008
そんなサクラとは裏腹に、いやいや、おいおい、まてまてとオレはツッコミたい。
なんで今ここで、その初代ティアラ様が出てくる。
それもオレを夢の中で呼び出してまで。
だいたい――随分と今のティアラと性格違がう。本当にあのティアラのご先祖様なのか?
「疑うのはよくないなぁ。まぁ……確かに、今のあの子とは性格は全然違うけど、本物のご先祖様。あの子は血統書付き、私は雑種だとでも思ってもらえればいいかな」
そんな、犬や猫じゃないんだから……。
それにそうだとしても、彼女がオレの目の前に現れた理由はかいもく見当もつかない。
「どうして僕をあなたは呼んだんですか?」
「ああ。別に敬語じゃなくていいよ。そーいうかたっくるしいの嫌いだし。んで、どうして?――こぉれ」
そう言いながら、サクラは自分の頭に付けた青薔薇の髪飾りを左手でトントンと叩き指した。
髪飾り?
その指しめす様子に、青薔薇の髪飾りが関係しているのは感じ取れたが、それ以上の深い理由が分からない。
「青薔薇。これには私の心が映っている……。私自体はだいぶ前に死んじゃったしね。ほら、いちおう私って他の魔女のエリザベートだとか妖精のフィーとかと違って人間だし。だから――キミを呼び出してもおかしくはない」
いや、訳が分からないのだけど……。
「じゃあ、今のティアラは勇者の孫?」
ふと思い浮かんだことが口に出る。
青薔薇って、勇者を好きにならないともらえないんだよな……?
「プッ……アハハハハッ。気になるとこそこかぁ」
吹き出した。
おなかを抱えて盛大に笑ってくれる。
いやまあ、自分でもそこかとは思うけど。
ふと、なんとなく思っただけだ。そうだとしたら、子孫が自分の男とできてることになる訳だし……。そもそも、それはオレの中の一般常識としてどうなのかという……。
「クッ……アハハッ……。ごめんごめん――違う違うそうじゃないよ……アハハッ……」
どうも、本気で笑いのツボをついてしまったようで、サクラは必死に笑いを抑えようとしているものの、その笑いはあふれ出る。
「確かに……アハハッ……。少女趣味のろくでなしのあの方ならやりそうだよね……、代々ティアラと子供創るって……ハハッ――」
「いや、そこまでは思ってない……」
大体、ろくでなしって……、あんた勇者のこと好きじゃないのか?
勇者最優先のエリザベートやフィーとは随分と違うんだな。
「アハハッ――ハァ……」
満足したのか、大きく深呼吸をして呼吸を整えるティアラ。
完全に落ち着いてから、大きく深呼吸をして、
「まぁ……私はあの人と結局結ばれなかったんだよね。確かに、私自身の時間を止めてあの人と永遠にずっと一緒に生きていくこともできたけど、それはしないって自分で選んだの」
「なんで?」
訊いたオレに、サクラは少し俯いて
「だって、持ってるものが違い過ぎたもん。私は世界を回ったあの人の最後の守護者になった者。私が守護者になった時にはもう、フィーもエリザベートもエリーゼもアウロラも居た。かなわないよあの子たちには。だって――私はただの人間だから……」
最後に寂しげにそう呟いた。
それは、どこか悔しさ混じりのようなモノも感じる。
自分が恋焦がれた時、もう勇者の周りにその者たちはすでにいた。それもずっと前から。
ただの人間で、魔女や妖精とは比にならない存在その物の圧倒的な劣等感があったんだろう。だから諦めた?
そんな訳がない。