救うという点ではきっと同じだ。
ただ、やり方が違う。
勇者を打倒して新しく世界に神を置くか、今の勇者を手助けしてどうにか世界の綻びを抑えられないかと考えるか。
この二つの間、オレは前者側。
ならば、後者であるサクラが敵対するのも必然的。何故なら、サクラたち守護者は勇者が討たれることを良しとはしていなのだから。
「じゃあここにオレを呼んだモノも……」
「そう。ここならキミの不自然な回復力も機能しない。だって――斬られるのは精神だからね。ここ夢の中だし。でも――それだけでも十分。精神に強いダメージを受ければしばらくは起き上がれない。だからっ――!!」
「少年ッ!!」
剣を振りかぶっり真っすぐ飛び出したサクラに対し、杖を自身の前に、横向きに壁を張るように構えたミレアの前に蒼色の魔法陣が大きく展開してその斬撃を受け止める。
陣により現れた見えない壁によって、サクラの宝剣が壁に打ち付けるかのようにして止まる。
「ミレアっ――!?」
勢いに目を瞑ってしまったが、見ればミレアがティアラの攻撃を防いでいる。
ただ――その守りの見えない壁に対してサクラは無理やり破壊しさんとして、一度剣を引き打ち付けると強い衝撃破が壁を貫通してオレ達へ響いた。
「きゃはは。これはきついわね……」
受けるミレアの表情は歪んでいる。
そして――
「こんな壁!!」
連続で剣を打ち付け、そのたびに強い衝撃が壁を突き抜けて、オレ達を襲う。
どんなけバカ力してるんだ……ッ!!
ダンプカーかよッ!?
凄まじいその衝撃に驚きながら、そのとうのサクラを見れば打ち付ける壁がヒビが入り光が屈折しているのを知る。
マズい……。
壁の限界がきていた。
いくらミレアの魔法といてでも、即席で作った防御壁。そんなに強度はない。
いや……それでも、大抵の魔法を軽く防ぐぐらいの強度はあるはずだけど……。
それをただ剣で打ち付けるだけで破壊しさんとしている。それも力ずくで。
「っ――少年。きゃはは――選手交代よ」
「えっ!?」
そう言って突然ミレアは透明な液体状に溶け、吸い込まれるようにしてオレの右眼へと入り、憑依してくれる。
いきなりすぎるって……ッ!!
力が湧いてくるそんな、感覚がどことなく感じるがそれを感じている暇なんて今はない。
瞬間――透明な壁はガラスのように粉々に砕け散った。
サクラの剣がオレへと再び襲い掛かる。
「くそっ――!?」




