063
悔しくて悔しくて悔しくて、オレはたまらず地面に拳を突き立てた。
ミレアの言うことは分かってる。
あのまま居たところでどうしよもない。遊ばれ、オレが屈辱的な思いをするだけ。
オレの力じゃあの勇者には及ばない。
だから引けと、これ以上醜態をさらしても意味なんてありはしないと……。
分かる。分かるさッ、そんなこと……。
でも――ッ!!
「マコト大丈夫か?」
寄ってきた王と女神の中から、膝をつきオレを心配するクラリアさん。正直、返す言葉もない。
オレはあの場に何しに行った?
勇者にもて遊ばれる為?
圧倒的な、守護者との力の差を見せつけられに?
そんな事の為にオレは――オレは……。
「ご無事で何よりです。なにがあったのでしょう?」
オレとミレアの様子を見て、ティアラは訊く。
「勇者と戦ってました……でも、全然敵わなくて……遊ばれて……。クソゥッーー!!」
再び地へと拳を突き立てる。硬く氷に似た床を殴る拳は無慈悲に軋み血を流す。
それでも――そんな些細なケガすら、ミレアの加護は直してくれる。
そんな、奇跡を保持してでも敵わなかった……。
治る傷を見ているだけでも、悔しくて仕方ない。
「そうですか……。師のやりそうなことです。気にしないでください。あの方も、悪気があってしている訳ではないと思いますので」
そんなこと……。
あれが悪気がない?
あんなの、悪意しかない。
ただ、遊んでいるだけだった。オレをおもちゃにして、ワザとオレを挑発して。
クソッ!!クソッ!!クソッオッ!!
「なんでオレは弱いんだッ!!――ッ!?」
何だろうが傷は治る奇跡。
時を止める程の強い思い。
すべての魔法を両断するナイフ。
それだけのモノを持っていても、敵わない。
違う、違うんだ。そもそも――ものがあったって、その使いたが分からなければ意味がない。
相手は勇者だ。
一体今まで魔物や人間と戦ってきたなんて分からない。でも、圧倒的に場数がオレとは違う。
オレみたいに、この世界で逃げるしかできなかったオレとは……。
だから、なんでと、なんでなんて分かりきっていたとしても、それが悔しい。
悔しくてたまらない。
「少年」
振りかぶってもう一を床に殴りつけようとした腕を、ミレアが握り受け取める。
「ミレア!はなせっ――このッ!!」
暴れるも、掴むその力は強く、振りほどけない。
「少年。今が一番惨めよ」
「あっ――っ!?」
言われ、オレの手は脱力する。
言ったその眼は真剣で、オレのことをしっかりと心配しているのが分かる。
でも――だって……。
一番惨め?
惨めなんてどうでもいい……。オレはあんな奴が認められないだけなのに……。
ミレアがオレの腕を離すと、その手はポロリと落ちる。
「きゃはは――少年、自分の目的を思い出しなさい。キミはそんなことに惑わされている余裕なんてないでしょ?あの小娘を生き返らせるのでしょう?」
「それは……」
それは……そうだ……。
オレは……。
なのになんで、オレはこんなにも……。
ひとつ、涙が垂れるオレの前にミレアが膝を着く。
「少年、アナタが悔しいのは自分が弱いからでも、勇者が憎いからでもない。ただ――愛を目の前で振りまかれているからよ」
そう言って、ミレアがオレの頭を胸に抱える。
そんなミレアの胸が暖かい。
「自分がもうできないその触れ合いを見れば悔しくなるのも仕方ない。きゃはは――でもね、嫉妬で冷静を失うのは良くないは。良くない。少年――きゃはは、アレが憎いというのなら、疎ましいというのなら、なおさら本来の目的を思い出しなさい。アナタの相手は彼ではなく、アンジェなのでしょ……」
そんなこと言われなくても……。
オレは……。
アンジェ……。
4章 END