009
だって、そんなことで諦めるようでは、あの勇者には響かない。
ティアラもそうだったように――オレが思うところ納得はできないが、守護者となり薔薇の称号をとやらを受け取った者たちは狂っていた。
愛に狂うからこそ、感情を燃やして力は強い。
愛に狂うからこそ、真っすぐ自分を信じていける。
愛に狂うからこそ、狂者となれる。
彼女達は間違いなくそう言うものだった。
守護者のなり損ないと言われた申子の者たちも、それは明らかにオレが思う普通とはズレた価値観を持った者たちだった。
であれば、最初に正式に青薔薇を受け取ったサクラはがそんな、種族がどうこう劣等感がどうこうで諦める訳がないんだ。
そうでなければおかしい。
それは――、
「嘘だ」
少なくとも、オレはそう思う。
あの、オレに向けられた、フィー、エリザベート、クリア、フレデリカ、レアの高圧な殺意はそういう、異常なまでの想いから来ていたのだから。
「あなたはあきらめたみたいに言ってるけど、そうじゃないんでしょ。それに――敵わないなんて言うのも、認めてはいない」
言われ、サクラはしばし沈黙する。
瞳を閉じ、桜色の唇が少し震える。
何を思っているのか。なにを考えているのか。分からない――。
分からないけど、いまオレが言った言葉に、深く己自信を見ているのは分かる。
自分の過去の記憶をたどって、自身の奥深く、その中にある強い愛しいという想いを見ているのは。
「……そう」
「え?」
小さく返したサクラは、瞳をゆっくりと開けてオレを見据える。
その瞳には真剣な眼差しが宿っていて、「そんなことキミに言われるまでもない」そう言っているようにすら取れる。
煌めきは強く、ハッキリとした口調で
「そうだよ。だからこうした。あの人により沿って守護者をするのは間違ってる。そう思ったから……。私はね、彼の周りにいつまで居るのは甘えだと思った。まあ……偏見とか私の勝手な価値観がないというわけでもないんだけどね。
少なくともそう私は思った。守護者として彼の周りにいる子たちはみんな甘えてるって」
「甘えてる?」
「そう――。知ってる?他の守護者の子たちや申子の子がどうやってあの人と知り合ったか。好きになったか?」
歩き始め、石造りの階段に一段登り、オレよりも高い位置を取ると、その段でオレへと向き直る。
「いや……」
知らない。そもそも、オレは勇者の過去など知らない。
あいつがどうやって世界を魔王から救ったのか、その間の旅がどうだったのかなんて……。その後どうしてきたかなんて……。
童話程度の結果しか知らない。
「そうだね……。まあ……知らなくて当然なんだけどね」
そのまま手を背で組み、階段を行ったり来たりするようにゆくっりと長い長い先の見えない階段を一歩一歩、登っていく。
もちろんそれにオレもついて行く。
「そんな記録この世界に存在しない。だって――彼が旅をしたのはこの世界だけじゃないだもん」
「それは、どういうことなんだ?」
「そのままの意味だよ。まあ……細かい説明は抜きとして。いろんな世界、こことは違う異世界で私たちはあの人に会った。ううん――助けられたのかな。フィーは違うらしいけど、エリザベートもエリーゼも、アウロラも私も。クリアやレア、フレデリカ、その他の子たちも。みんな、助けられた。
そうだな――まあ……あまり人の過去とかべらべら話してくはないけど……。
エリザベートとか全盛期は魔王だったって聞くぐらいだし」
なんだそれ……。確かに、エリザベートのあの邪悪さは魔王なんて言われても納得しかできない。
人知を超越した力、ただ睨んだだけで人を殺せそうなあれはまさしくそうなんだろうけど……。
魔王が救われたって言うのも訳が分からない。というか、アレが救われる構図はどういうものなんだ……。
そんな疑問知らずか、ジグザグに階段をゆっくりと上がりながらサクラは語る。