061
「レア――見つけしだい尋問。あとは好きなようにしていいぞ?」
よしをもらった犬がにたぁっと笑みを幸せそうにこぼす。
こわい、その笑顔は怖い。
「ご主人様、大好きでございますわぁ――」
「おま――」
とろけるような、それでいて背筋をぞわっとさせる不吉な笑みを浮かべるレアが、俺へと飛びついてくる。
「それでは、お母様からいろいろお薬頂いちゃいますわ」
「ほどほどにしろよ?」
「あら~ぁ。ご主人様もどうです?耳元でドリルの刷り切れる音を流しなら、ゆっくり首筋を電のこで削るのは。いつふとーい血管が出てくるのかお楽しみですわあ」
「っ――」
耳元でそんなことを囁いて、俺の首筋を舐めてきてくれやがる。
それが想像とマッチしてしまい、ぬるっと嫌な感触を覚え背筋がぞわっとした俺は、ついレアを突き放してしまう。
なにか危害を加えられたわけでもないが、舐められた首筋を抑え。
「やめろよ」
「あら~、それにカチカチ怖がる様子がよろしいというのに。お母様のお薬でトリップさせたらさぞいい悲鳴を出してくれるのでしょうと思っただけですのよ?」
やめてくれよ……。
ほんとこいつは……。
拷問狂いも大概にして欲しい。
「レアちゃん」
「あら、白いお母様もこわいですわ~。怒られる前に先においとまします~」
エリーゼに睨まれたレアも、フレデリカ同様に逃げるようにして広場へと去っていく。
「お母様になった覚えはないんだけど……」
まあ、なあ……。
ただ、名前が自分の母と同じと言うだけで母にされてしまってはたまらないだろう。
エリザベートはともかく、ああいう気質な奴はエリーゼは苦手なタイプだしな……。
言うことを訊かない以上どうしようもないが……。
ホント、赤薔薇連中はどうしてこう優柔不断なのか……。
………。
そう言えば、フィーはどうしたんだろうか?
あいつなら、ここに入りこまれた時に誰よりも先に乗り込んできそうなものだが……。
やはり、ただの行方不明ではなさそうだ。
かと言って、こちらから探るすべはないし……。
「お兄ちゃん?」
「あ、いや――」
「ワタシはどうしたらしい?」
「んー。いつも通りかな?エリザベートを見守っててくれ。今回のこともそうだけど、多分次があるならあいつを止める奴が必要だろ?」
エリザベートは感情的になりやすい。その感情は強くて、俺を思ってしてくれているのは分かる。
だけど――だから、危うい。
今回はたまたまクリアが止めてくれたからいいものの、あそこでクリアが止めていなければ庭園が吹っ飛んでいた可能性だってある。
そうならないために、
「つぎからは何があっても遠慮なく止めていいから。これはお兄ちゃんからのお願いだ」
遠慮しがちなエリーゼだから、今回は戸惑ったんだろうけど、次からはそういう訳にはいかない。なにせ、暴走したエリザベートを止めることができるのは、例外を除いて力ずくならばエリーゼしか不可能なのだから。
なにより、もともと彼女はそう言う役回りだ。エリザベートとエリーゼは二人で一人前だから。そこは二人で補っていって欲しい。
まあ――流石に酷いようなら、俺も止めに入るけどな。
「わかった。――えへへ、お兄ちゃん」
笑顔で頷くと、エリーゼが腕へと抱き着いてくる。
「なんだ?随分ご機嫌だなどうした?」
「えへー、なんでもない。いこ」
俺にお願いごとをされたのがうれしいのか知らないが、エリーゼが俺の腕に抱き着き引っ張り進む。
普段は大人しい感じに若干戸惑いながらも、エリーゼに引かれ、俺は広場へと進んでいく。




