050
「ほら――どうした?もっと突っ込んで来いよ」
力の差を見せつけられ、呆然とするオレを勇者が挑発し、それにオレはカチッと頭にくる。
けれども――どうする?
とは言え、今更考えたところで遅い。
オレはためらわず真っすぐ突っ込む。
「このおお!」
「そうだ!それでいい!」
飛び込んだオレが振るう剣と勇者の振るう剣が激突し舞う衝撃と金属音、その力強さにどちらも引きはしない。
一見、長い剣による二刀流で動きは鈍いかのように見える勇者だが、その動きは精密と、拳法を思わせるしなやかさでオレの剣のことごとくを捌いてくれている。
ただ――撃ち合いをしている中で分かるのは。一発、一発振るうそれは確かに重みのある剣だけども、勇者の剣には相手を倒すという勢いがない。
剣の動きは全てオレの剣を受け流すもの、完全に防御に徹していて勇者側からオレへ斬りこむということはいっさいない。
剣は剣で受け流し、ナイフは的確に避ける。
「この!」
まるで――剣道やボクシングの練習でコーチと約束ありで撃ち合うような感じ。
すべてが受け流されるし、勇者側から攻撃がくることもない。
その異常に、先に気づいたのはミレアだった。
「どういうつもり?きゃはは」
頭に血が上り、撃ち合う中でミレアがそう勇者へと漏らす。
「さてなあ?」
笑いながら振るわれる二刀の剣は、オレの剣を相殺し続ける。
いくども、いくども振り入れるもののもそれは決して勇者へと通らない。
「くっそ!」
ミレアと勇者のやり取りすら気にも留めず繰り返すが、それに嫌気がさしついには大振りに振りかぶって力腰に振り下ろすもソレは大きく弾かれ、オレの体は大きくのけぞった。
その時、もちろん大きなスキは生まれたのは間違いはなく。けれども――。
「どうして!」
体を無理やり戻すと、勇者へと再び剣を振り入れてその明らかな"もてあそばれている"感じごと力づくで振り払う。
そこで、その大きい振りを勇者は受けず一歩下がって、オレとの間を置いた。
「きゃはは――そういうこと」
そこで、ミレアが何かに気づいたようで。
「下がりなさい、少年」
そう言いだした。
「でも!」
下がりたくなかった、こうして遊ばれているのが気にくわなくて、一太刀でも一死無垢えたら、そう思った。
けれども――。
「下がるのよ――きゃはは」
真剣な眼差しでいうモノだから、仕方なくオレは勇者への追撃を止め数歩下がった。
「ミレア?どうして!?」
なにか思いついたのか、それとも。
そんなことよりも、止められたのがすごく腹正しくミレアに当たる。
なんで、どうして止めた。こんな奴を勇者だと認める訳にはいかないのに。
絶対に、倒したいのに。
それなのに――こうして遊ばれている。
それがすごくすごく腹だだしくて、ムカついて。
「少年――そこまでよ。きゃはは――」
「でも!」
こちらを見てニタニタと笑う、目の前のアイツが気にくわない。
それでも、飛び出しそうなオレを幽霊のように透けて現れ加護するミレアは止めるように杖を持たない左手でオレの肩へ手を止めた。
行くなと。待てと。
静かに目を瞑り首を振って。
くそ……。
その穏やかな表情でようやく。下がったものの再び飛び出そうとしたオレは踏みとどまった。