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正しき魔王の旅記  作者: テケ
1章 偽善ジャスティス
15/175

015

 結局、僕たちは騙されることはなかった・・・。


 おっさんについて行った僕たちは、何がどういうことなのか分からないまま、城?の中に案内されて、そこからおっさんが今日はもう遅いのでということで、どこからか来たメイドさんについて行くように言われた。言われたのち、僕と少女は言われるがままに警戒しながらメイドさんの跡をついていった。


 正直、少子抜けなぐらい僕たちを捕まえるようとする素振りもなければ、牢などの怪しい場所へ案内している様子もなかった。本当に本当に、妙な気分だ。ついさっきまで、あれだけの扱いであったのに、急にこんななんの害のない扱いを受け、僕はもちろん少女も戸惑っている様子で、メイドさんの後に続いた。


「では、この部屋でお休みになってください。衣服などは、申し訳ありませんが明日の用意にさせて下さい」


「い、いえ・・・」


 言ったメイドさんは部屋の扉を開け僕に頭を下げ、ついつい、僕もつられ頭を下げてしまう。


「では」


 メイドさんはそれから去っていった。


 本当に何もなかった。警戒していた体がスッと楽になった気がして、軽くなった感じがした。相手がメイドさんに代わっても、どれだけ自分が警戒していたのか分かる。


 そうまで、僕は警戒していたのか・・・。気がっているというより、なによりも敏感になっている感じだった。


 はあ・・・。溜息すらもれる。緊張は解れ、僕は開かれた扉の先を見た。


 部屋は豪勢なホテルのみたいな部屋と言えばいいのか?石レンガ造りや置いてある家具などにファンタジーを感じるけれども、凄くいい部屋に見えた。なによりも、二つあるベットはふっかふかなのは見るだけで分かる。


 ベット・・・ベットだ・・・。


 ベットがこれほど恋しいと思ったのは初めてだ。


 僕は部屋の中に入り。ベットへと迷わず向かい倒れこむように、ベットへと飛び込んだ。


 ぼわっと僕の体はベットにバウンドして、弾み寝ころんだ。柔らかいベッドが僕の体を包み込む。柔らくて、気持ちい・・・。こんなにもベットというのは気持ちいいものだったのか・・・。どっと疲れていた全身が、重くなった体が、溶けていくような、そんな感じで僕の体はベットに包まれる。すごく、心地よい、気持ちい。動くことすら嫌になるぐらいに、僕を束縛するように、掴むように。安心する。


 僕は体を転がして仰向けになる。


 背中が包まれるように埋まるのを感じる。


 僕はベットを見た瞬間に何も考えずつい、本能的にベットにダイブしてしまったが、ずっと僕の後ろを寄り添うように着いてきていた少女はどうしているのか見た。


 少女も僕と同じように部屋に入いっていた。ただ、少女は僕のようにすぐにベットにダイブすることなく、近くのテーブルの前に立って引き出しの中を物色していた。


 なにしているんだろう?ふと思い、横目に引き出しをあさる少女の手元を見つめる。なにか、探しているようなその手つきは、机の引き出しを、二、三個開けガサガサと漁り、一つの引き出しを漁り終えると手を止めた。


 何か見つけたのか?横目に見て、呑気にそんなことを思う僕だが、だんだんそんなこと良くなって眠気が来て、のんきにあくびすらしてしまう。


 そんな、すでに眠りそうな僕をよそに、目的のものは見つかったのか少女は何かを手に握り、僕のベットの前に立った。


 どうしたんだろうか?とりあえず、今日はもう安心していいから、もう休んだ方がいい。明日何があるか分からないのだから、休める時に休んだ方がいい。


 不思議に思える少女の行動に、そんなことを思って少女が持ち出したものをふと、僕は見た。


 ナイフ?


 なんでそんなものを持ってきたんだろうか。手紙を切る時に使うペーパーナイフが片手に握られていた。


 そんな、僕が不思議に思っていると――少女はおもむろに片手で抑え自分の体を隠していた布を離した。


 ばさりと布は落ち、何もまとわぬ裸体が露になり。


 ――白く、細い、牢で見た時とは違う、綺麗な体が窓から入る光に照らされる。


 そして――少女は僕のベットに入り、僕をまたぎ座って、マウントを取る。


 そのまま、小ぶりに育った胸など、大切な場所も隠さず、少女は持っていたペーパーナイフを両手で僕の喉元に突き立てた。


 ・・・。


 これは、一体どいういう状況なのか・・・。


 疲れて、今にも寝てしまいそうな僕には、理解しがたい状況になった。


 命を助けてそのまま、一緒に牢を脱出して、一度は僕も少女に助けられた身のなのだが、何故、いまこうなるのだろう。まったくかいもく見当もつかない。考えてみても、心当たりはない。――という訳ではないが。あるとすればミレアとの契約ていど。具体的な詳細はまだ知らないけれども、ていか状況が状況だったので、提案にそのまま乗ってしまったので、細かい条件を僕もわかっちゃいないが。――思い当たるのは、ミレアとの契約の『少女は僕を離れられない』しか思い当たらなかった。けれど、これは少女が死んでいた状態の時話、彼女は聞いていな。


 だから、心当たりはあるが、それはありえなかった。


 そもそも、一度は助けてくれた少女が何故いまさら僕を殺そうとするのだろうか・・・。


 生き返らせた、僕でも恨んでる――?


 そんなはずがない、もし生き返りたくなかったのなら、僕との脱出は拒むはず、その場で僕を殺しにかかってもおかしくない。


 いまさら、僕を殺そうとする理由は僕には分からなかった。


 けれど、それがどういう理由であれ、いま少女がしていることは無駄な事だ・・・。


 僕は――死なない。


 確かに、普通の人間であれば、たとえペーパーナイフでもあれば喉元に刺されば死ぬだろう。普通ならば殺せるだろう。


 でも、僕は普通じゃない。――あの牢で、数日間で僕は嫌と言うほど思い知った。


 どんな、傷を受けても、僕は死なないのだから。


 だから、この程度では死なない。ミレアの加護はペーパーナイフ程度で刺されたところで、簡単に傷を直す。それは、どこに刺さろうと同じだ、喉だろうが、頭だろうが、心臓だろうが、変わらない。僕の傷を容赦なく加護は直してしまう。


 無駄なことだ・・・。けれど、多分そのことを少女は知らない。だから、逃げる時に僕を襲う兵士に氷を飛ばしたし、今こうして僕の喉元にペーパーナイフを突き立ているのだろう。


「無駄だよ・・・」


 僕はペーパーナイフを喉に突き付けられたまま、つぶやく。真剣に、僕を見つめ、突き立てる少女に言って、そのまま、右手をペーパーナイフを握る両手にかけた。


 震えている・・・。


 見えない位置にある、その両手は震えていた。


 それなのに、なんで、そうするんだ?――僕には分からない。けれど、これは、彼女がしているのことは間違っている、僕はそう思った。これは、僕の為にも、彼女の為にもならない。だれも報われないし、徳もしない。


 僕は死なないし、彼女は僕を殺せない。なんの、意味もない。


 それに、もう僕は彼女につらい思いをさせたくない。だから、


「キミは絶対に守るから、安心して」


 なんの脈絡もない、けれど、これが僕の今の精一杯の気持ち、難しい説得や道徳なんて語れない。僕の精一杯。


 きっと、勇者や英雄だったらもっとカッコイイことまでもかけれるんだろう。でも、僕にはそんなそんな言葉浮かばない。器用に人を掻き立てる言葉なんて言えないし、考えられない。


 だけども、この気持ちは誰にも負けない。


 今まで、いくつもの人助けをしてきたけれども、ソレは全部その場の流れや反射的な事に過ぎなかった。けれどここまで、真剣に一人の人間を助けたい、守りたいなんて思ったことなんてなかったのだから。


 僕のありったけの、全てを捧げてもいいと思う。この思いは誰にも負けない。


 そんな、僕の気持ちが通じたのか、少女の眼はうるみ初めた。


 金色の瞳から涙が流れ、僕の喉元にあてていたペーパーナイフを外し、だらりと両手を下ろし、ペーパーナイフはベットの下に落ちた。


 少女は倒れるように僕の胸に覆いかぶさった。


 上半身裸の僕に、少女素肌の感触が伝わり、その柔らかさが、暖かさがすごく心地いい。


 少女が僕の首に手を回し抱き着き、僕もそれに合わせるように、僕も少女に手を回した。


「っ――」


 すすり泣く声が僕の耳元で聞こえる。


 僕は、この子が今まで何をして、どうして捕まったのか、どうして僕を殺そうとしたのかは分からない、


 名前も性格も、


 年も、


 好きなものも、


 嫌いなものも、


 したいことややりたいこと、


 ――何も知らない。


 けれど、それでも、僕は守りたい――、


 そう思ったから、言葉にできない、気持ちの代わりに僕は少女を強く抱きしめ、肌と肌が触れる暖かさとぬくもりで、僕すらも安堵して目を閉じた。


 彼女のすすり泣く声を子守歌のように、僕の意識は眠りへと落ちていく。


 最後に、最後に聞こえたのは、




 ――ありがとう。




 そんな呟いた、初めて聞いた少女からの言葉だった。

この先、素早く読みたい方は028に飛ぶことをお勧めします

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