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正しき魔王の旅記  作者: テケ
五章 勇者エンド
165/175

011


「馬鹿げてなんていないよ。十分すぎるぐらいだよ世界を破壊しようと恨むには」



 つい言葉として漏れていたことにサクラは、強めの口調で否定した。



「むしろ魔王の間、我慢できていた方がすごい。

それに――あの人は世界の崩壊よりもエリザベートを救うために、封印する側もエリザベートを縛る神様も倒して、荒れる力の中、手を引いて抱きしめちゃうぐらいだし。

『だれもお前を愛さないなら俺が、俺だけが愛す』って言ったってフィーが嫉妬して言ってたよ。

そんな自分の代わりに全部取っ払って、抱きしめられてそんなこと言われたら落ちない女の子なんていないよ。

だからエリザベートはあの人についていってるし、離れない。エリーゼはその時あの人の力でエリザベートから分断されて記憶も共有した。だから同じようにエリーゼも離れない

ずるいよね、死にたくなるぐらいの、殺してって叫んじゃうぐらいの地獄からそうやって強引に引っ張り出すんだもん」



 そこで、最後の一段を勢いよく降りて、再び階段前へと戻ってくる。



 なるほど……。

 確かに、そんなことがあったらならエリザベートが勇者を好きになる理由も分かる。

 憎しみも憎悪もすべて受け止めて、自分を窮地から助けてくれる。そんな奴がいたなら好きになっても当然なんだろう。

 


「だけど……」



 一番下の階段の前で、一段上に居るオレにくるっと向き直って、サクラは今まで言ったこと全てを否定するように、つよい口調と眼差しでオレを見上げて言う。

 

 

「それでもあの人のことを好きで、あの人により沿って守護者をするのは間違ってる。ううん。そのことで好きになるのがダメって訳じゃない。私もそうだから……。

私はね、国のお姫様だった。

でもね――ある日、クーデターが起きたんだ。起こしたのは国の指揮役の大臣の一人。そいつがおとうさん以外の全員の権力者を引きいれて、おとおさんを殺した。勿論、王様だったおとうさんに味方する人は貴族だろうが、召使だろうが、一般市民だろうが。反発する人はみんな殺された。

それも……ただ、国を奪って、奪った国の国民を全員魔物の復活の生贄に捧げるためだけに……。

私は、その儀式の前準備の為に殺されはしなかったけど、数年地下の独房でぼろ布一枚で奴隷にさせられた。

毎日ぼろ切れを羽織って、食べ物はパンの欠片とドブの泥水っ。前準備だと言われて、毎日腕をナイフで斬られて血を抜かそれを捧げられたわ。

そんな生きているのが不思議なぐらいの奴隷生活が数年続いた……。

それでも……!!

ずっとずっと、いつか国を元に戻せる日がくる。そう信じて……そのためを思って生きてたッ!!」



 声を荒げるサクラの瞳は気づけはうるうると橙色の光に照らされていて、ついには涙を浮かべながらオレへと、腕を広げ訴えかけるように怒鳴。

 

 

「けどっ!!私は見せつけられた、かつて自分が通った街のお店の優しいおじさんおばさん。面白い話を訊かせてくれた旅商人のおにいさん。自分がはしゃいで歩いた街なみ。全部魔物の生贄に捧げられる瞬間をっ!!

みんな地面から伸びる黒い影に苦しんで、引きちぎられて、出来上がった化け物は街を粉々にして全部壊したんだよッ!!」



 そこで、サクラの静かに感情の高ぶりは収まる。

 と言うより、出し切ったという感じで、脱力した彼女は、肩を落として涙を垂らし。



「その時思ったの……私はなんの為に生きてたんだろうって、私が生きてきた意味はなんなんだろうって……。

それから、崩れて瓦礫の山になった街を前に訳が分からなくなって……。ずっと何度も、捕まったままいろんな国が壊されて人がごみように、バラバラに人の形をしないように街が街の形をしないようになるのを見させられて……。何も感じない、何も聞きたくない……。そう願ってた。

でもね、悔しかった。なにも考えられないけど、確かに悔しかった。私は私が望んだことが何もできなくて全部全部なくなっていくそれが……」



 そこで、サクラはドレスの袖口で涙を拭い。

 崩れた表情を戻し、元のきりっとした顔つきで僕を見て。

 

 

「あの人はそんな私を救ってくれた。ただそれは、魔物を打ち倒すのではなく、私をとらえる大臣の男を殺すのでもなく。ただ、私に手を差し伸べただけ。一本の剣と本の一つの小さなティアラ」



 彼女が右手の手のひらを前へと胸の前で突き出すと、真っ白な霧は湯気のようにうねり集まり、濃く真っすぐな形を模して閃光を瞬くと、それは剣になりサクラは手に取った。

 黄金の柄に鍔の中心にはエメラルドのような美しい宝石が埋め込まれた宝物。そう言っても噓偽りない真っすぐ伸びる銀の刃をもつ長剣。

 ティアラの使って居た剣だ。

 

 

「これを渡してくれて、総て自分の力でどうにかしろと。全てを復興させ輝きたかった私にそのチャンスを与えてくれた。もちろん、ある程度の手は貸してもらったけど……。

それでも――魔物をこの手で撃ち倒して、この世界で国の復興のチャンスをくれた。

好きだよ。もちろん。私を思いその想いを全部抱いて、訊きいれてくれるくれるあの人を。でもね……」



 剣を地に突き立て、カンッっと音を立てて彼女は言い切る。

 


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