060
一番近くに居るエリザベートとエリーゼの二人が俺を心配して伺うが……。
大丈夫、そう俺は返すことしかできない。
「そんで?どうするの?」
そんな俺をよそに、ローザは早く早くと急かさんばかりに言ってくれる。
「クリア、全員の手当てが終わり次第、扉の大広間に全員集めてくれ。4人の魂を導いてあげないと」
ここでは魂は四散しないし輪廻の輪などには当てはまらない。役がない彼女達は理なんてものからとうの昔から抜けているのだから。
だから、そのままだと無限に時空の中を漂い続ける羽目になりかねない。そんなこと、させたくない。
それは誰も永遠に自分に気づいてくれいないような。孤独の地獄なんだから。
そんなことさせない。
そうならないよう、俺は彼女達を眠らせる。永遠の幸福の中へと。二度と残酷な結末を送らない幸せな夢の中へと。
暖かい夢の中へ魂を送る。
「承知いたしました。では準備を――」
「あっ待った。その前に――エリザ、クリアの手を治療してやってくれ。もちろん魔法は使うなよ?」
クリアの手は包帯に包まれたままだ。
それも、止血程度しかしてないあら治療で。包帯も既に血が滲み真っ赤に染まっている。
傷もそれなりに深いはずだ。
それを放っておくわけにもいかない。このままだとクリアはそれをそのままにして普及作業をしかねないから。
ともなれば、先にそっちの治療が先だ。
ただし、魔法が嫌いな子に魔法で治療なんてするわけにもいかないから、使わない治療で。
その辺は、まあエリザベートに任せれば大体大丈夫だが……。
「御意」
断ることはなく、かしこまってエリザベートが頭を下げる。
あのケガなら張り数本縫うぐらいで済むとは思う……。
あとは、傷が残らないようにとエリザベートの腕を信じるしかない。
「クリア――行くわよ。アトリエは無事なのよね?」
「はい。先に他の者に連絡をしますので少々お待ちくださいまし」
そう言うと、クリアの周りを浮遊する花弁は複数に増え、それが空へと舞い広がって飛び散る。
「では――」
そう言って会釈するとクリアはエリザベートと庭園の奥へと歩いていった。
「さて、アタシはどうしようかしらぁ?」
「どうしようじゃないだろ?広場で4人を見送った後、お前は復旧組だ」
「え~」
「えじゃない」
「バカみたいバカみたい、そんなにムキにならなくてもいいのにぃ」
そういたずらじみた笑顔で言うと、フレデリカは広場の方へ逃げるようにして走っていく。
おちょくってはいるけれども――あれはあれで俺への気遣いだろうか?
相変わらず、掴めない奴だ。
「ねぇえ――ご主人様ぁ」
「ん?」
「ネズミが一匹入り込んでるみたいだけど?」
レアが俺へと迫ると、ローザが頭の上からそんなこと言ってくれる。
「ネズミ?」
「そう。そのネズミどうしますかぁ」
ねっとりと目を細めている言うレアは何かを待ちどうしそうにして、俺へと訊く。
こいつ……。
にしても――ネズミか……。
ネズミ――つまりは侵入者がまだいるようだ。それ自体はまあいいのだが、誰が?
他の王達は間違いなく逃げおおせたはずだ。なら?
何かはしらないが、いちいちチョロチョロ嗅ぎまわられのも鬱陶しいな
それに、こうも期待されてもな。
まだかまだかと待ちどうしそうに、餌を目の前に待てをされた尻尾を振り乱す犬のようにように待つレア。
これは重傷だな……。
やむを得ない、か。