058
俺とエリーゼは立ち上がり、俺は治った腕を振り感触を確かめてフレデリカの問いに答える。
「それでもしないと、野郎――俺と敵対する気なんて起こさないだろ?だから不快にしたし、途中から手を抜いた」
「バカみたい。わざわざ敵対する意味なんてないのに……?」
「いや、意味はある。そうでなければならない。アイツは俺の敵である必要があるんだ。それに――味方なんかには決してなれない。アンジェ――あの子の場合、フィーの姉の子供と言う時点でアウトだ。大体、赤薔薇の素質があるってだけでダメだろ?その理由はお前たち三人なら分かるだろ?」
「そうね……不可能ね……」
俺の言葉に、三人とも視線を落とす。
フレデリカの言葉同様、ソレは不可能だとクリアもレアも同じことを感じている。
なにせ――フィーは絶対に姉を許さないのだから。
その子供などあってはならない。
未来永劫フィーは決して自分の姉に関係する者は全てを嫌っている。
フィーは誰よりも独占欲が高いから。赤薔薇が自分以外存在することは決して許さない。
赤薔薇という称号。存在その物は自分だけでいい。それどころか俺に恋焦がれているのは自分だけでいいと、それを侵すならばそいつらは全員殺してしまえ。本来ならば彼女はそう思っているぐらいなのだから。
故に、本来ならばここに居る三人の申子は守護者になりえる存在なのに関わらず、この三人に関しては特別に守護者ではなくそのまま他の申子とこの時空庭園の管理を任せている。
きっと、フィーは三人のうちだれであろうとも赤薔薇の守護者になれば殺し合ってしまう。
まあ、それはこの三人も同じで、そういう危うさをもっているからこそ赤薔薇なのだが……。
だから――だめだ。
そのアンジェを否定すればあの野郎は、アイツは間違いなく敵となるのは眼に見えるのだから。
なによりも……そもそも仲間になろうとなど俺がおもっていない。
だから敵対する。
「ですが……意味と言うのは?」
訊いてきたクリアに俺はさあととぼけながら、
「せいぜい真っ当になって帰ってきてもらうよ。野郎はまだなにも気づいちゃいない。覇道支配がなんなのか、その力の使い方も意味も。女神の力の制御に至っては器が足りなくてノックバックしている――そこは確かに仕方ないとはいえ、あれじゃあこの先やっていけない。死にものぐるいで強くなってもらわないと困る。物語は終わってしまう」
そうだ――もっと強く、強くなって戻ってこいと。
そうでなければ、ああして手加減し力の使い方を見せた意味がない。
これはアイツの物語であって物語のアイツは主人公だ。
だから――そうでなければならない。
俺が歌劇の主人公を詩乃に演じさせられるのならば、アイツには物語の主人公をやってもらう。
歌劇がエンディングを迎えるか、物語がエンディングを迎えるか……。
いずれにしても、俺は決して歌劇のエンディングは望んでいないから。
「陛下まさか……」
一人俺の目的に気づいたのか、エリザベトは俺に心配の瞳を向ける。
「心配するなって、俺だって退場する気はない。そんなことは決して許さない」
こいつらを置いて消えるなどできやしない。
「まあ、そう暗くなる必要なんてないさっ、俺が何とかするし」
瞳を伏せる彼女達に俺はそう言って笑顔を返す。
そうしていると、頭上から声が聞こえてきた。