004
ニカッと笑って彼女は突き出した頭を戻し、再び外の風景へと視線を落とす。
そうして、彼女は澄んだ瞳を細くして言う。
「不思議ですわよね、建物一つ壊れてないのですから……」
呟かれたその言葉に、オレは確かにと思った。
魔法の撃ち合いも間違いなくあっただろう戦闘。その被害たる後傷はどこにもない。
文字通り、何事もなかったかのように。
それは――あからさまにありえない光景。
なにも壊れていないなんてありえない。そんな常識がオレの頭をよぎる。
考えうる理由としては……。
「誰かが直したんじゃ……」
そう――魔法の世界なのでから、それぐらいできて当然。
魔法で誰かが直した。ただそれだけの事。
けれども――ティアラは首を左右に振った。
「そうではないのです。この街はもともと傷がつかないのでしてよ」
「え?」
それはどういう?言っている意味が分からない。
「この街を覆う氷は決して解けることも砕けることもないのです。まるで――心を閉ざしてしまったミレアスフィール様のように……」
だから、傷など残っていない。
そんなもの初めからなかったのだからと……。
「でも、ミレアとは関係ないんだろ?この氷」
「さて……この街がこうなってしまったのは魔王討伐後だと伺ってはいますが、ワタクシにも詳しい事は分かりません。ですが、国の在り方は女神の心を模したモノと訊きます。もしそれが本当ならきっと、ミレアスフィール様の心は今もこの氷のように固く閉ざしてしまっているままなのでしょう」
ミレアが?
「思い当たる節はあるのではなくて?」
それは――ないことはない。
ただ……オレにもよく分からない。
あの天邪鬼とも真っ当に契約を果たしたのもつい昨日の今日のことで、こちらからふさぎ込んでいた心を開いたのも同じ。
確かに、何かに悩んでいるようではあるが、その全てをオレは知っている訳ではない……。
「……心当たりはない訳じゃない。けど分からない。ミレアが考えていることも、何をしようとしているのかも……」
分からないし知らない。
和解していても、彼女の根っこの部分は読み取れれない。
「そうですか……」
「大体、あの天邪鬼はオレを落とし入れる気しかないよ」
そう反抗じみて言うと、ティアラは再びクスクスと楽し気に笑い出した。
「そうですか……クスクス。案外――ミレアスフィール様もアナタのことが好きなだけかもしれませんよ」
いや……確かに好きとかどうとか言ってたけど……。
そんな愛情うれしくない……。




