014
「クスッ……意外とロマンチストなんですね」
思わず口に手を当て笑ってしまう彼女。それにはオレに啖呵を切られて怒っている様子はない。
むしろ、オレの回答を面白がっているようで、そんなことを言ってくれる。
確かに、オレだってロマンチスト過ぎるだろうと思う。
というか、今ここで鏡があって自分の顔を見たならば、きっと真赤だ。
強く語っといてなんだけど、思い返してみれば恥ずかしいのだから……。
けれど、それよりもそれも忘れてしまうぐらいに意外だったのは。
「怒らないんだ……」
サクラがオレの否定に怒らなかったことだ。
サクラの話の節々、それは自身の主張は絶対、異論は認めない。そう思わせるぐらいの強い主張で、ソレを貫いてきたのだから、その主張自体を否定するのは、サクラ自体を否定しているものと変わりない。
要は、お前の在り方は間違っている。生き方は間違っている。そう言われているのとなんら変わりないのだから。
それなのに、そうなのにも関わらず、サクラはこうして笑っている。
それがオレは不思議だった。
オレが会って来た守護者は、自分の愛し方は絶対だと思っていて、それを貫き通す、強い一種の誇りやプライド見たいなものがあったから。
サクラもそこは違いないとは思ったから、怒るものだと思った。
「確かに……キミの言う通り、正直ムカつくな―って思うよ。でも――まあ……私も他の守護者が悪いなんて思っている訳じゃないから。私は私のやり方であの人を好きでいるだけ。
認められはしないけど、他の子があの人のことを思う気持ちには間違いはないと思ってる。
なにより――お姉さんはそんなことでは動じませーん!!」
っと、それなりに大きい胸を張ってくれる。
「あ……うん……」
なんかまあ……怒らなくてよかった……。
そんな陽気な彼女に、どんなキャラしてんだ……。そうオレは苦笑していると、サクラは静かに笑顔から引きしまった顔に戻し。
真剣な表情をしてオレを見る。
その態度に、ただならない感じを感じてオレも静かに彼女を見た。
「それに――今はそのことで張り合っている時間はない。私が出てきた理由まだ言ってなかったよね?」
「あ?ああ……」
そういえば、大きく脱線してしまったけれども――オレがこの場に呼ばれたことについてのなんら回答には至っていない。
「まあ……。なんだかんだ目的の三割ぐらいはもうしちゃったけど……」
そう言って地に突き立ていた剣を握り、
「私はね――キミを止めに来たの」
サクラは目の前のオレに向かって、その剣を両手で持ち振り下ろしてきた。
「ッ――!?」
その斬撃は間違いなく本気でオレの体を両断する気のモノで、突然の事で身動きの取れなかったオレは、体に剣が触れる瞬間、何者かに襟首を捕まれ後ろへと吹っ飛び尻餅をついた。
石の地面に尻餅をついた衝撃でお尻が痛いが、おかげで剣で斬られることはなかった。
けど――なぜ突然。大体、誰がオレを引っ張ったのか?
「ミレア?」
見上げればそこには、オレをかばうようにミレアが居た。
黒いドレスに金の三又の杖を右手に地面に突き立てて、サクラからオレを遮るようにしてミレアが立っている。
何故ここにミレアが……。
「きゃはは。なにも不思議なことではないでしょう」
不吉な笑みを浮かべるミレアは、オレの疑問を呼んだのかそう答えた。